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そうして少女は旅立った  作者: 尾久承馬
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第五話 そうしてはじまる

 心地の良い風がゆったりと吹く昼下がり。

 フランシス王国領土内にありふれた鬱蒼とした森の中で、鋭い牙と爪を持つ魔獣の群れと交戦する二人の姿があった。


 「あ、すまん。一匹逃した」

 「俺に任せな! 術式、展開!!」


 男が叫ぶと小型拳銃を構える手首の周りに魔法陣が現れる。森の奥へ四本足で逃げる魔獣に照準を合わせ、装填された弾丸に魔力を満たし引き金を引く。

 そうして発射された弾丸は魔獣には命中せずに近くの地面へと吸い込まれた。


 「吹っ飛びやがれ!」


 地中に潜った弾丸から膨大な熱量が発生して地面が盛り上がった瞬間、男の言葉通りあたり一面が大爆発して吹っ飛んだ。


 「決まったぜ……!」


 爆風に揺らされる白銀の髪から黄金の瞳を覗かせながら、赤熱する銃口に息を吹きかける格好つけたがり屋な男の名はルーク。


 ――ガンッ

 

 「ぐおおおおっ!? あ、あだまがわれるううううっ!!」


 突然に襲った後頭部への衝撃による痛みでのたうち回りながら、自分の頭をかち割ろうとしてきた少女にがなり立てる。


 「てめーアイリス! 何すんだよ! 俺は魔獣じゃあねーぞこの野郎!」


 「貴様こそ何をしているんだ! 消炭にしてしまったら肉も皮も、骨すら残らんではないか!」


 ルークの怒鳴りを超える勢いで怒鳴り返すのは亜麻色の髪と紫紺の瞳をした少女。


 「ぐっ……べ、別に一匹くらい吹っ飛ばしてもいーだろーがよ。あそこにアイリスがなぶり殺した魔獣が山ほどあるんだからよー」


 鬼のような形相をしたアイリスに尻込みするルークが指差す先には、山のように積み重なる無残な魔獣たちの死体があった。


 「あ、忘れてた」


 「あ、忘れてた、じゃねーよ! 魔獣を丸太でなぶり殺したことなんて生まれ変わっても忘れられねーよ!」


 「その丸太でぶん殴ってもかち割れない貴様の石頭のほうが忘れられないぞ」


 「ちっ、あー言えばこー言いやがる……ほんとうるせー奴だぜ」


 「それだけは貴様に言われたくないな」


 二人は互いに悪態を吐きながらも息の合った手際で魔獣の死体から皮を剥ぎ、肉を捌いていく。残った骨はルークが空けた未だ黒煙の上がる大穴へと埋葬した。


 「……おい貴様、それ以上は無茶だぞ」


 「へーきへーき! おら、よっと!」


 捌いた肉を詰めた袋を近くに停めていた荷馬車に積んでいると、重量オーバーなのか車輪がギシギシと不穏な音を立てている。


 「ほらな。全部載せられたぜ」


 「あ」


 ルークが額に掻いた汗を拭いながら荷馬車に手を掛けると、車輪は断末魔を上げてひしゃげてしまう。

 置物と化した荷馬車を呆然と見つめる二人を嘲笑うかのように馬が嘶いた。


 「ど、どーしよ?」


 顔をひきつらせて助けを求めるルークに、「だから言ったのに」と言いたげなアイリスは溜め息を零して荷馬車に手をかざす。

 すると、誰に持ち上げられる訳でもなくふわりと荷馬車は宙に浮かんだ。


 「さすがはアイリス様、頼りになるー」


 目を輝かせて調子のいいことを言うルークを見ながらアイリスは吐息を重ねる。


 「で、この辺りに町はあるのか?」


 「ああ、ここから少し行った先に小さな町があったはずだぜ」


 「よし、今日はそこで宿を探すぞ」


 落ちてきた日差しに目を細めながら、二人はふよふよと宙を漂う荷馬車を引き連れて休息地に決めた町へと歩み出す。

 そんな二人の様子を遠くの茂みから望遠鏡が光を反射させて覗き見ていた。


 「――この店で一番うめー酒を二つと、つまみを適当に頼む」


 月が昇りはじめた頃。町へたどり着いた二人は小腹を満たそうと酒場に入りカウンター席に腰掛けていた。

 注文を聞いた店主はグラスを用意しながら、ルークとアイリスの姿を交互に見て小首を傾げて二人に声を掛ける。


 「失礼なことを聞くようで悪いんだが、あんたら二人はどういう関係なんだ?」


 普通に考えれば一緒に入店して同じカウンター席の隣同士に座ったのだから、何かしらの関係があることは間違いないだろう。

 それでも二人が一緒にいることに奇妙さを感じさせるのは、ルークとアイリスの服装があまりにも統一感がなかったからである。


 白の旅装束の上に砂埃の目立つ灰色のローブを着ている男は、その気怠げな顔つきも相まって薄汚い放浪者のように見える。

 それに対して、全身を黒一色の貴族然とした華美な服装に身を包む少女は、その幼ながらも意志の固そうな顔つきも相まって名家のご令嬢のような雰囲気を醸し出している。


 「どんな関係って言われてもなー……」


 ルークは横目で、こちらの言葉を待っている様子の少女を映す。

 そうして彼女が空から降ってきた日のことを思い浮かべた。



読んでいただきありがとうございます!


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