お嬢様と早速ダンジョンで修業します(仮)
「本日は、白のキリツで実際に戦闘したいと思います」
私の『一肌脱ぎます』宣言から数日たちました。
リゼお嬢様が学園に通い勉学に励んでいる間に、ダンジョンで戦闘するのに必要な準備をしていました。
学園から帰ってきたリゼお嬢様と組手をしたり、ポーションや緊急時に使用する脱出魔法具の準備をしたりですね。
まあ、ビギナー向けのダンジョンで上層までしか下りないので、ポーションや脱出魔道具は本来必要なかったのですが……。
どこぞの親バカが『私の懐からいくらでも出すので、万全を期すように』とおかしなことを言い出したので、仕方なくです。
「今から白のキリツに入りますが、上層までしか行きません。リゼお嬢様の初戦闘ですから」
「もちろんですわ!」
ふんすと興奮していますが、冷静な判断ができているようです。
素晴らしいですね。
「最初はわたくしだけで戦ってもいいですか?自分で調べた知識とイメージトレーニングの方向性が合っているか確かめたいのです」
なんと素晴らしい!
自然と自分で試行錯誤することができています。
人によっては、これを身に付けるのにとても時間が掛かりますからね……。
「わかりました。危険や無茶だと判断した場合に介入します」
早速、ダンジョンに入ります。
序盤のモンスターと言えば某RPGの影響でスライムと思うかもしれません。しかし、スライムはシルバーの冒険者でも苦戦します。なにせ、プルプルな外皮の中のコアを壊さなければならないのに、そのコアに武器が届かないことがあるのです。
プルプルの外皮は衝撃を吸収し、中途半端な威力では、コアに届かず途中で止まってしまいます。ハンマーなどの武器で叩きつけても、外皮が散るだけでコアは無傷なのです。
さらに上異種になれば、動きも素早くなり、外皮をドリルのように飛ばし、かく乱しながら襲ってきます。そこらのモンスターよりはるかに面倒くさくなります。
……熱がこもってしまいました。
ここでの序盤のモンスターは、四足歩行の犬型です。名前をバークドッグと言います。大型犬くらいの大きさですね。セントバーナードを想像してもらえれば早いと思います。
特徴としては、素早い動きであるものの攻撃手段が爪と牙しかないので攻撃を見切りやすい点と、その名の通り吠えて聴覚を麻痺させにくる点ですね。
視覚に影響はないので、バークドッグとの戦闘に支障は少ないです。
ダンジョンに入って5分ほど歩くと、早速、バークドッグに遭遇しました。
「いきますわ!」
リゼお嬢様の拳に三色混合の付与である深緋<ふかひ>が宿ります。
これで、攻撃力、防御力、機動力が一気に上昇します。
「はあっ!」
リゼお嬢様が駆けだしました。
強化されているので、ものすごい速さになっています。
目の前から消えました。
パン!
破裂音が聞こえたと思ったら、バークドッグの姿が消えていました。
「……シャ、シャノン?」
戸惑ったリゼお嬢様可愛いです!
……現実逃避はよくありませんね。
バークドッグの姿は消えたのではなく、リゼお嬢様が消し飛ばしました。
……いや、私もここまでするつもりはなかったんですよ?
放課後という短い時間で、教えたことをどんどん吸収するのが楽しすぎてですね……。
だって!三色混合が、教えて二日目でできるとは思わなかったんです!
体の動かし方や付与のコツを、ついつい、教えすぎてしまったんです!
リゼお嬢様との組手のレベルを上げていくのが楽しかったんです!
後悔も反省もしていません!
「ここのレベルでは、リゼお嬢様の拳には耐えきれないようですね」
当然です、という顔をしてリゼお嬢様に話しかけます。
「だ、だって!消し飛びましたのよ!」
「まあ、三色混合ができている時点で、青のダンジョンでも大丈夫なくらいなので。このままレベルが上がれば、赤までは余裕になります」
私の言葉に「噓でしょ……」と呆然としてしまいました。
噓じゃないんです。これが現実なんですよ、リゼお嬢様。
「次は赤のダンジョンの弱い方から進めていきましょう。それ以下だと、ごり押しできてしまいますから」
「……そうですわね」
その後は何の問題もなく、『白のキリツ』のダンジョンボスであるバークドッグキングを倒しました。
もちろん、一撃です。
レベルが上がっているはずですが、今のお嬢様には聞かない方がいいですね。
こうして、リゼお嬢様のダンジョンデビューは、たったの15分で終わってしまいました。
※
「というわけで、私のランクをダイヤまであげて下さい」
目の前に座っている人物に、リゼお嬢様の素晴らしきダンジョンデビューを要約して伝えると、「……そんなことある?」という言葉が小声で聞こえました。
「いやー、お宅のお嬢様は素晴らしい才能をお持ちですね。私もついつい、教えすぎてしまいました」
「ついついのレベル超えてるよね!」
煽ててもダメでした。
「私と組手ができてる時点で、黒のダンジョンでも大丈夫だとは思いますけどね」
「……本当に世界を救っちゃうの?」
「できそうですね」
王が大きなため息をつきました。
「いいじゃないですか。突き抜ければ下手に利用されなくて済みますよ?」
「そうなんだけどさー」
納得のいかない顔ですね。
「ランクの件、お願いしますね」
「はぁ。わかったよ」
さて、用は済んだので退室します。
次のダンジョン楽しみですね!
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