お嬢様と今度こそダンジョンで修業します(3)
「あ、あのね?わたくしもね?ここまで早いとは思わなかったですわよ?思ったよりサクサク進んでしまったから……ついね?」
私の視線に耐え切れなかったようで、焦って言い訳じみたことを口走り始めました。
「だ、だって、『赤』のダンジョンですのよ?もっと強いモンスターが出てくると思いましたの!それが、何の手ごたえもなく、レベルだけが上がるなんて誰も思いませんわよ!レベルが上がるせいで、さらにモンスターが弱く感じてしまうし……」
何も言わないままでいると、上塗りをし始めました。
「……そうですわ。『赤』なのにここが弱いのが問題なんですわ。帰ったら、父様に『緑』にしてもらわなくては……」
「それはやめてください」
物騒なことを言い始めたので、流石に止めました。
「ここのランクは間違いようもない『赤』ですから。リゼお嬢様が異常に強くなりすぎただけです。一般の冒険者を巻き込むのはやめてください」
「……」
「無言で睨むのもやめてください。……そのお顔も可愛いですね」
「……はぁ」とリゼお嬢様の口から、大きなため息が吐き出されました。
「この階段を上がれば、最後のボスですわよね?」
「そうです。ドラゴンがいます。リゼお嬢様の期待に応えてくれればいいですね」
「……冗談ですわよね?」
私は本気で心配しているのですが……。
リゼお嬢様も強く否定できなくなっているじゃないですか。
「と、ともかく行きますわよ!」
さっさと早足で、階段を上がり始めました。
取り残されないように、後をついていきます。
リゼお嬢様は、階段の先にある扉の前で待っていてくれました。
「開けますわ」
開いた扉の向こうには、青空が広がっていました。
頂上には屋根がありません。ドラゴンが空を飛ぶのを邪魔しないように設計されたのでしょう。
「あれ?なにも居ませんわね……」
辺りをキョロキョロしながら、真ん中へ向かって歩いていきます。
……リゼお嬢様は、ここのボスがドラゴンということを忘れてしまったのでしょうか。
「そろそろですよ」
「え?」
その時、地面に大きな影がうつりました。
バッと見上げると、そこには大きな翼を広げ、まるで強者のような風格でゆっくり降りてくるトカゲがいました。
「……シャノン?」
「何でしょうか?」
「今までと差がひどすぎません?」
「リゼお嬢様なら大丈夫ですよ」
「えぇ……」と言いながらも、すでに拳に深緋が付与されています。
リゼお嬢様も冒険者になりましたね。
グゥオオォ!!!
空気がビリビリと震えます。
うるさいですね。
リゼお嬢様が、ドラゴンが吠えると同時に、駆けだしました。
今までだと、モンスターが反応できないまま吹き飛ばされて、そのまま倒してしまっていたんですけど……。
ドゴォッ!
おお!リゼお嬢様の拳に耐えています!
普通に生活している限り聞くことのない、ものすごく鈍い音だったので心配でしたけど。
流石『赤』のボスですね!
リゼお嬢様の表情も、驚きながら嬉しそうにしています。良かったですね。
さあ!今度はドラゴンの反撃です!
今の一撃で危機感を持ったのでしょう。口を大きく開きながら翼を羽ばたかせ、空へ逃げていきます。
安全圏からブレスで一気に終わらせる魂胆なのでしょう。
まあ、空が安全圏と思い込んでいる時点で、ダメですけど。
ドラゴンの口が光り、リゼお嬢様がいた場所にブレスを放ちました。
ビリビリと衝撃が私のところまで届きます。
……威力はまあまあですね。
ブレスを放ち、リゼお嬢様を消し飛ばしたと油断しているドラゴンが、ボゴオォという音とともに、地面に沈みました。
もちろん、リゼお嬢様の一撃です。
自分のブレスの光で見えていなかったのでしょう。
ブレスを放つ瞬間にドラゴンの後ろ側に回り、頭上を越す高さで飛び上がり、油断しているところを、ガツンと殴り落としました。
赤、青、黄の基本色すべてを混ぜた三色混合に加え、レベル400越えによる力業ですね。
数秒ほど待っても、ドラゴンは動き出しません。
ああ!キラキラした粒子になって消えてしまいました。
ドラゴンも今のリゼお嬢様にかかれば、力業でどうにでもなる空飛ぶトカゲにしか過ぎないということが、証明されてしまいました……。
「……や、やっちゃいましたわ」
トカゲがいた場所を見ながら、ぽつりとこぼした声が聞こえました。
これは、やっちゃっていますわ。
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