第六話 そうして彼は出会った
大陸の真ん中に位置するエストレア帝国の小さな村でルークは生まれ育った。
村で過ごした日々は最悪の一言に尽きる。
雄大な自然に囲まれた環境はそれはそれは美しく、帝国出身で帝国育ちの都会っ子が見れば感嘆の声を漏らして羨ましがったりするのだろう。
それは見慣れた日常に紛れ込んだ見慣れない非日常の光景だからこそ感情が刺激されるだけで、見慣れてしまえばどんなに壮大で幻想的な光景もただの日常に変わる。
数時間の観光であれば美しいと感じさせる大自然は、三日三晩ほど滞在すれば凶悪な牙を剥く魔境へと姿を変えてしまう。
そんな森に棲んでいる肉食の魔獣たちに怯えて、その日暮らしの貧しい生活を送る毎日にルークは辟易していた。
「こんな辺境の地で畑を耕して終わる人生なんて絶対に嫌だ!」
農家の子として生まれてきたルークは跡を継ぐことを決められていたが、両親の反対を押し切り冒険者になる道を選んだ。
畑を耕したり、川で魚を釣ったりして自給自足する生活を悪いとは言わない。
そういう貧乏ながらも穏やかな生涯を望む人を悪く言うつもりもない。
だが、平凡で平穏な変化のない日々よりも何があるか分からない予測不可能な日々を、小さな檻から飛び出して大きな世界で過ごしたいとルークは考えていた。
ある日、村へ行商人がたまたま訪れたときにルークはこれだと閃く。
旅に出る資金稼ぎと、旅の移動に欠かせない荷馬車の操縦を覚えることが出来る行商人はまさに一石二鳥で合理的な仕事だった。
そうしてルークは行商人に弟子入りし、見習いとしての日々を送ることになる。
すべてが順調に進んでいた。あの日、奴等が現れて何もかもを奪って行くまでは。
覚えているのは、自分は何もできないヘタレ野郎だったということだ。
茂みに隠れて無様に震えて奴等が起こした地獄を見ていることしかできなかった。
家族、友達、村の仲間たちが禍々しい化け物に変貌させられた挙句、無惨に殺された。
あとに残ったのは人間だった者たちの肉塊と、血に染まった誰もいない村だけだった。
茫然としたまま意思の宿っていない足が一人でに勝手に歩き、自分の家に帰ると両親の変わり果てた姿があった。
突然、天涯孤独の身になったルークは何も感じなかった。怒りも、悲しみも、何も感じることなく、黒いヘドロのようになったそれに埋もれていた小型の銃を手に取り、ルークは何事もなかったかのように村を出た。
数十年が過ぎ、村の一件がすっかり過去の記憶になった頃。ルークは冒険者として世界各地を放浪しながら金銀財宝を探していた。
しかし、目ぼしい成果をまったくあげることができず、お宝を手に入れて一攫千金どころか魔獣を倒して日銭を稼ぐだけの毎日。
うだつの上がらない日々をいつしかの村での日々と重ねていると、魔獣の素材を売りに訪れていたフランシス王国の王都スフランに大きな鐘の音が響き渡った。
何があったか分からないが間違いなく厄介ごとだろう。ここにいると厄介ごとに巻き込まれる可能性は大だ。ここから退散するのが良し、そう考えてしまったのが悪かった。
――ズダンッ
「……よし!」
「えええ!? いやいやいや!! こっちはなんにもよくねーんだけど!?」
あろうことか厄介ごとはぐんぐんとルークとの距離を詰めて空から降ってきたのだ。
御者台への着地を見事に果たした少女と降りろ降りないの口争を繰り返す内に「てめーは何者だ」と、尋ねると少女はどこか誇らしげそうに胸に手を添えて答えた。
『アイリス』
「私の名はアイリスだ」という名乗りを聞いたルークの脳裏に、あの日、あの村で、凄惨を極める出来事を起こした奴等――白装束の連中が口にしていた言葉の断片『適合者』『創造神』そして『アイリス』の三つが浮かぶ。
そうして自分の奥底で今まで感じなかった、怒り、恨み、家族や仲間たちへの想いが湧き上がるように目覚めた。
アイリスと名乗る少女が村を襲った白装束と関係があるのかとルークが尋ねると、
「五十年くらい眠っていたから何も分からないし、知らないんだ。すまん」
と、珍妙で奇怪な答えが返ってきた。
だが、ルークの話を聞いた少女がふざけているわけでも嘘をついているわけでもないと、その鬱屈とした表情から悟ったルークはそれ以上何も語らなかった。
アイリスと名乗るこの少女と共に行動すれば、いつか白装束の尻尾を掴めるかも知れない。そして、白装束の正体や目的を明かした暁には奴等がそうしたように、奴等からすべてを奪ってやる。
そうしてルークは白装束の連中に復讐を誓い、アイリスと共に真相究明の旅に出た。
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