閑話:幸丸の石鹸づくり.1
連載はじめていきなり閑話がくるとは思うまい・・・
「若、今日はどちらへ?あまりいろいろ出歩かれますと我らがご当主様に叱られるのですが・・・」
「ん?興四郎か。炭屋と油屋じゃ。いろいろな種類の木灰と油が欲しいのじゃ。」
「木灰と油でございますか?なれば厨か蔵でよいのでは?」
「いろいろな種類で試したいことがあるのじゃ。カネならお爺様にねだって小遣いをもらったから心配いらん。行くぞ!」
「興四郎、若が止まらぬのはいつものことではないか。言伝だけして供をすればよかろう。」
「またおぬしは…本来ならそなたも若をお諫めする立場であろうに・・・」
「言伝を残すなら早うせい。さっさとせんと先に行くぞ!」
さて、今日は予てよりやろうと思っていた石鹸づくりをしようと材料を仕入れに行こうとしたところで、例のごとく側仕えの興四郎と彦次郎につかまってしまった。
この興四郎と彦次郎は我が家に仕える供御人の兼倉氏と音馬氏のそれぞれ嫡男で、要するに俺の用心棒兼見張りだ!笑
興四郎は実家の兼倉氏が宿を経営しているせいか、世情に明るく算盤も得意なため重宝しているんだがちょっと細かいところがあるのが玉に瑕…
彦次郎は我が家に馬を供する音馬氏の嫡男で、興四郎とは違い‥何というかおおらかだ(婉曲的表現)。無論バカとは違うのでこれも使い勝手が良い。
この二人と、もう一人世話役の白川のお爺がいるんだが…そういえば今日はまだお爺の姿を見てないな?
この白川のお爺、なんと白川伯王家の出身なんだそうで俺の師匠でもある。
お爺がうちにいるのは、うちの神社が神祇伯白川家が代替わり毎に参詣する神社のひとつだってことと関係してるんだろうな…
まあ、今はそんなことはどうでもいい。とっとと材料を揃えて実験だ!
ということで、まずは炭屋にやってきた。そこで店主にひとつひとつ種類と値段を聞いていく。概ね火の持続時間に比例して高くなっていくようだ。
「よし。では次は油屋に行くぞ!」
「あれ?若‥買わないんですか?」
「阿呆、わしの小遣いには限りがあるのじゃ。ここでいま好き勝手に木炭を買うて油が買えなんだら元も子もないじゃろが!」
「ははあ、さすが若宮様。そのお年でしっかりされておりますなあ!」
「うむ。そんなわけで店主、すまんが出直してくるでの。」
などといったやり取りをして無事に数種類ずつの木炭と油を購入して帰ってきたんだが…正直言って疲れた;さらに後になって知ったんだが、この界隈の商店はうちに商品を物納しているところがほとんどなので、言えば向こうから持ってきてくれるらしい・・・おい!
くそう…そんなことは買いに行く前に言えよっ!何のための側仕えだよ!!そのことを教えてくれたお爺に残念なものを見るような目で見られたじゃないか!
そのような仕組みになっているとはこの日の俺はつゆ知らず、疲れた体をおして用意した材料と頼んで作らせた簡単な道具を使って実験を始めるのであった・・・
まさかブクマしてくださる方がいるとは思いもよらず(ありがとうございます)…細かいところを手直ししております←主にレイアウト。本文自体はいじってませんので読み返す必要はありません。