吸血鬼は恍惚の笑みを浮かべる
「私は貴方の考えに共感出来ない」
勇者は原初の吸血鬼たる男の言葉を遮って己の考えを、意見を口にした。
勇者と原初の吸血鬼たる男には圧倒的な力の差が存在する。勿論、勇者ではなく原初の吸血鬼が上位である。
だというのに、勇者は原初の吸血鬼に意見した。
原初の吸血鬼の考えを否定した。
原初の吸血鬼の言葉を遮った。
これらのことがあれば原初の吸血鬼が短気だった場合、発言した時点で惨殺されていたとしても不思議ではない。むしろ当然と言えよう。しかし原初の吸血鬼たる男は勇者を殺さなかった。
(――あぁ、彼女は圧倒的な力の差を理解しながらも己の意思を突き通そうとするのか! やはり彼女は素晴らしい!)
原初の吸血鬼たる男は歓喜していた。己に逆らった幼き少女を見ている原初の吸血鬼たる男は心踊っていたのだ。
「へぇ、でも、僕は君を拐おうと思えばいつでも拐えるよ。それに、君を【勇者】という存在を求めてくれる人はもう居ないと思うんだけど、君は生きていけるのかな?」
しかし、原初の吸血鬼たる男はそんな様子を欠片も見せず、ただ冷静に勇者を己の元に来るよう勧誘する。
「拐おうとするなら最初から拐っている筈だ。それに、サバイバルなら心得てる。実際に魔王討伐までの道のりはほとんどサバイバル生活だった」
だか、勇者の返答を聞き、原初の吸血鬼たる男は勇者に聞こえないくらいの小さな声で舌打ちをする。
確かにさっさと拐っても良かったが本人の意思をある程度尊重したい、という思いから原初の吸血鬼は元から勇者を拐う気はなかったがためだ。
(さて、どうやって勇者を手に入れようかなぁ)
しかしこの程度のことで挫けるようでは原初の吸血鬼なってやってはいられない。故に新たに連れ帰る建前を考えようとしたその時、
「主さん! なんで俺を置いていこうとす"ん"の"ォ"!!」
泣きながら怒鳴るという高等技術を披露しながらこの国で文官だった男が現れた。
「ん?……あぁ、ごめんね?存在を忘れていたよ」
「酷くねェ!?俺の扱い酷くねェ!?」
「……??」
この国の文官なのに何故か居ないのだろうか、と思っていたであろう文官の男が明らかにヤバい原初の吸血鬼を“主さん”等と呼びながらやってきた様子を見て、今までずっと強気に振る舞っていた勇者は首を傾げている。
「文官、さん……?」
「あっ、ども~。国王が馬鹿みてェな看板立ててるのみて逃げ出した文官さんでェす♪」
「……!?」
「くっ、ははははは! めっちゃ驚かれてて笑うわァ」
勇者が何が起こっているのか理解できずに目を見開いたまま固まっている。男が一介の文官だった頃と態度どころか口調、声の高さすら違うのだから、勇者の反応は当然と言えよう。
「ん~僕としては僕のことで警戒はしても驚きはしなかったのに君がでてきた途端に僕が知らない表情をしだしたから、取り敢えず君を閉じ込めようかと思うんだけど、どうかな?」
「えっ、ナチュラルに監禁予告すンの止めねェ!? 普通に怖ェンだけど!!」
「ふふ。冗談だよ」
「絶対ェに冗談って雰囲気じゃなかったって! 目がマジだったって!!」
そして原初の吸血鬼たる男は冗談か本気かよく分からないことを言い出しながら楽し気に笑う。
しかしおそらく先程の発言は本音であるのだろう。とはいえ、勇者の困惑した顔が見れて嬉しいし勇者の緊張をほぐすことができたから、という理由で冗談で済ませて貰えている。
そしてそれを理解しながらも文官だった男もからかい半分で原初の吸血鬼たる男に抗議している。なんと度胸があるのだろう。しかしまぁ、文官だった男は勇者が今まで原初の吸血鬼たる男の前でしていなかった表情を見せてくれたことに感謝すべきだ。
