第5話 開始
◆◆◆
「リオ、準備は出来た?」
「はい、いつでも」
聖女の正装に杖を持ち、真剣な顔をするリオ。
対して僕は武器も何も持ってない。ラフな私服を着て、完全に手ぶら状態だ。
僕達が古代エルフの里から戻って来て二日。《望遠》で確認したけど、まだレッセンとセルンは王国領には戻ってないみたい。でも、今日中に領内に到着するだろう。
「行くよ。《交換》」
僕達と、王国の空間が入れ替わる。
場所は──王城の頂上。
王都の中で一番高い建物のここは、王都全域を見渡せる。
そこに空間魔法で見えない足場を作って、見下ろす。
「うわぁ……こんな高い所から王都を見下ろすなんて、初めてです……!」
「綺麗な街だね……」
綺麗に整えられた区画に、笑顔を絶やさず行き交う人々。
なんてことのない、普通の日常だ。
「アッシュさん、本当にやるんですか?」
「うん。別に僕は、街の人達を殺すわけでも、平和を壊すわけでもないからね。さっさと終わらせよう」
標的は大通りと建物の中。それに王都の上空。
「《投影》」
刹那、無数の映像が王都の至る所で流れる。
僕の顔を映し出したもの。
レッセン、セルンを映し出したもの。
リオが《ショックボルト》で倒れ伏す所。
そして──僕の喉が斬り裂かれるまでの、一部始終と会話。
『さあ……死んで俺に貢献しろ』
ブツンッ──。
ここで映像が消えた。
…………。
ザワッ──!!!!
「お、おい今のって、レッセン達だよな……?」
「世界の最奥へ旅立った、あの……?」
「馬鹿な!」
「嘘じゃないのか……?」
「でもあれが本当だとしたら……」
「レッセンとセルンは、最悪の仲間殺しじゃないか!」
「力を手に入れるために仲間を殺すなんて……」
「待ってくれ、今聖女様も倒れてたよな……?」
「ま、まさか……」
「彼ら、アッシュさんだけじゃなくて聖女様も!?」
「なんて惨いことを……!」
「酷いっ、酷すぎるわ!」
ははっ……凄い……凄いよこれは!
これを見た皆が、レッセンとセルンに対して不信感と怒りを感じている!
膨れ上がった疑念と憎悪は、もう止まらない! 止められない!!
リオが倒れているところを見せたのは、勿論計算だ。
レッセンとセルンは、映像では僕しか殺してない。でもリオが倒れるのを見せたことで、この映像を見た皆は「もしかして……?」という疑念が湧く。
確かにリオは殺された。でも皆はそれを知る手段はない。だからこそ、「もしかして」という疑念と、実際に俺が殺された所を見ることにより、真実よりも強く植え付けられ……。
「聖女様を殺したアイツらを許すなぁ!」
「捜索隊を編成しろ! 絶対捕まえるんだ!」
「私、密かにアッシュさんのこと……」
「あんなに優しい人を殺すなんて……!」
「懸賞金を掛けろ!」
「公開処刑だ!」
「他の街の奴は知ってるのか!?」
「何でもいい、他の街にも伝えるんだ!」
「絶対に逃がすな!」
「奴らを殺せえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
必然的に、こうなる。
「凄い……全部アッシュさんの考えた通り……」
「でしょ?」
だけど……レッセンとセルンの強さは本物だ。 苦戦するとは言え、二人だけでドラゴンも討伐出来る力を持っている。
その二人が本気で抵抗したり逃げたりしたら、間違いなく捕まえることは出来ないだろう……。
でもそれでいい。
簡単に捕まったら面白くもなんともない。
抵抗して、人を傷付けて、逃げ回って……泥の中を這いずり回ってでも生きさせる。
そうでもしないと腹の虫が治まらない。
ただ殺すだけでは温い。
とにかく追い詰めて追い詰めて追い詰めて……自分達のしでかした過ちを認識させる。
さあ──。
「復讐の始まりだ」
面白い、続きが気になるという方、ブックマークと評価をよろしくお願いします。