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御伽冒険記  作者: TAR
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プロローグ「異常な本」

どうも、初めまして。作者です。初めましてじゃない人も、よく来てくださりました。

この小説は、童話をモチーフとしたファンタジー小説です。グリム童話やらアンデルセン童話などの敷居はございません。

また、童話には諸説あるものもあり、作者への指摘はいいですが『ありえない』などの誹謗・中傷はおやめ下さいませ。

と、固く言ってみましたが、楽しくやっていきたいと思います。更新は遅く、月単位での更新になるかも知れぬことを、どうかご了承ください(笑)。


では、本編へどうぞ!

 秋ももう終わりだというのに、地面へと降り注ぐ陽光がやけに暑く、地面を歩く人々にも容赦なく照らされていた。

 田圃やら草むらやらが鬱蒼と続く田舎の集落とは違って、いかにもな近代的を思わせる無機質なアスファルトが続いていた。そしてその存在が街全体の雰囲気を、田舎とは言わしめ難いものへと変えていた。コンクリートの建物や、信号付きの交差点がこの場所の秩序を表しているかのように建っていた。

 だがしかし、あからさまな人工物だけで形成されているという訳でもなく、道路が続いているその脇には、今の季節となっては寒々しいだけの樹木。建物の並びにも、時たま空き地や公園などの穏やかな景観が見受けられる。

 そんな、大都市とも言えないその街の様々な店が建ち並ぶ大通りを、二人の少年が歩いていた。

 学校指定の紺のブレザーと、勉強道具などが入っているであろう薄茶の鞄が、わかりやすく彼らの立場を告げていた。年の頃は十四から十六ころで、今の時間帯から考えれば、下校中だということは容易に想像できる。


「あ〜あ、学校の授業ってのは、どうしてこうも暇なんだろうな〜?」


 二人のうちの一人が、男としては若干長めの茶髪を手で掻き分けながらもう一人へと言う。


「……同感。真面目に授業を受けている奴らの気がしれんな」


 話しかけられたもう一人の方が、怠そうにそれに同意する。

 少しハネ気味の黒髪に、前髪は目の辺りまでに届き後ろ髪は首辺りまで伸びており、さわさわと風に揺れていた。目には縁の無い眼鏡をかけていて、黙って見れば知的そうな感じにも見える。体格は年に比べては小柄な方で、軽い童顔も合わさってか少々幼い風貌をしていた。


「「……はぁ」」


 顔を見合わせると、二人で同時に深い溜息を吐く。

 そしてしばらく間の抜けた沈黙が続き、その後、茶髪の少年が『あ〜あ』と言って両手を頭の後ろで組みながら、ぼやく。


「……でもよぉ。真面目に、俺たち社会で生きてけんのかなぁ?」


「……確かに、俺もそうだな」


「蒼やんは実家継げばいいでしょうが。……俺は、何もないよ」


「そんなこと言うけどなぁ……。俺は本を読むのは好きだけど、別に本屋の仕事はしたくないんだよ」


 そう言って、また二人で一緒に溜息をつく。三年になり、『進路』という名の現実が迫ってきた最近の二人の、最早日課のようなものであった。

 何となく重苦しい空気になり、後は別れるところまで黙りこくってしまう。……それもまた、最近の風景だった。その日もまた同じように、いつもの平凡な交差点で沈んだ挨拶を交わし合い、一人帰路についていた。


 比較的人通りが少ない、その通りに本屋は建っていた。灰色のアスファルトに無造作に止められた自転車と、手前に停まっている数台の自動車が、本屋が廃れていないことを端的に表していた。屋根の看板には、今風のくだけた書体と明るい色合いで『朱石書店』とだけ書かれていた。

 その本屋の一人息子、朱石蒼汰あかいしそうたは、その顔を僅かに曇らせながら安定した収入を得ているその本屋の脇を通り抜け、裏口のドアに鍵を差し込んだ。そしてガチャリ、とつまらない平凡な音を立てた後、ドアを開け放つ。

