第三章「何かの予兆」
どうも、作者でーす。はい、調子こきましたねすいません。更新が遅いくせにですよね、えぇ。
ということで、皆様お久しぶりです。今回はまぁ、アレです。何でしょう、進んでいるのか、進んでいないのか……?
と、とにかく!どうぞ、本編へお進みください!!
「一体、村ってどこら辺にあるんだ?」
前を歩くレリスに蒼汰が話しかける。その表情は、何の不安もないようなまさしく自然体の表情だった。レリスはその言葉に『う〜ん』と思考を巡らして、ごく当たり前のように答えた。
「この辺はずっと森なので、どこら辺っていうのは説明しづらいですけど……。大体、日暮れまでには着くと思います」
……マジかよ。その返答に対して、蒼汰はそう思わざるを得なかった。今までの生活では、蒼汰はそんな莫大な距離を歩いたことなどほとんどないのだ。無理もないと言えば、その通りであった。何かの運動部やクラブなどに入っていればそれ相応の運動量はこなしていたかも知れないが、知っての通り、蒼汰は若干引きこもり気味だった。なので、彼にとっては苦痛に感じてしまうわけで。
「…………はぁ」
だからこそ、そんな溜息も無意識の内に出たのかもしれない。
「……蒼汰さん。もしかして、あまり身体を動かすのは得意でないほう、ですか?」
そんな蒼汰を振り返って、おずおずと声をかけてくるレリス。
……また、気を遣わせてしまった。蒼汰は無神経に溜息を漏らした自分を軽く戒め、気を取り直して返答した。
「確かにあまり得意ではないかな。……でも、そんなに心配しなくていいから。さすがに歩くだけでダウンはしないって!」
「そうですか? ……良かったです」
精一杯の笑顔を浮かべて、親指までグッ、と突き立てたのが良かったのかもしれない。レリスは安心したように微笑を浮かべて、またゆっくりと歩き出した。
蒼汰は、そんな自分の情けない強がりに内心苦笑いをしながら、後をついていった。
道中、蒼汰はレリスに自分の世界のことを話した。蒼汰にとっては何てことのない普通のことなのだが、レリスにとっては摩訶不思議なことばかりだった。終始、目を輝かせて話を聞いてくれたので、蒼汰も悪い気はしなかった。途中に休憩も挟みながら、蒼汰はさながら学者にでもなった気分で話しながら、歩いていた。
「……だいぶ来ましたね。蒼汰さん、大丈夫ですか?」
「ん、あぁ。……大丈夫」
軽く四時間くらいは経ったであろう、レリスがとう唐突に聞いてくる。普段ならこのくらい歩けば足が棒のようになっているのだが、随分と話し込んでいたせいか、蒼汰は不思議と疲れを感じていなかった。
「そうですか。じゃあ、後ちょっとですから、頑張りましょう」
安堵したようなレリスの言葉に、蒼汰は軽く頷く。話の種はまだまだ尽きそうになかったが、目的地に早く着くことに越したことはない。そう思い、レリスの後をついていった蒼汰の足が止まったのは、そのすぐ後だった。
前を行くレリスが、突然足を止めたからだ。
レリスはその場に立ち止まると、せわしなく辺りをキョロキョロと見回しはじめる。その行動は、昨日も見た覚えがあった。
……狼が出てきた時の、反応だった。
蒼汰はそう思いを巡らすと、レリスとともに辺りを見回す。自分が戦力になるとは到底思えないが、せめてこういうことぐらいはしないと、という男としての意地にも似た気持ちがあったからだろう。レリスはそんな蒼汰の行動に驚きつつも薄く微笑み、真剣な声色で蒼汰に言った。
「蒼汰さん。わかっていると思いますが、……います」
「……うん」
レリスは太股から銃を引き抜き、静かにそれを構えた。蒼汰は、ただ茂みを睨んでいた。
がさっ、という音とともに一匹の小柄な狼が現れたのは、ちょうどその時だった。
「……!!」
「……一匹!?」
露骨に驚いている蒼汰を尻目に、レリスは怪訝な表情を浮かべて、狼を睨んだ。
「……ど、どうかした?」
そんな蒼汰の言葉に、レリスは狼から視線を外さないまま、静かに言う。
「……狼は基本的に群れで行動します。……一匹だけで行動することは、まずありえません」
「はぐれ狼、とかじゃないのか?」
「だといいんですけど。他に狼の気配も感じないし、……どういうことかしら?」
そう一人で呟きつつも狼から目を逸らさないレリスとは対照的に、蒼汰はあっけにとられた気持ちで狼を見ていた。
……狼から、昨日のような明確な恐怖を感じなかったからだ。昨日出会った狼は、そのどれもが蒼汰たちに対しての強い『殺意』を持っていた。……少なくとも、蒼汰にはそう感じられた。
だが、今蒼汰たちの目の前にいる狼からは、全くと言っていいほどにそのような殺意も、ましてや恐怖すら感じないのだ。……事実、狼は襲いかかってくるでもなく、ただただ、蒼汰たちの方を見据えていた。蒼汰を萎縮させるだけだったその黄金の瞳は、必死に何かを伝えようとしているようにも見えた。
「何……? 仕掛けてこないんだったら、こっちから……!」
「ちょっと待って、レリス!」
蒼汰は無意識のうちに、レリスが狼に向けた銃の前に立ちふさがっていた。
「蒼汰さん……?」
レリスはその言葉に、綺麗な碧の目を大きく見開いた。当然と言えば当然だった。狼はこのレリスたちの世界では『人を喰らうもの』以外の何者でもないし、かばうような存在ではないのだから。ましてや、そんな狼に背中を向けるなんてことは、逃げる時以外はありえない行動だ。
だが蒼汰はそこを動こうとせず、レリスが銃を下ろしたのを見て、おずおずと話し始めた。
