発現した異能が「桃太郎」だった話
ある日を境に、人々に異能が発現した。
その異能は、各々に等しく発現したが、能力の格は平等では無かった。
強い異能を持つ者もいれば、その逆も然り。
この異能が発現してからというものの、今までの生活通りの訳もなく、力を持つ者が、持たぬ者を淘汰する時代に変わっていった。
これは、日本以外の国では特に顕著であった。
だが、幸い日本人の比較的穏やかな性格が、功を奏して他国よりはマシであった。
それに、正義感の強い人間も一定数いる訳で、その人間達が治安を乱す人間をしばき回ったのだ。
その結果、異能を行使した犯罪も激減したのだ。
しかし、マシであるだけで、無いわけでは無いのだ。
自分の異能に溺れているアホが、人に危害を加えたりする事もあるのだ。
ほら、このように。
「きゃっ、やめて下さい!誰か助けてー!」
「へへっ、いいじゃねぇかよ。すこ〜し気持ち良くなるだけだぜ?」
太陽も眠たいのか、地平線に沈んでいく夕方。会社帰りのOLが、アホに絡まれているではないか。
「うっ、ファイア!って効いてない!?」
「あたりめぇだろ??俺の異能は頑健。ねぇちゃんの様な格の低い異能は効かないんだよ。大人しく俺とあそぼうぜ?」
OLは絶望したような表情で男を見た。このままでは、OLの人生は最悪な事になるだろう。
悲惨な目に遭うのは直ぐに理解できる。
もうダメかと腹を括ったOLだが、運命の神様はOLを見放しはしなかった。
とある男がたまたま通りすがったのだ。
(ここから一人称になります)
夕方、俺は日課のキジとサルとイヌに餌をやったついでに、近くのスーパーで自炊のための食材を買いに行った。
多少いつもより多めに買い、高ついたものの、1週間は出掛けなくて良いということを、自分に言い聞かせながら帰宅していた。
(それにしても暗いな・・・)
あの時からか。こんなに早く日が落ちたり色々おかしくなったのは。
俺は、今となっては当たり前の事を脳内で呟いていた。
何故こんな事になったのだろうか・・・
世界が変革する前だと今は夏のはずなのだが、変革後は、いろんな強者どもの争いで、季節がおかしくなってしまったのだ。
そのため今は、冬の季節で、しかも、日没のスピードが早くなったのだ。
ある能力者は自身から氷や冷気を操り、生み出す能力を本気で使用し、また、ある能力者は重力を操った。
その能力者達によって、今までの法則や概念が粉々に叩き壊されたのだ。
だが、強大な能力者達もこのままでは不味いと感じたのか、能力の行使を辞め、世界各地の混乱や争いを諫めていった。
そして、能力者達は世界で統一したギルドを作り能力にランク付けしていった。
ちなみに、このギルドは一国より権力は上に位置しているため、能力者を飼い殺そうとする政府の計画は尽く失敗したのだ。
俺はあの日を思い出していた、懐かしい記憶ばかりだ。
それと同時に異能が発現した瞬間も思い出した。
「『桃太郎』が発現しました!」
脳内に直接響く機械で作られたような音声。
その意味不明な異能が発現した瞬間、キジとサルとイヌが現れたのだ。
こいつらの第一声は「「「キビダンゴください」」」だ。
俺は開いた口が塞がらなかったね。なんせ、動物が3匹も目の前に出現した挙句、喋ってダンゴをねだって来るんだからな。
混乱しながらも、俺はキビダンゴ等ないと言おうと思ったのだが、何故か腰に付いていたのだ。
というか服装がジャージから昔話に出てくる桃太郎の衣装とそっくりなものに、変わっていたのだ。
いやビビったね、流石に。ほら、考えてみ?服が一瞬で変わって、終いに動物3匹が突然現れて喋るんだぜ??
世紀末すぎじゃね?
まぁ、そんなこんなで色々あったのだ。
俺は懐かしみながら、帰宅していると、なにやら男女の諍いのような声が聞こえてきた。
俺は声の主の方向を顔だけ動かしながら見た。
「きゃっ、やめてください!誰か助けてー!」
「へへっ、いいじゃねぇか〜」
うん、ドラマの撮影かな?
とてもめんどくさそうな事になっていた。今時の異能者にしては珍しい事案であった。
こんな事があろうものならキーパーが直ぐに飛んで来そうなものだが、時間帯的に今は来ないのかもしれない。
黙ってやり過ごしても良かったのだが、それはそれで後味が悪い。
それにこのふざけた名前の異能ではあるが、馬鹿みたいに強いのだ。
『桃太郎』 異能ランクEX
俺は異能を発動させ、女性を襲っている暴漢をしばくために殴った。
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」
俺の拳を受けた男は何が起きたのかも分からずに意識をフェードアウトしていった。
俺は震えている女性に声を掛けた。
「大丈夫でしたか?」
「えぇ、間一髪でした。ありがとうございます!!お強いですね、名前をお聞きしてもって・・・その格好!桃太郎さんですか!?」
「はい、桃太郎です。」
「うわぁ、私ファンなんですよ!握手お願いします!」
話しかけた女性が俺のファンだったらしい。
握手とか色々求められてはいるが、特に時間も食わないし、女性が元気そうで良かった。
俺は興奮している女性を宥めながら、なんとか帰宅した。
ドアを開けるとキジとサルとイヌがお出迎えしてきた。
「「「飯くれや」」」
はっはっはっ、まったく可愛い奴らだ。全員放り出そうかな?
俺は奴らに飯を食わせた後、テレビを付けてニュースを見ていた。
すると、もうさっきの事案がニュースで報道されていた。それに、俺の名前が大々的に書かれていた。
少しやりすぎでは無いかと、思ったがすぐに頭から消しさり、俺は布団に入り就寝した。
今日は疲れたのだ、どうせ明日も忙しくなりそうだし。
俺は明日の事を考えながら、寝たのだった。
キジとサルとイヌの下敷きになりながら。
「重いんじゃお前ら!!」