63番外編 あの男と残りの七人
よろしくお願いします。
バタバタと複数の足音がして扉に目を向けるとと、駆けつけた保護者二人はエルザを見てどでかく息をついた。
「ったく……」
「……なによ、ちゃんと釣り上げたじゃない」
「無事だったから良かっただけのことでしょうが……やはりこんなやり方は二度とさせませんからね。心臓が一つでは保たない」
ルーファスとゼンに睨まれて拗ねるエルザを庇うか見捨てるか一瞬悩むが、こいつらの間には入らないでおこうと決めた。
さりげなくソファから立ち上がり、静観の意を表す。
「嫌よ。またこういうことがあったら私が囮になるからね」
「今回は仕方なかったとはいえ、こういうことを起きなくさせるのが俺達の仕事なんじゃないのか? 起こってからを考えてどうするよ」
ルーファスの言葉にエルザは言葉を詰まらせた。
「それも、そうね……迷惑かけてごめんなさい」
一応は反省していたらしいエルザは素直に頭を下げたが、保護者の片方はため息を吐き、片方は肩を竦める。
「迷惑じゃねぇだろ」
「今回のはね」
二人の様子に一瞬考えたエルザは二人に駆け寄りそれぞれの手を取った。
「……心配かけてごめんなさい?」
「ああ、心配した」
「もう二度としたくない類の心配ですよ。本当に」
「ごめんなさい。でもみんなが一緒だったんだから、危ないことなんてないわよ」
開き直るエルザは再び四つの目から睨まれることになったが、ツンと顔をそらして受け流していて少し笑ってしまった。
反省してるんだかしてないんだか。
「キング、クイーン。あちらで倒れていた男も確保しました」
「わかった。すぐに向かう」
後から現れた補佐殿はいつもと変わらぬ様子で二人に声をかけ、ルーファスとゼンはエルザに休むよう言いつけて去っていく。
補佐殿も踵を返そうとしたが、その前に待ったがかかった。
「……オーウェン」
「……なんでしょうか」
いつのまにかエルザは俺の後ろに身を隠していて、動けないようにがっしりと体を掴まれた。
思わぬ温もりに内心焦る俺を放置して、エルザはそのまま補佐殿に恐る恐る問いかけた。
「……お、怒ってる…?」
それは俺にとっては予想外の質問だったが、補佐殿は一瞬だけ俺を見て押し黙り、目を閉じた。
音もなく息をついて目を開ければ俺が見たこともないほど優しげな表情をして、これまた優しい声音で俺の後ろに話しかけた。
「怒ってなどいませんよ。きちんとお伝えしていたことを守っていただいておられたのは見ていましたし、部屋に入った途端に男もろとも意識を失わされるなど私にも考えも寄りませんでした。あなたは悪くありません」
「……部屋に入ったら男の人が急に倒れたのよ」
「それは驚かれたでしょう。後は私達に任せて休んでいてください。パンジー殿にこちらに来ていただくようお願いしていますから、すぐに来てくださいますよ」
「わかったわ。……本当に、怒ってないのね?」
俺の後ろから恐々出てきたエルザは補佐殿の前に歩み寄った。その表情は見えない。
「怒ってませんよ。今まで被害に遭われた方々はお気の毒ですが、あなたのお陰でこれから被害に遭う人はいなくなりました。良いことをされましたね」
「……ええ、本当に。それが一番嬉しいことね」
「はい。ですがエルザ殿が危ない目に合われるのはキングもクイーンも気が気ではないでしょうから、今後は控えて差し上げてください」
「それは状況に寄るわね」
いつもの調子が出てきたらしいエルザは戯けて言うが、補佐殿はその様子に笑みを深めた。
「その言葉、しかとお二方にお伝え致しましょう」
「こ、今後は控えさせていただきます……」
「そうして差し上げてください。お二人とも私が迎えに行く必要もなくこちらに来られるくらい慌てておいででしたからね」
「……あとでもう一度きちんと謝るわ」
「ええ。それが一番です」
和やかに話す二人の会話を聞いていたらパンジーが駆けつけてきた。
パンジーにエルザを預けて後処理に向かう補佐殿についていくことにしたが、この時の補佐殿の顔は見物だった。
「……ニヤけるのはやめていただけますか」
「いやー。お前、猛獣使いの才能あんじゃねーの」
「……誰が猛獣かなどとは問いませんが、嘘は申し上げておりませんよ」
珍しく頬を染めてこちらを睨むものだから、笑いがこみ上げてくる。
「しかしさすがだな、補佐殿。エルザが素直に言うこと聞くなんて、今まであの二人くらいだったのに」
むしろあの二人よりも扱いが上手かったくらいだ。
それにしても、二人はともかく補佐殿が怒っているかどうかが気になるんだな、エルザは。
怒られても許してくれるだろうという二人への信頼なのか、それとも補佐殿への……。
「ほんと、隙のない完璧人間だな、あんた。出来ないことねーだろ」
そういうのがいいってんならルーファスやゼンも違うよなぁ。
「嫌味か」
「いや、本心だって」
睨まれて思わずたじろぐ。さっきの引け目があるから睨まれると弱い。
「俺のどこが完璧なんだか。……エルザ殿は起きた時どのような様子でした?」
「あー……」
思わず言葉を濁す。せっかく助けたのに一瞬でも怯えてたなんて言ってやるのは酷だろうと思ったのだが、この優秀な男にはお見通しのようだ。
「ほら、それが答えだろ。……眠るあの人の側にもいてあげられない俺が完璧だなんて、嫌味以外の何でもない」
「……いりゃあ良かったじゃねーか。俺にルーファスを呼んで来させれば良かっただろ」
「俺はそれを決められる立場じゃない」
補佐殿は俺をまっすぐに見つめて、そうはっきりと断言した。
あいつに惚れる男ってのは、どうしてこうもうだうだと面倒なんだろうな。
「……祝勝会やろうぜ、オーウェン。いや、委員長とクライブも呼んで、エルザに振られた男だけの会ってのもいいな」
オーウェンの肩に腕を乗せて、いつもの調子で話しかける。ウザそうにされるが構うものか。
「なんだよ、その切なすぎる会合。勝手にやってろ」
「まぁ正確にはルーファス被害者の会だがな。オーウェンも仲間入りしよーぜ」
「断る。というか当たり前のようにエルザ殿に惚れた男扱いするな。俺はそんなんじゃない」
「またまた~。二人っきりの執務室でいつも何してんだよ?」
「仕事に決まってるだろうが。いい加減離せよ鬱陶しい!」
腕を乱暴に振り払って憤然と去っていく後ろ姿に笑いが堪えられなかった。
ああいうのが好きなわけだな、エルザは。
『だってお前らいっつもべったりなんだもんな。邪魔してほしくないからさー』
馬鹿な発言のせいで宙ぶらりんなまま持ち続けた想いは、地に落ちて砕けた。
だが、悪い気はしないな。
ありがとうございました。
次回からまたエルザ視点です。




