第6話
次の日の昼休み。別に屋上に向かわなくてもよかったのだが、3週間も同じことを繰り返していると、自然と足が動いてしまう。
屋上に着くと、先に彼女が立っていた。いつものだらっとした感じではなく、まっすぐ僕のことを見て座っているのではなく立っていた。意を決したかのように、彼女は言った。
「昨日はその……、ごめん」
「謝る必要はないよ。だって……」
僕が話を続けようとしたところを彼女によって遮られこう続けた。
「今日、放課後いつか前に行った公園に来てくれない?」
僕がどうしてと言おうとする前に「それじゃ」と言って彼女は去っていった。
放課後。僕は約束通り例の公園へやってきていた。ここでも、先に彼女が来ていた。僕を見つけると彼女は手を振った。
「この公園来るの久しぶりだね」
確か、この公園で2時間も遊んでいたのは、2週間前のことのはずだが、体感としては2か月ぐらい前のことのように感じた。
「そうだね」
と僕も返す。
彼女は、少し間を置いたあと話し始めた。
「昨日、君に言われてから考えたの。確かにそうかもしれないと思ったの。私が、自分で人をシャットダウンしてたんだって。そう気づいたから、早速自分を作らないで話しかけてみたの。少し驚かれたけど、すぐ打ち解けたの。今度、みんなで遊びに行こうってなったの!君の助言は本当だったんだ、って思ったんだ。だから、ありがと」
そう言うと君は笑った。その笑顔は、本当に美しいもののように感じた。
「そうか。ならよかった。なんせ、こんな根暗と仲良くなれるぐらいなんだから。そらぁ、仲良くなれるでしょ」
と、僕が言うと彼女は少し頬を赤らめながらこうぼそっと呟いた。
「そんなことないよ…。だって、阪上くんすごくかっこいいから……、さ……」
彼女は、意を決したようにまっすぐ僕の方を向いてこう言った。
「ねぇ、阪上は好きな人いるの?」
そう彼女が言ったとき誰だろうと考えた。考えを巡らせど巡らせど浮かぶ人は、一人しかいなかった。もちろん平井だ。つかつかと人の心の中に土足で踏み入れてきて、荒らして帰る。そんな彼女だった。でも、僕はもう長くない命。だから、そう自分の中で思っていても返す言葉は自分のなかでは決まっていた。
「いるけど、教えない」
そう僕が言うと彼女はぷくーと頬を膨らませてこう言った。
「どうしてよ」
「平井はどうなの?」
質問に質問で返すことで、僕は彼女の質問をはぐらかした。誤魔化しているというのは彼女もわかったはずだ。でも、彼女はもう意を決しているからか僕に指をさしてきた。
「私は、君」
何も言えなくなった。短い人生ではあったが、これは間違いなく奇跡なんだ。僕が思っている人と、彼女が思っている人が一致していたなんて。でも、彼女はまだまだ先は長いけれど、僕はもうそんなに長くはない。未来がまだまだある人間が、もうすぐ消えていく人間に固着してはいけないとそう僕は思った。だから、本当は「僕も」と言いたいところをぐっとこらえてこう言った。
「そう、か」
彼女は、はぐらかされたと思ったのだろう。こう返した。
「答えになってないよ。答えてよ」
まっすぐな瞳で僕を見てきた。でも、僕はもう決心はついている。答えは揺るがない。
「いや、僕だって好きだよ。友達として」
そう言うと、彼女はあからさまに「えっ…」という顔をした。
「私の好きは、友達のそれじゃないんだけど」
「わかってる」
そう僕が言うと振られたのだと確信したんだろう。少し悲しそうな顔をした。
「あーあ、初めての告白だったのに振られちゃったよ」
と彼女はわざとらしくおどけた感じで言った。
そのとき、僕はなんでかわからないがこれが彼女と会うのが最後だと感じた。予想よりも僕の命は長くない、そう感じた。だから、あらかじめしたためておいたあれを渡そうと思った。
そう僕が思っている中彼女はもう帰ろうとしていた。
「待って」
そう僕は言った。
「何?」
「これを受け取ってほしいんだ」
不審そうに彼女は手紙を受け取った。
「何よ。振られて傷心気味なのになんなのよ」
「これはね、19歳になるまで開けないでほしいんだ」
「どういうこと?」
「いいから、受け取ってくれ」
やはり、彼女は不審がっている。けれど、しっかりとそれを受け取ってその場をあとにした。
やりきったという感覚があった。それと同時に意識が遠のいていく感覚を感じた。余命まであと2日じゃなかったのかよ。くそ。もうちょっと生きたかった。幸せになってくれたらいいな。そう思いながら、僕の意識は遠のいていきそのまま地面へと倒れてしまった。
その日、病院に運ばれた僕は意識が戻ることなく明日、そのまま帰らぬ人となった。
まだ、もう少し続きます。