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勇者は警戒する

連日投稿2日目ー!!




 満月の映える夜、未だに己が造り上げた血の海から離れられなかった勇者は、



「ね、君が勇者であってるよね?」


「……だれ?」



 魔王と対峙したときに見た、魔王の(つるぎ)のように輝く黒髪をもち、今まさに勇者が立っている血のような色をした目をもった青年――“主さん”に出会った。






「僕かい?僕はルージュヴォリュプジェーナクルーシャフォーナ」


「……ルージュヴォリュプジェーナクルーシャフォーナ。私に何の用」


 勇者がルージュヴォリュプジェーナクルーシャフォーナと名乗った“主さん”を睨みながら問う。


「えっ、ごめん、さっき名乗った名前は嘘だよ。まさか1回で覚えられるとは思ってなかったんだ」


 “主さん”が勇者たる少女に睨まれながらもこんな軽口をたたく。


「……そう、まぁ、ルージュヴォリュプジェーナクルーシャフォーナが嘘だというのはどうでもいい。それで、何の用?」


 とはいえ流石に嘘だろうと予想していたのか、少し呆れ、その後すぐに元の険しい表情に戻った。


「うん、単刀直入にいうとね、」


 一度そこで言葉を区切った“主さん”を不審に思ったのか、勇者が軽く首を傾げた。




「人間たちと一緒にいるのは厳しそうだし、僕のところで暮らさない?」




(ッ!)




 ……勇者は理解していた。王宮の者を皆殺しにした己がもう人々に受け入れられる筈も無いだろうということを。


 故にそれはとても、とても、甘い誘惑だった。そして“主さん”の風貌が、表情が、伸ばされた手をとれば幸せになれると語っていた。


 だから勇者は一瞬彼がこちらに伸ばした手をとろうとした。



 だが、



「……魔族が何を言ってる」


 勇者は、目の前にいる“主さん”とやらが人間ではないということにも、気付いていた。



 だから勇者はその手をとらなかった。


 だから勇者は近くに放り出してしまっていた勇者たる証となる白銀の剣を手にとった。


 だから勇者は敵であると教えられてきた存在に、“主さん”に、剣を突きつけた。



「おっと~警戒されちゃったかな?でも、」


――君ごときに負けはしないし、戦うのは止めておこう?


 ざわり


 “主さん”がそう言った途端、その場が殺気で満ちた。


 戦闘に精通するものの殺気とは、その者の強さ、思考……その者を構成する全ての要素がうっすらでも表される。故に、



(どうやっても、どう戦いっても、例え相討ちを狙ったとしても)



(――勝てない)



 勇者は理解してしまった。目の前の男に、“主さん”にはどうやっても勝てないということを。


 勇者の手は震え、彼に突きつけていた剣を取り落とした。


「お前、は……()だ」


「何者だ、じゃなくて何、できたか。ふふ、あっははは」


 勇者の言葉に彼が首を傾げる。そうして、愉快で仕方がないというかのように笑いだす。


「僕は吸血鬼。原初の、ね。だから僕はたかが数千年しか生きていない魔王よりも強い。簡単だろう?」


 原初の吸血鬼、と勇者が小さな声で呟いた。


 魔族は種族ごとの違いは多少あれど、基本的に長く生きれば生きるほど強くなる。



 故に、原初の吸血鬼曰く、数千年“しか”生きていない魔王相手に手こずっていた勇者に敵う相手ではなかったのだ。






 ――だが、いくら人に忌み嫌われたとしても、どんな扱いを受けてきたとしても、勇者は“勇者”という存在である。だから、


(例え望まれなかったとしても、私は人間を守る)


 その思いが、勇者の原動力となり、



「原初の吸血鬼が、何故私を望む」




 原初の吸血鬼に対しても気高くあることができた。


 だがその声の震えを誤魔化すことは出来ていなかった。そんな勇者の様子を見て原初の吸血鬼は何を思ったか恍惚の笑みを浮かべる。


「やはり君は素晴らしい!人間に裏切られたというのに、まだ尚人間を守ろうとするその心!とても美しいよ」


 そう言った原初の吸血鬼に、何故今そんな話をするのか、何を行っているのか、勇者にはわからなかった。だから勇者は口を開く。


「何をっ、」


「――だからこそ、手に入れたい。美しき物を側におこうとするのは、当然の考えだろう?」


 原初の吸血鬼は、とても愛おしい物を見るかのような目で勇者を見ながらそう言った。


「そう」


 勇者が何か納得したような表情で呟き、



「なら、「私は貴方の考えに共感出来ない」」


 原初の吸血鬼の目をしっかりと見ながら、己の意見を口にした。




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