秘密の本音 ②
秘密シリーズの第二になります。
第一を見ていなくても大丈夫ですが、同じ人を出しているので楽しめるのではと思います。
手術室のことを少しでも分かってもらえれば嬉しいです。
私は看護師になって11年。
手術室で勤務して11年。
手術室は病棟とは異なり、特殊部署と呼ばれることが多い。
業務内容が病棟とかなり異なる点がある。
病棟の看護師は勤務のうち患者や患者の家族対応を行うことが業務の中でほとんどを占める。
しかし、手術室では患者の家族対応を行うことはほとんどない。
そして患者の対応をするとなっても、『麻酔』によって鎮静されている状態の患者の対応をすることが多い。
さらに病棟とは異なることがある。
医師対応である。
「おい!なんで手術のことわかってないやつが手術についてるんだよ!!」
手術室の外にあるナースステーションにいても医師の罵声が聞こえる。
「これって森田先生の声だよね?」
私はナースステーションで手術の雑務処理をしている後輩の大山に声をかける。
「そうですね。今日も大興奮中ですね。今日は・・・あー一年目の岸さんだから大大興奮してますね」
大山は今日の手術予定一覧表に記載されている担当看護師の名前を見て私に言う。
「なんであんなに興奮って・・・あの先生がああなるのはほとんど理由がないからねー・・・。とりあえず終わってから岸さんのメンタルフォローが必要だねー」
私が大山に言いながらも
「俺が言わなくても、何が必要か考えて渡せよ!!」
森田先生の声が聞こえる。
「一年目で何が必要か考えて渡せることができないって分からないんですかねー。奥さんでも無理でしょ」
大山が外まで聞こえてくる森田先生の声に反応する。
「まーそれが分からないから、いまだに医師なのに独身なんでしょ。分かってほしかったら言うしかないのにね」
私は大山と話しながら、手術が終わってから岸さんのフォローをすることを今日しないといけないリストに追加する。
「ぐす・・・ぐす・・・」
手術が終わって片づけをしている部屋から鼻をすする音が聞こえてくる。
部屋をのぞくと、森田先生に怒鳴られていた岸さんが鼻をすすりながら手術で使用した物品を片付けているのが見えた。
ウィーン
手術室の扉を開けて私が入っていくと岸さんが私のほうを見た。
「お疲れ様。大丈夫?」
と私が岸さんに声をかけると、ギリギリの状態だった岸さんがうわーっと堰を切ってボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「私手術室に向いてないと思います。あんなに昨日勉強したのに私今日すごい怒られて・・・。もう何を勉強したのかわからなくなって、後から考えたら先生に言われたこと全部勉強していたはずなんですけど・・・。先生に最後もっと勉強してくるように言われました。でもどうしたらいいのか分からないです・・・。今日の患者さんは私がつかないほうが良かったかもって思ったら、私やめたほうがいいんじゃッて・・・」
岸さんは今日一日森田先生の対応をしていて完全にメンタルをやられている。
「・・・・。まあ今日森田先生にめちゃくちゃ言われてたしね。そう思うのもしょうがないけどさー。でも一年目で一日最後まで森田先生につけたってだけですごいことだよ。私は森田先生に一年目の時に出て行け!交代しろ!って言われて本当に交代されたしね。他にはメス投げられた子もいるし。そう考えたらよくできたと考えようよ。」
こういう時は自分の失敗も含めてフォローをするしかない。そう思って私は岸さんのフォローを続ける。
「先輩もそんなんだったんですね・・・。ぐす・・・。でも・・・」
「一年目で完璧にできることはないし、最初の4月と違って、ちゃんと一人で手術につけるようになってるでしょ?成長してるよ!大丈夫!!」
「そうですか・・・?」
「そうだよ!とりあえず今日はゆっくり休んで明日またがんばろ!!もう日勤時間も終わってるし一緒に片付けするからさ!早く帰ろ!!」
岸さんはまだグスグスと泣きながら手術の片づけを再開し、私も一緒に片付けを手伝う。
手術室看護師は医師が気持ちいいように手術をしてもらう必要がある。
医師が気持ちよく手術をできるかで、患者の手術の良しあしにもかかわってくるからだ。
医師も人間。気持ちよくできなければ、気持ちがイライラしてそれがちょっとした失敗につながる。
だから手術室看護師は事前準備が大切になる。医師から○○を求められたら、すぐに「はーい。準備してまーす」と言えるようにである。それはまるで医師を手のひらで転がすかのように。
それと同じようにスタッフも転がす必要がある。
今は12月。
本音を言って、じゃあ辞めれば良いよというのは早いし簡単だ。
だが岸さんの指導を半年以上していて、今更やめられてもはっきり言って困る。
私は自分の本音を隠して、岸さんのメンタルフォローを続ける。
それは将来私がフォローをしてもらって楽ができるようになることを期待して。
そう私は本音を隠しながら、これからも働き続けるのだ。
こんなに性格の悪い看護師は少ないと思います!