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第2話

「だいじょうぶ……?」


 男の人の声がして顔を上げた。

 最初に思ったのは不審者。


 逃げなきゃ、と思った次の瞬間にはランドセルを掴んで、背負う時間も惜しくてそのまま駆け出した。

 しばらく走り続けて後ろを確認したけど、さっきのおじさんはいなかった。


 ああ……もう、本当に最悪。


 とりあえず掴んだままだったランドセルを背負い直す。

 不審者なんて本当にいるんだ、なんて思いながら歩き出す。いや、あんなのがいるんだから不審者がいたっておかしくない。


 それにしても冴えないおじさんだった。特徴がないのが特徴、みたいなすれ違った次の瞬間には忘れていそう。

 なのに――


 『だいじょうぶ……?』


 ――あの心配そうな声だけが忘れられない。


 心配そうにしててもそれはフリだけで、心の中では変なことを考えてるに決まってる。

 そう、思うのに……思い返すその声は心からわたしを心配しているように聞こえた。


 その日からあのおじさんを見かけるようになった。と言っても本当に同じおじさんかはわからない。何しろ顔を覚えていないのだから。

 ただ、公園で遊んでいるとよく見かけるおじさんがいる。何度も見かけるから流石に顔を覚えてしまった。

 きっとあのとき声をかけてきたおじさんだろう。


 そのおじさんを見かけると、ビクッてなるんだけど、近づいてくる様子はない。まあ、わたしも友だちといるし、うかつに声をかけられないんだろう。

 あのとき声をかけられたのもわたしが一人でいたから狙い時だと考えたんだろう。

 一人にならないよう気をつけないと。


 そう、気をつけていたんだけど……。

 あのおじさんはまるで近づいてくる様子はない。本当にただ通り過ぎるだけ。

 何回か目があってるからただの通りすがりってことはない。わたしを狙ってるんだ。

 なのに何もしてこない。


 もしかしたら家を特定しようとしてる?

 そう思って帰り道に誰か付けてきてないか気をつけてたんだけど誰もいない。家を荒らされた様子もないし、SNSを見てもわたしの近所の写真が上がってるようなこともない。


 何がしたいんだが全然わかんない。

 ああ、だから不審者っていうのか。


 ああ、もう、なんかムシャクシャする。

 なんであんなおじさんにわたしが振り回されないといけないの? ただでさえひどい目にあってるって言うのに、わたしだけがこんな思いしないといけないなんて理不尽だ。

 来るならさっさと来なさいよ。そしたら防犯ブザー鳴らしてひるんでいる隙に金玉蹴り上げて『この人痴漢です!』って大声で叫んでやるのに!


 なんて思ってたのに、実際にその場面が来たら全然動けなかった。


 その日は公園じゃなくて帰り道だったんだけど、前からあのおじさんが歩いてくるのが見えた。

 いつも公園でしか見かけないから油断してた。

 友達はもちろん通行人の姿もない。今までは人の目があるから何もされずにすんでいたけど、今は誰も見ていない。


 防犯ブザーを鳴らすとか反対方向に逃げるとか、できることは色々あるはずなのに、おじさんの姿を見かけた瞬間、なんかもう頭の中が真っ白になって、ランドセルをギュッて握ったままその場に突っ立ってた。

 おじさんは真っすぐわたしの方に歩いてきて、『逃げなきゃ』って思うのに足が動かない。

 ついに目の前までやってきてすごい怖かったんだけど、おじさんはすれ違うときに軽く頭を下げてそのまま歩いていってしまった。


 ……え? あれ? 何もされなかった……?

 え? 待って。本当に意味分かんない。だって不審者って女の子に、その……ああいうなことをしようとするんでしょ。あのおじさんもそのために声をかけてきたんでしょ。

 なのになんで何もしないの?


 振り返ってみてもあのおじさんはそのまま歩いてて、引き換えしてくる様子はない。


 そりゃあ何もされなかったのはいいことなんだけど……ああっ、すっごいもやもやする~!

 何がしたいの~、もうっ!

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