 そのドアを開けた音に気付いたのか、本の整理をしていた母親が駆け寄って言葉をかけてくる。蒼汰はそれに意も介さない様子で、板張りの廊下を歩いていく。そして、店に並んでいない、所謂在庫の本が詰まっている物置を開け、中からダンボールを引っ張り出した。そのままガムテープを無造作に破って開け、中の本を色々と物色していると、ふとある本に視線が落ちる。

 その本には、柔らかいクレヨンのタッチで、『御伽大全集』と記されていた。その絵本みたいなほのぼのさとは裏腹に、辞書くらいの大層厚い活字の本だったが、蒼汰は全く気にせず乱暴にダンボールから取り出した。

 そして、呆れたような目線の母親を一瞥すると、言った。


「母さん、面白そうだからこれ読むよ」


「全く……、あんたって子は。それ、一応商品なのよ?」


「どうせこんな本、俺みたいな物好きしか読まないって。……じゃ」


 蒼汰は溜息をつく母親にそれだけ言うと、踵を返すようにとっとと階段を駆け上がっていく。

 二階にある自分の部屋を開け、そのままベッドへと倒れ込む。そしてしばらく、心地よい感覚に今日一日の疲れを癒す。

 やがて空も赤々と染まりかけてきた頃、ベッドから起きあがり、取り敢えずと制服から着替える。緑のチェックのシャツに、紺色のジーパンと、若干余所行き用の服を身に纏い、ふと、先程持ってきた本へと目を落とす。有り余るほどある店の本を、学校から帰ってきてから読むのが、蒼汰の数少ない楽しみの一つだった。

 基本的に蒼汰は頭は悪くなく、また眼鏡をかけているからといって運動が出来ない訳でもない。ただ、先程の話の通り、蒼汰にはあまり熱くなれるものが無かった。趣味と言えば読書くらいしか無く、これといった特技もないし、なりたい職業が特にあるわけでもなかった。そのため、自分の家の職業柄大量にある本を、ベッドに寝ころびながら読むことが蒼汰の日常だった。

 つまらない人生だな、とは自分でも思っていた。ただ、別にそこまで居心地が悪いわけでもなく、そんな人生を変えようと何かに打ち込むつもりもなかった。ただ、怠惰な毎日を送っていた。

 そのせいか、それとも元々なのかはわからないが、蒼汰は日常的なものより、ファンタジーを好んだ。夢のような体験が散漫と書き綴られているその様は、蒼汰の心を激しく踊らせてくれるものだった。特に蒼汰は童話、言うなればおとぎ話のようなものが好きだった(厳密には少し違うが)。幼い頃には、『こんな世界に住んでみたいな』と子供心にも思ったものだった。

 そんな風に、蒼汰はいつものように読書を始めようと、ベッドの脇の机の上にある『御伽大全集』を手に取り、仰向けに寝そべる。

 ふぁあ、と軽く欠伸をすると蒼汰はこれもまたいつものように、新品の本には結構ある、しおりを取り除こうと本を開く。読んでる途中にそれを取り除き、集中を破られたくないためである。

 そして、その為に本を開いたとき、蒼汰は本の『異変』に気付いた。

 それに気付いたとき、蒼汰は大きく目を見開いた。


 ……光ってる!?


 蒼汰が持っているその本『御伽大全集』は、誰に命令されるわけでもなく煌々と、柔らかくとは程遠い、まるで劈くかのような強烈な閃光を放っていた。その輝き方はまるで蒼汰の存在を理解して、それでいて蒼汰に何かを訴えかけているような、そんな輝き方だった。

 どんどん鮮度と明度を増していく輝きに、蒼汰は思わず眼を閉じ、本を投げ出す。それでも本はそんなことなど全く関係ないかのように、寧ろ殊更輝きを強めていった。しばらくしても光は途絶えることなく、燦々と狭い部屋を照らし続けた。

