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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真っ赤な衝撃音

作者: 佐藤和義

自殺って、衝動的だと思うんです。

 宗教は悪か。否、悪ではない。

 齢い16の乙女にはよく分からないが、宗教は救いになるらしい。少なくとも悪ではないと思う。


 貧乏は悪か。否、悪ではない。

 月々のお小遣いの値段で張り合う奴らが気に食わないだけで、貧乏でも生きていけない訳ではない。だから悪ではないと思う。


 無知は悪か。そう、悪である。


 簡潔に振り返る。


 父親は詐欺に遭い、父さんのやっていた会社は倒産となった。父さんだけに。笑えよ。


 母親はある日、老婆らに釣られて新興宗教の仲間入りをした。奴らは仲間になりたそうにこちらも見ていたが私はコマンド:仲間にしないを選択した。壺を投げられた。それは魔王を倒すことを担保に全てを許された勇者のやる事だ。


 貧乏となった家。失業した父の努力も虚しく母の献金の為の借金で燃える火の車となった家計。すれ違い通信を続けた両親は皿を3枚割ったがそれでも三行半は書かない。


 路端の猫が欠伸をしている。朝日に黄金の目が煌めく。今日は天気の良い日だ。私は路地に入ると平然として錆びついた螺旋階段を登る。


 カンカンカン。小気味良い音が早朝の冷めた空気の中に響く。先程の猫が付いてきたのだろうか。鳴き声が聞こえる。

 話の続きをしようではないか猫ちゃん。


 日に日に憔悴していく父親はそれでも偉大な大黒柱であった。まぁ、最後の方は大黒柱と言うよりはモヤシあるいはアスパラガスのような様相であったが。毎日せかせかと就職活動とアルバイトに勤しみつつ、狂った様に献金する母親にビンタをぶちかます。するとどうだろうか。世間様からはドメスティックなバイオレンスと認定され、他のアルバイトからはいい歳して何してんだと笑われ、なんとか漕ぎ着けた新たな就職先では3日も経たないうちに以前の詐欺に騙されたお馬鹿さんと判明してクビ。その翌日に宙に足浮かせて公衆トイレを事故物件にしやがった。


 では、母親はどうかというと。熱心な宗教家になったかと思いきやその宗教の開祖が幼女に乱暴して捕まった上に献金されたお金を使って麻薬密輸をしていたと新聞の一面に。縋り付いていたものが一夜にして崩れ落ちた母親も一夜にして崩れ落ちた。いや正確には110㎞/hで駆け抜ける鉄製12両編成のヘビに弾き飛ばされやしてね。


 2人とも迷惑を掛けずに星になりなさい。


 では、ここで問題です。

 螺旋階段を登り切った私は綺麗な眺めを前にうんと伸びをする。

 段々と朝日が照らし出すこの世界は今日を始めようとしている。

 カスみたいな一家で1人残された女の子は霞でも食べて生きていたのでしょうか?答えは否。


 諦めを感じましたよ私もさ。

 親ガチャ失敗からの残機ゼロ。将棋で言うなら詰み。チェスで言うならチェックメイト。借金取りから逃げた先では優しそうなお兄さんに一晩止めてもらえたかと思いきや貞操を美味しく頂かれまして、蹴っ飛ばしたら今度は外国人にハイエース誘拐。山中で腹掻っ捌かれそうになったけど、優秀な日本の警察が助けてくれた。でも、なんかもうこれ以上生きようと思うバイタリティはないし、無知の子は無知だと身に染みた。見てみぬふりしても傷が染みた。


 知らぬ街まで逃げようとここまでやって来た。

 リッター66キロの盗んだ原付だけれどガス欠になっちゃあおしまい。


 3時間前にコンビニ裏のゴミ箱から拝借してきたショートケーキをビニール袋から取り出す。

 封を開けてがぶりと口に入れる。最早甘いかどうかなんてどうでもいい。多少腐ってようが関係ないわ。もぐもぐしながら足を踏み出す。最後だもん。誕生日ぽいことしたかったの。


 まぁ、これで永遠の16歳だけれどね。


 じゃあなこの世。来世は超絶美少女金髪縦ドリルお嬢様でよろしく。ついでに猫ちゃんと執事もセットでつけといて。支払いはクソッタレな神様にでもツケといて。


 横断歩道でも渡るかのように私は一歩を踏み出した。

 スカートが捲れない様に下向きに落ちて。

 確実に天国を迎えるように。

 まぁ、お迎えが来るのは死神からだろうけれど。



 …といっても意外と長い。

 口元についたクリームをぺろりとなめる。あー、死ぬ前にフォアグラとか食べてみたかっ

皮肉なのは、結局のところ、彼女も人様に迷惑を掛けたっていうところ。

同じ穴の狢。

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