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よろしくお願いします。
「女王陛下、いかがなされました」
ララを離して膝をつくも、女王陛下の瞳はまっすぐにララに向けられた。
「ララは、この世界に残るのだな」
話しかけられたララも慌てて私と同じく膝をつき、赤い瞳と目線を合わせた。
ララの金色の瞳は白の国からの書状を受けてスペードの城に残ると決めた時と同じく、決意に満ちた色を写し、頷いた。
「はい。私はここで大切な縁を得ました。かけがえのないものだと思っています。とてももう手放すことは出来ません。せっかく帰してくださると言っていただいたのに、我儘を言ってしまいますが、お許しいただけますか」
「余が、許すことではない。スペードの国に行くのなら、決めるのはスペードのキングだ」
拗ねた顔を見せず、目も逸らさず、女王陛下は更に口を開いた。
「スペードのキングの言う通り、余が我儘を言った。知らない世界に突然来て、怖い思いもさせた。白の国に残りたくないと思われても仕方ない、と思う。……でも、その……ララがこちらで暮らすなら、余がお前の生活の責任を持たなければならない、から……白の国に、籍を置いて欲しい。そ、その方が、スペードの城の侍女の身分よりも、過ごしやすいと、思う」
女王陛下は、叱られる前の子供のような上目遣いでララを見つめる。
ララがチラリとルーファスに目を向ければ、ルーファスは笑顔を返し、ララも頬を緩めて頷いた。
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
ララの明るい声に、答えを受けた女王陛下はとても嬉しそうに頰を赤く染めた。
「三ヶ月に一度のお茶会には必ず出席するのだぞ!」
「はい。必ずですね」
はしゃぐ女王陛下に返すララの声に笑いが混じる。可愛い男の子に懐かれたらララだって嬉しいに決まってる。
他にも条件を付けてやろうと考えているらしい女王陛下を制してルーファスが「さて、それでは我々はお暇させていただきます」と言った。
たしかに気が変わらないうちに帰った方がいいだろうと立ち上がると、手を取られた。
小さな白い手の主はこちらを上目遣いで見つめ、極上のルビーの輝きに息を呑む。
「フェリクスが友達なら、僕もエルザの友達……?」
ぼ。
「ぼ……」
僕呼びが来たわ!!
ちょっとちょっとどういうこと!?
ララには一人称『余』のままだったのに!?
白の女王陛下の一人称は本来は『僕』だ。
しかし女王の位を継いだ時に、公式での言葉遣いを改めた。
だからこれは、相当好感度が上がってからでないと起きない一人称間違えちゃったイベント!!
何を隠そう一番好きなイベントをまさか特等席で見られるなんて!!
なんで今起きちゃったのかさっぱり分からないけど……もしかしてクッキー? 手作りクッキーで好感度爆上げ?
えー、こんなことで上がるならもっと早くに貢いだのに!!
一番好きなのはショーンルートだけど、隠しの女王陛下ルートも私は大好きだ。
ただ女王陛下ルートはエンディングだけが頂けない……なぜならエンディングはなんと十年後。女王陛下の年齢は二十歳だ。立派に女王陛下として立つ彼の隣に寄り添うヒロインのスチルで、エンディングを迎える。
……なんで成長させちゃうかなぁ。二十歳なら他にも二人いるし、おまけに背もヒロインよりかなり高くなっていた。
違うんだよ……背が高く立派な風采の男性なら他にもいるの! 私が見たいのは可愛い可愛い女王陛下とヒロインの愛のエンディングなの!
いや、いいのよ。成長を見たい母的な目線でプレイする人もいるって分かってる。幼いからこその葛藤を乗り越えてのエンディングなわけだからね。『大きくなって立派になったわねぇ』的な目線で見るのだってもちろん楽しいし、実際私もそう思った!
けど、二次元でくらい成長しない少年を愛でても良くない!? ルーファスやゼンだってあんなに可愛かったのに今じゃこんなにも大きくなっちゃって!!
あー、あの頃はみんな可愛かったなぁ。って、それじゃあ女王陛下もいつかは大きくなるってことじゃないの!?
やだよぉ~永遠の少年をファンディスクやら続編やらで愛でていきたかったよ~~。
ああ、あんなに可愛いショーンやノエルもいつかおじさんになってしまうのか……いや、今からイケオジにするための英才教育を施すという新しい楽しみ方も有りか!? それよりもいっそ新しく少年を見繕って逆光源氏をするしか……!?
「エルザ」
耳元で囁かれて思考が停止する。
後ろから抱きつかれて嗅ぎ慣れた匂いが鼻先を掠めた。
「愛していますよ……俺は。あ、愛しているんですよ……」
「な、なななによ! 突然!」
急な愛の言葉には流石に嬉しいよりも先に恥ずかしさが脳内を支配する。
いやだってここにはルーファス達だけじゃなく白の国の方達もいるのに!
「自分に言い聞かせてんなぁ……」
「苦労かけますね……」
ルーファス達を伺い見れば呆れた目でこちらを見ていて焦る。
「オーウェン! そういうのは城に帰ってからにして!」
「愛してますよ……ほんとに……愛してる、よなぁ……」
抱きしめる腕に力がこもり、焦りが強まる。
と、先ほど手を握られていたはずの白の女王陛下の姿が見えな……あ、フェリクスの後ろにいた。……どうして隠れているの?
「……さ、帰るか。オーウェン、こいつのことは末永く頼んだぞ」
「愛していますので大丈夫です……」
「もう、やめてったら!」
みんなが私を哀れむような目で見てるから!
そういうのは二人きりの時にだけ言うことだ!
どれだけ訴えても、誰も私を助けてはくれなかった。
こうして私は無事に白の国の城を後にした。
ノーマルエンドで自分の世界に帰るはずだったヒロイン、ララと一緒に。
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