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よろしくお願いします。
城の廊下を歩くオーウェンの後ろをとぼとぼとついていく。
廊下の壁に取り付けられた灯りがふるふると揺れ、月明かりが窓から射している。
「……今日は月が綺麗ね」
ぽつりと漏らすと、足を止めたオーウェンはまっすぐに私を見つめて「そうだな」と答え、再び歩き始めた。
少しくらい月を見て、お話ししてくれてもいいのに。
迷わず歩みを進める恋人の背中に、どうしても不貞腐れた気分になってしまう。
恋人の向かう方向は分かってる。
居住棟の私の部屋だ。
……この人は、私を部屋に送り届けるつもりらしい。
先を歩く人に小走りに追いつき、手を握った。
少しでも部屋に着くのが遅くなればいいのに。
私の意図が伝わったのか、オーウェンの歩く速度は緩み、手はそっと握り返された。
それでも、広い城とはいえ着くものは着いてしまう。
私の部屋に着いたオーウェンは、にっこり笑って「今日は楽しかった」と言ってくれた。
「私も楽しかったわ。これ、本当にありがとう」
観念して胸元を押さえて笑顔で伝えると、オーウェンはさっと周りを確認して押さえる手を取り甲にキスを落とした。
しかし、口元見て、瞳を見つめるも苦笑が返される。ダメらしい。
一度してしまえばもっともっとと欲が出るから仕方ない。
小さく嘆息して扉を開ける。
きっといつも通り扉を閉めるまで外にいてくれるつもりなのだ。
「また明日」
「ええ、また……明日ね」
扉が私の気持ちを知っているように、ギィと嫌な音を立てて閉まっていく。
姿が見えなくなる寸前、堪らず手を伸ばして太い腕を掴んでいた。
バタンと勢いよく扉が閉まり、それに額を当てて立ちすくむ。背後には同じく固まっているらしい気配があり、お互い言葉が出ない。
やってしまった……!
いや、でも仕方ないじゃない。
恋人なのに、こんな。門限が厳しいお嬢さんじゃあるまいし。
頭がグルグルと回転しているような感覚に目眩がする。
違う。もう少しだけお話がしたかっただけ!
少しお話ししたら、それで今日は本当にさようなら、よ。うん。
それだけだったら。
何もないのだから、普通に話しかければいいのに、何を言えばいいのかわからない。
びくりと体が震えた。
扉に付く手が暖かく包まれ、背中に自分のものではない熱を感じる。
どうしよう、何を言えばいいの……?
「エルザ」
混乱していると後ろから笑いを堪え切れないとばかりの震える声がして。
笑い?
「全部、声に出てるぞ」
「うそ!!」
全身から火が出たように熱くなり、振り返ると笑いを堪える恋人がそこにいた。
「門限……ふふっ……あったのか……?」
「最初からなの!?」
お腹を抱えて笑われた。
「あー、もうほんと可愛い」
目尻に溜まる涙を拭いながら言われても嬉しくない。睨みつけて扉の取っ手に手をかけた。
「もう帰っていいわよ。お疲れ様」
「仕事か」
取っ手を持つ手を取られ、扉を背に押し付けられた。
大好きなエメラルドグリーンの瞳が目の前で楽しげに細められ、怒りを持続するのがとても難しくなる。
「何もしないから、泊まって行ってもいいですか?」
口をまっすぐに引きむすんだ。
また敬語だ。何度言っても治らないのだから。
今度こそペナルティを与えなきゃ。
何になったんだっけ?
触れるの禁止は私が嫌だから駄目だって言ったはず。
どうしよう、何か、言わなきゃ。
「…………何も、しないの……?」
薄い唇がゆっくりと、弧を描いた。
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