「俺の勝手な思いこみかもしれないけど。……この狼には、俺たちを襲うような意志がないように思えるんだ」
「蒼汰さん、何を……?」
「昨日の狼たちには、俺たちを殺そうとしている明らかな意志を感じた。……でもこの狼からは、それが感じられないんだ」
別段、蒼汰は動物の気持ちがわかるような特殊能力を持っているわけではない。だが、本能的にそう感じたのだ。……何故かはわからないが。
「蒼汰さん、でも、狼がこの状況で人を喰わないなんてありえると思いますか? ……第一、私たちを襲わないというのなら、一体何を……?」
レリスの反論はもっともなものだった。蒼汰の世界では『人を喰う狼』の存在は聞いたことがないが、それはこの世界では通用しないのだろう。それに反論するほど、蒼汰は愚かではない。それに、レリスの口調には蒼汰のことを馬鹿にしたような、棘のあるものではなく、しっかりと蒼汰の発言の意図を汲み取ろうとした上での発言だった。
蒼汰はそんなレリスの反応に安心を覚え、更に話を続ける。その声音には、先程までの恐る恐るといったものはなかった。
「俺が見るには、何かを伝えようとしている風に思うんだ。……それが何かまではわからないけど、なぁ! そうじゃないのか?」
蒼汰はそこまで言うと視線を動かない狼に戻し、まるで人間に話しかけるかのように問い掛ける。当然、普通はそんな言葉わかるわけがないと思うものだが、あろうことか狼はまるでその言葉を待ち望んでいたかのように、首を縦に振ったのだ。
「……ほらね」
「まさか、そんなこと……!!」
レリスはまだ信じられないように、狼を見つめている。これだけでは未だ、半信半疑といったところなのだろう。そんなレリスの様子を見てかはわからないが、狼はいきなり仰向けに寝転がると、情けなく四肢をだらんと下げた。全てをさらけ出して、ハッハッ、と舌を出しているその姿は犬を思い出させるもので、蒼汰は思わず吹き出してしまった。
「あっはっはっは……! そ、そこまでしなくてもいいよ……」
そう言って腹を押さえてうずくまる。狼はなおもそのままの姿勢を崩さずに、ついには尻尾までもを振り出す始末だった。目の前に銃を持っている人間がいる前でとる行動ではなかった。……知能の高い狼なら、尚更だ。その行動は、明らかに『殺意』を持っていないことを、レリスも認めざるを得なかった。
「……確かにそう、ですね」
その声音には、信じざるを得ないが、まだ信じられない、といった複雑な思いが滲み出ていた。狼はレリスの言葉を聞くとゆっくりと起きあがり、レリスのほうを真っ直ぐに見据えた。その眼には、レリスでもわかるほどに敵意がなく、ようやくレリスは銃をホルスターにしまい、警戒をといた。
「信じます。……あんな可愛い姿を見せられちゃったら、ね」
「良かった……。ありがとう、レリス」
そう言ったレリスは、すでにいつもの雰囲気に戻っていて、蒼汰はほっと胸を撫で下ろす。すると、狼はレリスの『可愛い』という言葉に反論するように、一際大きく、吼えた。
「あははは、ごめんね」
「だって、どう見てもあれは『可愛い姿』だもんな〜」
それを聞いて、一層強く吼える。そうして、二人で笑い合う。さっきまでの殺伐とした雰囲気は、いつの間にかどこかに消え失せていた。
「……で、何を伝えたかったんだ?」
一段落ついたころに、蒼汰が狼に何気なく聞いた。狼の視線に合わせるように屈み込んで言うその姿は、犬に対しての接し方に見えるほどだった。狼はそんな蒼汰の顔を優しくペロッと舐めると、出てきた方向に向かってゆっくりと歩き出した。少しいって顔をこちらに向けたその様は、まるで『ついてこい』とでも言わんばかりだった。そして事実、そうなのだろう。狼はそのままの姿勢で、じぃっとこちらを見つめていた。
「だってさ。……どうする? レリス」
「本当は早く村に着かなきゃ駄目なんですけど……、蒼汰さんを一人では行かせられません! ……私も行きます」
その言葉に、蒼汰はまたもレリスの優しさを感じて嬉しく思うが、その後『義務感』という言葉が自分の頭に浮かんでき、少し落ち込んだ。とはいえ、そんな勝手なことを言っても仕方がないし、第一レリスは何にも悪くないのだ。だから蒼汰は、それをおくびにも出さずに答えた。
「ありがと。……レリスは、優しいね」
「…………!!!!」
蒼汰のその言葉に、レリスは一気に赤面する。そんなレリスの様子を、『熱でもあるのかなぁ……』と心配することしか思わなかった蒼汰には、彼女に義務感以外の何かが芽生えていたことを知れるはずもなかった。
後書き劇場
第四回「狼ってそんなでもないよね」
ども、作者でっす。
まぁアレですねぇ、狼の方もようやくストーリーに絡んできましたが、実際狼って人喰わないよね(爆)。ま、色々無茶なことを全部包み込んで昇華して作品を作り出すのが、ファンタジーのいいとこですんで!……俺に出来るのか?(あ
蒼汰「ファンタジー作品一読者として言っとくけど、空想だからって何でも許されるわけじゃないからな?」
俺「ですよねー、ふふ、ふふふ……」
蒼汰「重荷に耐えきれなくなったか……」
レリス「あの蒼汰さん、その辺で許してあげてください」
俺「うぅ、優しいねチミは」
蒼汰「何キャラなんだお前は」
ということで、はい。二人(というか蒼汰オンリー)に言われたことも心に刻みつけておきながら、これからも頑張りたいと思います!
ではでは、また次回!!
作者からでした!!