 やがて、蒼汰は耐えきれないかのように、恐々と再び眼を開いた。瞬間、さっきよりも強い閃光が両目を襲ったが、この不可解な現象への興味の方が勝ったのか、蒼汰は細目になりながらもその眼を決して閉じはしなかった。部屋の隅に投げ捨てられた本は、その輝きを弱めることもなく、ただ、光っていた。

 蒼汰はベッドから降り、右腕で眼を隠しながら恐る恐る本へと近づいていく。やがて、もう手が届くくらいまでの距離まで蒼汰が接近したとき、本は突然、……黙した。

 まるで、蒼汰が自分に興味を持って近づいてきてくれたのを察したかのように、本当にいきなり、輝きを失った。

 蒼汰はその不思議極まりない光景に、益々興味を惹かれた。心を突き動かす強烈な興奮と、これほどまでにドキドキしたのはいつぶりだっただろうかと、客観視する自分が混ざり合いながら、ゆっくりと、光を放たなくなった本へと、触れた。

 そして、そこに書かれていた一番最初のページの文を、何気なく読んだ。


『ようこそ、御伽の世界へ。そして、これからのあなたの物語に一片の幸あらんことを』


 ざひゅっ!


 瞬間、空間が、切れた。まるで鋭い刀剣で空気を素振りしたかのような、鋭利な斬空音とともに、この部屋を形成していた全てが、空気が、薙ぎ、捻じ切られる。まるでそこには何も無かったかのように、自分と、その本以外の全ての存在が『見えなくなった』。空間は、切れた歪みから、傷口のようにどんどんと歪みを広げていく。まるで、寒気がそのまま身体中を駆け回るような感覚。

 蒼汰は何をすることも出来ず、まるで自分が宙に浮いているかのような現実感のないこの『部屋』を眺めていた。もはや、現実かどうかもわからなかった。

 そんな蒼汰の目の前で、本は、徐に歪み始めた。蜃気楼のようにぐにゃぐにゃと形を失い、その中心が黒く染まる。その黒点は徐々に本を浸食し、ついにはさながらブラックホールのような大きな黒い渦となった。そして、ただ呆然としている蒼汰に向かって咆哮するかのように荒れ狂い、唸りを上げる。

もはや部屋では無くなったこの場所には、蒼汰と、黒渦しか存在していなかった。黒渦はだんだんと、その空間でさえも浸食するかのように、その規模を増していく。

 蒼汰は、逃げ出したかった。本能で『このままではまずい』ということを悟っていた。だがそんな思いとは裏腹に、蒼汰は身体どころか、指の一本さえも動かなくなっていた。支配されているのか、まるで自分の身体ではないようだった。やがて、蒼汰の足下にまで渦が迫って来たとき。

 蒼汰の、限界だった。


「うわぁあああぁぁあああ!!!!」


 自分自身の鼓膜も破れるのではないかというほどの、空気を引き裂く悲鳴が蒼汰の口から叫びとなって吐き出される。だがそんな蒼汰の悲鳴も虚しく、寧ろその悲鳴を合図にしたかのように、黒渦は一気に蒼汰の身体を飲み込む。

 脚、腰、胴、腕、手、首。そしてとうとう顔までもが飲み込まれるというとき、蒼汰はもう一度、声にならない悲鳴を上げた。


「〜〜〜〜ッツ!!!!」


 そこで、蒼汰の意識は途切れた。

 

後書き劇場

第一回「こんにちは、初めまして」


どうも、作者です。実は一応これの他に、不定期のものが一つと、連載中のギャグが一つあったりします(笑)。興味が湧いたら、読んでやって下さいませ。


そして、この作品ですが。童話や昔話が好きな人の夢を壊してしまったらなー、という思いが少しあります(汗)。でも、それを有り余って作者の愛の詰まった作品だと自負しております!……愛だけは(おい)。

まだまだ未熟な作者なので、文章の指摘など、いつでもお待ちしております!当然、感想もです!!

では皆さん、また次の話のここで会えることを願っております。

以上、作者でした!

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