パーティ追放系異世界転生のトラックドライバー聖女
「・・もう一回言って?」
「だから、冒険者パーティを追放された後、トラックドライバーに転職して、轢き殺した相手を異世界に転生させてる聖女だって」
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なんだそいつは。
冒険者仲間から聞いた話はオレの理解のできる範囲を超えていた。
まずトラックドライバーってなんだよ。
「トラックドライバーは、あそこにあるクソでかい鉄の箱をものすごいスピードで動かす特殊技術を持ってる連中の総称だな」
「何でお前は知ってんだよ」
「そりゃ、本人に聞いたからな」
本人って、聖女本人か?
「そう。色々教えてくれたよ。皆から遠巻きにされてるせいで会話に飢えてるらしい」
そうかよ。まぁいいや。で、その鉄の箱で轢き殺してるってなんだよ。誰をだよ。
「害獣だの魔物だのに決まってるだろ。聖女様はトラックという神具をもって、俺たちみたいな平民をお救いくださってるんだぞ」
言われて奇ッ怪な鉄箱を見やる。
そこかしこに、わりと新鮮な血が赤くべっとり張り付いていた。
「本当に神具か? オレには悪魔が遣わした闇の道具にしか見えん」
「あれはデコトラといって、わざと奇妙な装飾をすることによって、近寄ってくる外敵を威嚇するのが目的だそうだ」
そこじゃねえよ。問題は。
「じゃあ、あの血はなんだよ」
「さっき野盗を十人ばかり轢き殺してきたらしい」
人間轢いてるじゃねえか。宗教家なら改心させろよ。まずはよ。
「野盗は魔物であって慈悲は無いと仰ったぞ、聖女様は」
「本当に聖女か? それ」
「お前、疑り深いな。ほらこれ、小鬼の角」
なんだよ薮から棒に。
こんなもん渡されてどうしろと。
「いいから、トラックに投げてみ」
言われた通りに投げ当ててみる。
バヂィッ!! と凄い音がして、角は跡形もなく焼けこげた。
「おいおいおいおい」
死ぬぞ。触ったヤツ。
「あれこそが、聖女様だけが神様から賜った力、結界だ。邪な事物を拒絶する壁だよ。ほら、本当に聖女様だろ」
分かったけど。
オレの思ってた聖女様のイメージと違う。
「俺も最初は驚いたけどよ。でも街の外壁にもアレが展開されてるんだぜ。皆を守ってくれる聖女様、バンザイだよな?」
言われればそうだけど。
「ていうか、疑問なんだけど。こんだけ有能ってはっきり分かる聖女を追放したパーティ、どうなってんのよ」
「お前、とんでもない速さで動く鉄の塊と一緒に居て、吹っ飛ばされない自信あるか?」
「聞いたオレが悪かったよ」
そうだ。あと一つ聞いてなかった。 異世界転生ってのは何なんだ。
オレは話を逸らした。
「あぁ、聖女様が轢き殺した相手のうち、人間は人生をやり直させてもらえるらしい。こことは違う世界で生まれ変わるんだと」
人間って言っちゃってるな。野盗のこと。
「聖女様は、野盗ひとりひとりに『生まれ変わったらどうしたいか?』を聞いて、希望通りの世界で更生させているんだそうだ」
そりゃまた、とんでもない話だな。
その調子で世界から悪人を減らしてもらいたいよ。
「たいていの野盗は金! 酒! 女!しか言わないから見放されたあげく地獄みてえな来世に放り出されるみたいだけどな」
やり口が悪質すぎる。
オレは心のなかで野盗たちに合掌した。哀れごろつきども。
・・・奴らにロクでもない目に遭わされたのは一度や二度じゃきかんから、同情はせんが。
「ところで、これも聖女様に聞いたんだが、トラックドライバーはどうやら人手不足らしいぞ」
「まぁ、そりゃ、あんだけデカイ絡繰を動かすスキルを持ってるやつは早々いないだろ」
「でだ、こっからオイシイ話。今ならトラックの動かし方を教わりながら給金も支払われるとかいう、詐欺みてーな人材募集をかけてるらしい。一緒に行かね?」
「そんな話があるなら、もう誰かが食いついてるだろ。詐欺だよ」
詐欺だよな?
「いや、どうも本当っぽいんだよな。ほら聖女様って、いつも血まみれの修道服だから、誰も話しかけないし、みんな知らなくても不思議じゃないぜ」
逆にお前、そんなヤツによく話しかけたよな。
どうなってんだコミュ力。
「で、肝心の給金はいくらなんだ?」
「月収40万ゴールド。年二回のボーナス付き。トラック実習が半月間。今なら聖女の加護つきトラックを貸し出し」
「よし、乗った」
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その後、小鬼が街道でうっかりトラックに轢かれて蒸発する事故が多発したため、小鬼の王は街道とゴブリン道の交差点に信号機を設置する仕事に追われたそうな。
おしまい