第4話
『だいじょうぶ……?』
『君が好きだから』
その二つの言葉が頭から離れない。
ずっとずっと頭の中で鳴り響いている。残響のように、消えることなくいつまでも、いつまでも。
好きだと言われたときの表情も鮮明に思い出せる。
覚えていなかったはずなのに、初めて声をかけられたときの表情まで思い出せてしまう。
何度思い出しても冴えない顔だ。
かっこいいところなんて欠片もない。
それなのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。どうして胸が暖かくなるのだろう。
わからない。わかるはずがない。
ろくに話したこともないし、付け回されて怖い思いもしたと言うのに、なんで――
『君が好きだから』
「~~っ!」
――なんで、こんなに胸が痛いの……?
「だいじょうぶ?」
「?! ……あ。ううん、なんでもないよ、みっちゃん」
一瞬おじさんに声をかけられたのかと思ってしまった。学校におじさんがいるわけないのに。
「それならよかった~。なんだか苦しそうにしてたから、どこか痛いのかなって思ったんだけど~」
「ええ? どこも痛くなんてないよ」
「うん。でも、どこか痛かったら先生に言わないとだめだよ~?」
「大丈夫だよ。本当に痛かったらちゃんと言うから」
うそだ。
本当は胸が痛い。痛くて痛くてしょうがない。心が悲鳴を上げているみたいだ。
でも、こんなこと言えない。言えるわけがない。
「あ、チャイム鳴っちゃった。また後でね~」
「うん、またね」
授業中も、休み時間も、給食の時間も、放課後も、ずっとおじさんの言葉が忘れられない。
家に帰ったあともずっとずっと頭から離れてくれない。
あのおじさんはただの不審者。わたしにそういうことをしたいって考えて声をかけてきただけ。
『だいじょうぶ……?』
「っ!」
違う。心配なんてしてないっ!
あれはただの演技なんだから!
『君が好きだから』
そんなの嘘!
口先だけだったらなんとでも言える!
『だいじょうぶ……?』
『君が好きだから』
やめて……。
『だいじょうぶ……?』
『君が好きだから』
やめてよ……!
『だいじょうぶ……?』
『君が好きだから』
そんなこと言わないで……!
わたしの中から出てって……。お願いだから……。