60番外編 あの男と残りの七人
よろしくお願いします。
華やかな会場中に人の声が溢れる。会場の隅ではオーケストラが楽しげな音楽を奏で、当然のように中央は開かれている。その周りを囲ういくつもある丸いテーブルには旨そうな軽食やスイーツ、色とりどりの酒やジュースが並べられていた。
通常より灯りは暗いものの、高い天井にあるシャンデリアは回る構造になっているのか光がキラキラと降りてきて幻想的だ。
一般的なパーティーと内装に変わりはないが、違うところといえばハメを外す参加者の服装と会場の隅に設けられた休憩スペースがカーテンで区切られていることくらいか。
その用途に想いを馳せ、仕事でなければなぁとまたしても残念に思う。
仮面の隙間から会場を眺めていると、頭上から声がした。
「キョロキョロするな。見失ったらどうするっ!」
「……委員長こそ、女から逃げてきたらダメだろ」
「…………に、逃げてなどいない……休憩しているだけだ」
「なら俺の後ろから出てこいよ……」
酒を片手に人混みに溶け込んでいても、後ろに頭一つもでかい大男を隠していては悪目立ちして仕方ない。
「保護者はどこ行ったよ?」
「父と母なら実家だが……?」
「ああ……わかった。ありがとな……」
会場にいる方の保護者を探すと複数の女に捕まっていて、助けを求める視線が向けられていた。
行ってやるかとも思ったが、複数の女を見張れていると考えれば問題ないのか、あれは。
「委員長もクライブを見習って女に囲まれてこい。仕事だろ」
「お兄さん達、良かったらお話しない?」
コソコソと話していると女二人組に声をかけられた。
こういうところでは複数でいると声をかけやすくなるから、ルーファスは俺に一人で行動させたわけだ。
「ごめんなさいねぇ、彼氏と参加しているの」
悪戯心が疼いて女言葉で答えると、面食らった顔の女二人は去っていった。
邪魔だと思ったがこれも話が早くてアリだな。
「……レグサス」
「ん?」
「すまないが、俺には心に決めた人がいる」
「……知ってるよ」
冗談の通じる相手限定だがな。
誤解を解くのに苦労していると、俺の後ろにいるこの男は突然大股で歩いて行き、見知らぬ男女の間に女をかばうように入った。
「止せ。断られていることくらいわかるだろう。女性をしつこく誘うなど恥ずべきことだぞ」
わぁ、カッコいい。
どうやら女にしつこく誘いをかけていたらしい男は突然現れた大男に恐れをなして逃げていった。仮面もあるから迫力倍増だな。
このお陰で助けられた女と周りで見ていたらしい女に囲まれることになって、委員長も無事に仕事を再開出来そうだ。良かった良かった。今のうちに逃げよう。
「おっ、俺には心に決めた人がいるっ! すまないが、貴女方のお相手は出来ないっ! ……レグサス! どこに行った! レグ!!」
名前を呼ぶな。
「せぇんぱーい」
逃げ出した先で幽鬼のように後ろに立たれて小さく悲鳴が出た。
「俺の後ろに立つなよ」
「えぇ?刺したりなんてしませんのにぃ……ふひっ」
心外そうにしつつもナットは相変わらず考えの読めない笑みを浮かべていて、こいつならあり得るよなと軽く睨む。
「……で?何か用か?」
「えぇ。ヴァン君から伝言ですよぉ。エルザ先輩をずぅっと目で追っている男がいるそうで……ほぉら、あそこ。笑うピエロの」
「ピエロ?」
ナットの目線を辿った先にいるピエロ男は確かにエルザをじっと凝視していて、不自然と言えなくもない、が。
「あれだけ綺麗なら、他にも見惚れてる男は大勢いるだろ?」
「それはあなた方の欲目だぁ」
「欲目?」
「えぇ、えぇ。惚れた欲目。エルザ先輩は確かに美人ですが、少なくとも外見だけなら国のトップ陣を骨抜きにする程ではありませんからねぇ」
「……そうか? 昔から美人だがな……」
「それがぁ、惚れた欲目。ヴァン君が言うなら気を付けられた方がよろしいですよぉ。彼の観察眼は確かですからねぇ」
ナットは言うことは以上だとばかりにするりと俺の後ろを抜け出して去ろうとする。
その肩をすっと引き、耳元に口を寄せた。
「……お前の”それ”も、なんじゃねーの?」
振り返った表情から胡散臭い笑みは抜け落ち、口角だけが不気味なほどゆったりと上がる。瞼が細く開いて闇色の瞳がこちらを捉えた。
「……うぜぇ…」
小さく零して肩の手を払い、ナットは静かに去っていった。
あの読めないガキを使えるのはノエルとヴァンだけだ。あまり敵視されない方がいいと無難な距離を保っていたが……。
まぁ、あのくらいはいいだろ。
エルザはちゃんと美人だ。
八つ当たりはやめろよな。
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