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人生最後で、一番濃い一月  作者: 津川サブロー
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最終話

 あれから、2年たった。


 私は、高校を卒業して大学生になった。いろんな人と喧嘩して、もうどうしようもないぐらい嫌いな人ができたりした。それと同時に、本当に大切な友人ができた。『素の私』とか『作られた私』とかそんなこと考えなくなった。自分の好きなように生きて、好きなようにしている。昔、そんなこと考えていたよりも幸せだ。


 私を、こういう考えにしてくれた人はちょうど2年前に亡くなった。理由は難病による心臓発作かなんかだったらしい。突然の訃報に私は動けなくなった。涙も出てこなかった。人って、本当に悲しい時涙もでないんだってそのときはじめて実感した。呆然としたまま、思い出の屋上にあがって何個も授業をさぼって一人空を見上げていたのを今でも覚えている。


 それで、察したんだ。多分、最後私に託したのは生きているときには言えなかった私へのメッセージなんだって。


 だから、それを読むために2年間色々あったけど耐えてきた。いつのときでも、死にたくなるときがあった。今まで、本当に仲良くなった人と本気で喧嘩して、絶縁までしたときが一番死にたくなったかな。けれども、その手紙があるからということをモチベにして、今まで生きてきた。多分、私がこう思うのを織り込み済みで19歳という設定にしたんだろうと思うとずる賢いなと思った。


 今日は、私の誕生日。19歳になった。これで、手紙を開けることができる。先生にお願いして、卒業した高校の屋上で一人あけることにした。


 空けると、束になった便箋が入っているのがわかった。




 ※※※※※※※※※※※※※※


 拝啓。平井楓様。


 お元気にしてますか。この手紙読むころには、19歳か。おめでとう。


 僕が、死んで2年かー。もう、そんなに経ってるんだなぁ。今、これ書いている時点では、それがどんな感じなのか、わかんないや。でも、もう2年か。あぁ、悲しい。悲しい。


 君は、知ってるかわかんないけど、病気なる前は普通の学生生活送ってました。友達もいたし、勉強もそれなりにしていたんだ。けど、それはあの日、医者にもう君は長くないって言われて変わったんだ。


 あまり知られたくなかったから、最初は少ない友達だけに伝えたんだけど、思ったよりも広まってしまったんだ。広まると、学校に行くたびにいろんな人から、大丈夫?、かわいそうだね、とか言ってきたな。最初のうちは、聞き流しておくことができた。けれど、だんだん腹が立ってきた。こいつらは、僕を心配しているように見せかけて、自分自身の自己満足をしているだけだと気づいてしまったから。


 一度そう思ってしまうともう、自分を止められなくなった。まず、どの友人とも絶縁した。そして、学校に行くのをやめてみた。すっきりしたよ。学校に行かなかった2か月間は。誰も自分のことを知らない中好き勝手やれるのは。


 一人暮らしし始めたのも、その時期なんだ。本当は遠いからでも、親が亡くなったとかそういうわけでもなくて、ただ一人でいたかったから一人暮らし始めたんだ。普段なら、反対されそうなことだったけど、もう僕が長くないの知ってるから好き勝手を許してくれたよ。面白いね。人って。


 最初二月は、それで楽しかったけれど、途中から虚しく感じてきたんだ。多分一人でいすぎて、少しは人とのつながりが欲しかったんだと思う。でも、今までの僕を知っていて、事情を知っている人は嫌だった。そんなときに現れたのが君だったんだ。君なら違うクラスだし、僕のこと知らないと思ったから。


 多分、僕は『違う私』でいたかったんだ。あんなこと言っていたのに、結局自分も同じことをしていたんだ。ごめんね。同族嫌悪の一種かなんかで、僕と似たことをしていたから気に入らなかったのかもしれない。君は、重く受け止めて変わろうとしていて言った本人ながらすごいなと思ったよ。『違う私』でいることで、死ぬという現実から逃げたかったんだと思う。


 だから、君は強い人だよ。この先もやっていけるさ。


 そうだ、そういえば、僕は伝えてないことが一つあります。



 君が好きです。



 でももう、僕が死んでから2年も経っているんですよ。2年も前の過去の人間に囚われてばかりではいけません。


 だから、僕からの提案です。


 この、気持ち悪い手紙を燃やしてください。そしたら、もう今度こそ君とはおさらばです。新しい誰かを見つけて幸せになってください。幸せにならかったら化けて出てきてやりましょうか(笑)。


 それでは、今度こそ。さよなら。元気で。


 敬具。阪上優馬。


 ※※※※※※※※※※※※




 気づいたら私は涙していた。便箋がどんどん自分の涙でにじんでいく。


「あの、バカ野郎……」


 気づいたら力ない声で私は一人呟いていた。


 そして、彼の願いをすぐ叶えてあげることにした。


 学校を後にすると、私はあの最後に彼と会った公園に向かった。


 端の方に着くと、私はコンビニで買ってきたライターに火をつけ便箋に近づけた。


 彼の思いが詰まった便箋は、あっけなく燃えて煙となり空へ消えていった。


 その光景を見ながら私はこう呟いた。


「さよなら」


これで完結です。ありがとうございました。

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