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「なんで俺が可愛いって言ったら怒るんだろうなぁ、あいつは」
これだけは不思議でならない。エルザは美人だと伝えても怒ったりしないのに。
「言うタイミングが悪い。その一言ね」
「違うな、二人きりの時も怒るぞ」
「……とにかく、あなたのそれって、まるでアカデミーの初等科の子みたいだわ。早急にやめないと嫌われるわよ」
部屋に備えられているティーポットを差し出される。何をしろと言われる前に手を添えた。ふつふつと暖かくなるのを感じて手を離せば、エルザは手早く缶から茶葉を取り出してポットに入れ、そのまま再びこちらに向き直った。睨まれて少々の居心地の悪さを感じる。
「初等科ってなぁ。ガキどもじゃあるまいし」
好きな子をいじめる子供のような言われようだ。
そもそも子供の頃から俺は人をいじめたりなんてしなかった。対象がいなかった、ともいう。
「いいえ。あなたは初等科のとき私をよくからかってきたわ。ちゃあんと覚えてますからね。ルウ坊や」
この物言いは俺を最大級に子供扱いする時の言い方だ。ゼンが言われるのを見たことはない。
カップに琥珀色の液体が注がれ、差し出された。言う前から輪切りのレモンが浮かんでいる。
「……悪かったよ、あね様。俺はどうすればいいかな」
素直にご教示願うが勝ちだ。
どことなく姉ぶりたいようにも見えるからな。
案の定得意げに胸を張ったエルザは俺宛に紐でまとめられている封書の束を取り「あったあった」とその中から一通を取り出した。
厚手で隅に金の薔薇が箔押しされた豪華なものだ。
俺に断らずに開封し、中の手紙を広げて見せる。
「……舞踏会に誘えって?」
一行だけ読み、肘をついた手に顎を乗せる。これ以上読む気はない、の意思表示だ。
「そうよ。恋愛は舞踏会で生まれるの。普段子供っぽくからかってくる男の、いつにもないスマートなエスコート! ギャップ萌えってやつよ!」
「前にも一度踊ったことがあるだろ。今更な気がするけどなぁ」
「甘いわよ。その時は正真正銘ただの女性避けだったでしょう。でも今は違うわ。あなたはちゃんと好意を伝えているし、そんな相手の誘いなんだから意識して当然のはずよ」
「言われてみれば、たしかに説得力はあるな」
「でしょう? ダメ押しでドレスも贈れば完璧ね。これで落ちない女の子はいないわよ。よっぽど男に問題がない限りはね」
「ドレスを贈るって……お前、意味わかって言ってんのか?」
熱弁を振るう幼馴染は途端にキョトンと見返してくる。この辺りに疎いのも、俺のせいなんだろう。
そもそもその疎いやつの助言が役に立つのだろうか、と考えては負けだ。
「オーウェンからドレスを贈られたことはあるのか?」
「……ないけど。そもそも舞踏会自体、あまり参加してこなかったし、ドレスも城にたくさんあるじゃない。い、今更オーウェンが贈ってくれなくても問題なかったもの」
エルザは必死に言い訳するが、俺の言いたいことはそこじゃない。
「女に服を贈るってのは、脱がせたいって意味だぞ」
途端に拳が飛んできた。「そんなわけないじゃない! オーウェンをあなたやレグみたいに言わないで!」と喚かれるおまけ付きだ。
「あなたは本当にデリカシーが足りなさすぎるのよ! 私のオーウェンを見て勉強しなさい!」
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