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人生最後で、一番濃い一月  作者: 津川サブロー
6/8

第5話

 私は、昔からこんな八方美人を演じていたわけではなかった。


 私の出身は元々関東で、中学までは関東の学校に通っていた。でも、そこで私は不登校になった。原因は、いじめだった。いじめられた頃の記憶なんて思い出したくない。それもあり、父の転勤もあってこっちに引っ越したんだ。


 こっちでは、今度誰も友達がいない。だから、自分が新しく生まれ変わったみたいに感じた。今度は、好かれるために努力をしようと思った。まず、髪型を変え、薄くだけどメイクするようになった。なるべくいろんな人に話しかけるようにした。どんな話題でもにこにこして頷くようにした。そうすると、人というのは単純でみんな寄ってきた。勉強も心機一転頑張ったから成績も上位になって、男女どちらからも羨望(せんぼう)の的となった。


 1年はそれでよかったんだ。けれど、2年になって私は少し違和感を感じた。別に、クラスが変わっても友達はできた。2年も八方美人でいられた。だが、何かが違う。そう感じ始めた。


 ある日、私はある男の子から告白された。別に嫌いじゃなかったから付き合い始めた。でも、違うと感じた。この人が見ているのは、『素の私』じゃなくて『作られた私』なんだと。それは、そうだ。こっちに来てから素のなんて出したことなかったから。でも、一度そう感じてしまうと気持ち悪くなった。もちろん、その人とは別れたけどそれでは済まなくなった。この環境が、逆に嫌になってしまった。自分で作った環境のはずなのに。『作られた自分』しか見られない環境が嫌になった。


 そう思うとここから逃げ出したくなった。だけど、そんなことしたらまた、居場所を失う。悩んだ結果、昼休みだけひっそりと屋上にいることにした。そんなときだ。君が現れたのは。大体の人は私のことを少なくとも名前と顔ぐらいは一致するぐらいに知っていると思う。でも、君なら…………、私のこと知らないかなとそう思った。だって、私とは違うクラスだし明らかに友達がいなさそうだったから。それに、君は他人のことに興味なさそうな雰囲気をしていたからだ。だから、『素の私』をさらけ出したいという欲望を満たすために君に話かけたんだ。


 『作られた私』は、おしとやかなお嬢様みたいなキャラとなっている。けれども、『素の私』は遊園地でガンガンはしゃぎたいタイプだ。そう、誰かと『素の私』で交流したかったのだと思う。だから、クラスの友達がどうこうといわれて混乱してしまったんだ。過剰意識であったとは思う。でも、確実に『素の私』の時に『作られた私』の話で混乱してしまったんだ。だから、そう思ったら君に会うのが少しつらくなって屋上に行けなくなったんだ。


 でも、そうすると『素の私』をさらけ出す場がなくなった。『素の私』が、さらけださないと『作られた私』もほころびが出てきた。そう、どちらも崩壊しはじめたんだ。それが、ここ最近重なったから、今日は放心状態になって、あんなことになってしまったのだと思う。



 ―――――――――――――――――――――――



「だから、正直今日君に会ってよかったと思うんだ。だから…………、ありがとね。今日私と会ってくれて」

 これで、彼女の話は終わりのようだ。なんだ、不思議なもやもやが残る気持ちに僕はなった。

「それが、どうしたというんだ」

 彼女は驚いたように僕の方を向いた。

「何が、『素の私』とか、『作られた私』だよ。そうやって、自分で壁を作るからみんな本当の意味では近づかないんだぞ。わかってるのか」

 そう言うと彼女は黙ってしまった。それが、僕は気に入らない。そうか、僕は怒っているんだ。

「確かに、君は八方美人で誰からも好かれている。けれども、同時にみんなから高嶺の花と言われているのは知らんのか。みんな内心では、君が壁を作っているの知っているから敬遠してるんだぞ。中学時代どんないじめを受けていたか、それで君がどれだけ傷ついたのかなんて知らない。けれども、それをいつまでも引きずるから本当の意味での友達ができないんだぞ。その、君の言うところの『素の私』なんて隠す必要ないじゃないか。それで人とぶつかれよ。そんで気に入らない人が出てしまっても仕方ないだろ。全員に仲良くできないのが人間なんだから。そんで気があう人と過ごせばいいじゃないか。まだ、“君は”先が長いんだから」


 僕が一通り言いたいことを言い終えても彼女は黙ったままだった。少しの間があったあと、彼女は何も言わず部屋から出て行った。

「あーー、折角女子を部屋に入れたのに帰しちゃった」

 思わず独り言を言ってしまった。初めて自分の部屋に女子を呼んだんだけどな。まぁ、いいか。そう思って時計を見た。夜の8時を越していた。余命宣告を受けてから3か月まであと2日になろうとしていた。あまりにもどうでもいいことを一人呟いたなと思った。けれども、そうでもしないといつ死ぬかわからない恐怖が僕を襲ってくるような気がした。

「そういえば、珍しく人に怒ってしまったな……。こうなってから人への関心を0にして生きてきたのに……」

 嫌な記憶を思い出しそうなのを、さらに独り言を言うことによって消そうとした。

 それでも、思い出してしまうから僕は、そのままベッドにダイブした。

 すると、そのまま寝てしまっていた。


だんだん文字数が多くなっている気がしますね…。キリが悪いのでこうなっています。お許しください。5話ぐらいで終わるとは言いましたがまだ続きそうです。

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