いや、そもそも勇者が一切表情を変えなければ何もされない筈のだったのだから、勇者が表情を変えたことを恨むべきなのかもしれないが。
とはいえ勇者のおかげで命が続いている、というのは事実であるからか、文官だった男は「ありがとねー、勇者さん♪」と言いながら手を合わせている。
それに勇者は「どう、いたしまして……?」と首を傾げながら言った。おそらくまだ状況が理解出来ていないのだろう。
勿論、
(さて、ここから混乱した状態の勇者をどうあの手この手を使って引き込もうか)
などと考えているとある原初の吸血鬼がいたと知れば即座に無理矢理にでも心を落ち着かせたことだろうが。
「で、主さんは勇者さん引き込めたわけェ?」
「それがなかなか頷いてく――」
原初の吸血鬼たる男が、文官だった男の問いに答えようとした瞬間、
「「勇者が居たぞーー!!」」
農具や、剣、はたまた斧などを持った国民がこの部屋に押し寄せてきた。
「……ッ!」
「おや……」
「うっわァ!いっぱいいんじゃん……」
三者三様の反応を見せる勇者たちをみても、国民は勇者が無実の可能性等考えず、己の都合がいいように解釈する。
「おい、勇者が血黙りの上にいるぞ!」
「きっと勇者が殺したんだ!」
「っていうか横にいる奴魔族じゃないか!?」
「やっぱり勇者は魔王に操られてるんだ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
否、前半部分は事実だった。だがしかし、彼らは勇者が殺した理由が己にあるということに気付かない。それどころか国王が言ったことを信じた。
尚且つ、
彼らは勇者に害意を向けた。
彼らは勇者に悪意を向けた。
彼らは勇者に武器を向けた。
故に、彼らの“存在”そのものが原初の吸血鬼たる男の逆鱗に触れた。
だが原初の吸血鬼は理性を失ってはいなかった。
故に、演じる。
「おや、バレてしまったようですね。では、この者たちの相手をするのは面倒ですし、このまま帰りましょうか。魔王様」
――魔王に取りつかれたが故に、魔王同然となってしまった【元勇者】に従う魔族を。
「はっ……?」
それを勇者が理解出来ておらずとも原初の吸血鬼たる男にとってさほど問題はないのだろう。
まだ魔王様は人間の体に慣れていないのだ、などと言ってしまえば問題などないのだから。
「あァ~、そゆ感じでいくゥ?まっ、いっか……じゃ、魔王様!帰りましょうぜ!」
そして原初の吸血鬼たる男の意図に気付いた文官だった男も、勇者を魔王様、と呼び、従順な下僕を演じる。
「えっ、」
こちらもまた、勇者本人がどのような反応しようと構わないのだろう。己の主たる原初の吸血鬼が、勇者の様子に何の反応も示していないが故に。
「それじゃあ人間諸君。さようなら!」
「えっ、ちょ、」
そう言うや否や、即座に原初の吸血鬼がどうやったのか、背中から漆黒の翼を出し、勇者を抱えて開け放たれていた窓から飛び立った。
「そんじゃ、さようなら~」
それを見て文官だった男も原初の吸血鬼よりは小さいものの立派な翼を出し、己の主を追って帰ろうとしたところで、振り返る。
「あっ、そうそう」
「次、お前ら関係で何かあったら承知しねぇかンな?」
これにて連日投稿終了です!これからは1話目で説明した通り、月1以上を目指した不定期更新となります!
ブックマーク、評価等をしていただけますと僕が跳び跳ねて喜びますが、取り敢えずこの小説を読みたい、思ってくれるようでしたら嬉しいです!
これからも良かったらよろしくしてください!(?)