第6話
何も考えちゃダメ。
何も感じちゃダメ。
抵抗するだけ無駄。
そんなことしてもこの時間が長引くだけ。
だったら少しでも早く終わるよう協力したほうがマシ。
このくらい大したことじゃない。
だいじょうぶ。
だいじょうぶ。
だいじょうぶ。
………………。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい」
「うん、ただいま、お母さん。汗かいちゃって気持ち悪いからシャワー浴びるね」
「そうねぇ、今日は少し暑かったものね。確か今日は体育があったんだっけ?」
「うん」
パンツを脱いでナプキンをゴミ箱に捨てる。生理ではないけど、汚れてしまうので最近は学校に行くときは必ず持っていかないといけない。
服を全部脱いでお風呂場に移動したら熱いシャワーを頭からかぶる。
そのまましばらくシャワーを浴び続けていた。
スポンジを手に取りしっかりと泡立てると体を洗う。洗い残しがないように隅から隅までしっかりと丁寧に洗う。
ああ、気持ち悪い。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ちわるい気持ちわるいきもち悪いきもちわるい気持ち悪いきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい――
キモチワルイ………………。
シャワーの後でわたしは街に出ていた。
なんだか無性におじさんに会いたい。
いつもの公園に行く。
おじさんはいない。
この前すれ違った通学路に行く。
おじさんはいない。
あてもなく街を歩き回る。
おじさんはいない。
おじさんはいない。
おじさんはいない。
おじさんはいな――
「は、はは……」
わたし、何やってるんだろう。
バカみたい。
おじさんに会ったってしょうがないのに。
助けてなんて言えるわけないのに。
それなのに……。
「――ッ」
走る。
走る。
違う。これは逃げているんだ。
こんなことならおじさんに会いたいなんて思わなければよかった。
探さなければよかった……。
「待って!」
「ッ?!」
腕が引っ張られる。
振り返った先にはおじさんがいた。
「――ッ、いやっ、離して!」
「はーっ、はーっ、嫌だ――ゲホッゲホッ、はぁ、はぁ、離さない……」
「なんで?! わたしのことなんか放っておけばいいじゃない! 恋人と楽しくデートしてたんでしょ?!」
わたしの事好きって言ったくせに。
「違うよ。あの人は恋人とかそういうのじゃない。ただの仕事の同僚みたいなものだ」
「うそだっ! そんなこと言って、結局おじさんもアイツと同じなんでしょ?! わたしの身体に興味があるだけなんだ!」
「っ!」
「?! ……ほら、そんな、いきなり抱きしめたりして。そんなにわたしの身体に触りたかったんだ」
「ちがうよ……」
「何が違うの……? 一緒じゃん、こんなの……」
「ちがう」
一緒だよ。こんな……こんな……。
「うっ……っ、ぅああぁぁあぁぁぁ、ああぁあぁ……」
あったかい。
なんでこんなにあったかいんだろう。
雪解けの水が溢れるみたいに、押し込めていた感情が押し寄せてくる。
濁流のような感情は声になって身体から吐き出されていく。
押し流されそうになるわたしの心を、この人がずっと支えてくれていた。