59番外編 あの男と残りの七人
よろしくお願いします。
いざ舞踏会当日。
給仕組は先に出るというので、見送りに出た。
表に出ればすでに三人とも揃っていて、声をかけると「ずいぶんご機嫌だこと」とベルは呆れ半分の目をこちらに向けた。
「誰が?」
「あんたに決まってるでしょー」
パンジーの目には揶揄いが混じっている。
「そうか? まぁパーティーは楽しみだな。旨いもんも出るし、仮装舞踏会なら美人も出すもん出してるらしいし」
仮面舞踏会は噂に聞くだけで参加するのは初めてだ。参加の理由が理由だけに楽しむわけにはいかないのが残念でならない。
「嘘ですわね」
「嘘ばっかー」
「……なんだよ?」
まぎれもない本心だぞ。
「エルザ、綺麗だったでしょう」
「あんたが煽るから意地になってたわよぅ」
「……まだ会ってねーんだけど」
というか、もう準備していることすら知らなかった。
「あらあらまぁ! 見せてもらえていませんの?」
「へぇぇえ? 私達は見せてもらったのにー?」
「お前らなぁ……」
俺の反応に、二人は手を取りどれだけエルザが綺麗だったかを褒めちぎりながら、ニヤニヤとした笑みをこちらに向ける。
来るんじゃなかった。
「オーウェンさんはご覧になりました?」
「私もお会いしてませんよ。先に出るとお伝えしてありますから」
「えー、時間もあるし見てくればいいのにー」
「……美術館の展示品じゃないんですから」
聞き慣れない小刻みな靴音がして振り返り、この城には珍しく着飾った女を見て言葉を失った。
「良かった! 間に合ったわね」
純白のドレスに包まれたエルザはこちらに笑顔を向けて、小走りで近づいてきた。
特別な飾りもなく、耳と首をアクセサリーが飾っているだけ。
手首や足元までがドレスで覆われていて、趣旨が違うんじゃねぇかと思うのに、その姿には目が離せないほどの色香がある。
一歩足を出せば薄地のドレスは肌に吸い付き、その見事な曲線を布越しに露わにして、腕も腰も、動けばその細さに目が離せなくなった。
体のラインが出るドレスとは言ったが、こんな出し方ありかよと心の中で舌を巻いた。
パンジーやベルの見立てにしては、妙に男の目線を刺激するものを選んでいる。
「見送りに来てくれたのー?」
「ええ。現地では他人の振りをするんでしょう? ……どうかしら?」
後半の質問は補佐に向けられていて、思わず苦笑いした。
やめてやれよと思いつつ、狼狽える補佐殿を揶揄うネタになるなとも思った。
しかし予想に反して補佐はじっとドレス姿のエルザを見つめた後に「髪は下ろした方がいいですね」と言った。
「上げている方が色っぽくありません?」
「せっかく背中が開いてるんだからー、見せた方がいいと思うけどー?」
女性二人の反論にこっそり背中を見ると細い首筋から腰までがざっくりと開いていて、慌てて視線を戻した。
「細身のドレスですから髪を纏めてしまうと隙がなさすぎて、誰かが伴った高級なホステスのように見えてしまいます。敬遠されては今回の狙いから外れてしまいますから……後ろを向いていただけますか?」
素直に振り返ったエルザの髪に手を伸ばすと、補佐は飾りも髪を留めていたピンも躊躇いなく外していく。
コテで巻かれた髪の房を指に巻き付けて整え、慣れた手付きで髪の一部だけをまとめると飾りを付け直した。
完成してみれば確かに先ほどの怜悧な印象とは違う、きちんとしているもどこか隙のある女に変わっていた。
「このくらいの方が、大人びたドレスを選んで背伸びする良家のご令嬢、くらいに見えるかと」
「本当! この方がずっといいですわね」
「かわいーねー似合ってるー」
降ろされた髪を手に取りつつ二人の賛辞を聞いたエルザはふわりと笑った。
「それならこれで行くことにするわ。ありがとう、オーウェン」
「いえいえ。……それより、私がお伝えしたことをお忘れではありませんよね?」
「……知らない人から受け取った飲み物は飲んだ振りをすること。喉が乾いたら三人からしか受け取らないこと、でしょう? 子供じゃないんだから覚えてるわよ」
「もう一つの方は?」
「覚えてるったら!」
エルザの答えに頷いた補佐は「とてもお綺麗ですから細心の注意を払って気を抜かないように」と懇々と言い聞かせているが、拗ねた表情を浮かべていたエルザの顔を見れば、満足げなものに変わっていた。
その理由は俺にもわかった。
補佐は気付いてないらしいが、確かに言った。
とてもお綺麗ですってな。
心の中で舌を出した。
「そのドレス、誰の見立てだ?」
三人を見送り、城に取って返す途中にさりげなく聞いてみると予想通りの言葉が返ってきた。
「オーウェンよ。最初は肩やら脚やらが出るドレスにしようと思ってたんだけど、なかなか決められなくて悩んでいたらオーウェンが声をかけてくれたの。そうしたら、これの方がいいって」
「へー」
ベルからの『エルザを見たか』の質問に補佐は『今日は会っていません』と答えていた。
当日慌てる姿を俺に見られて揶揄われるのを防ぐために、先にドレス姿を見ておいたってとこか。
そして俺だけが見られたわけだ。ちくしょう。
抜け目がなくてほんと嫌になるな、あいつ。
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