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54 補佐は頑張りました

よろしくお願いします。

「ルーファス!」


 俺から手を外してエルザはキングを呼んだ。


「二対二でしない? ルーファスとゼン、私とオーウェンで」


 エルザは両手の指を二つ立ててキングに突きつけたが、俺は動揺した。

 それは駄目だ。エルザの力を借りたりしたら、キングに認めてもらえなくなる……っ!


「エルザ、駄目で――」

「いいぜ。それも面白そうだ」

「……キング?」


 驚いてキングを見ると、先ほどと同じ楽しげな目を俺達に向けている。


「せっかく上手くまとまったのに! こいつ、ほんと馬鹿!」


 ララさんの声が遠くから聞こえた気がした。




 作戦を立てると言うエルザに手を引かれて三人から離れた。


 二対二はアカデミーでよく行われる模擬戦の一つだ。

 前衛と後衛で分かれることが多く、作戦も二人できっちり立てる。


「当然だけど、私が前、オーウェンが後ろね」


 ワクワクといった様子のエルザは楽しげに作戦を説明してくれた。


「ゼンは援護がうまいから先に落としましょう。私が突っ切るから、ゼンを倒すまでルーファスの足止めよろしくね」

「キングのですか!?」


 さっき散々転ばされたばかりだと言うのに!


「影を使えば不可能じゃないわ。オーウェンは火と風もあるからルーファスの火にも対応できる」


 複数の属性を一度に使うのは不慣れだ。だからさっきも影しか使えなかった。

 足止めしたところで火を使われれば、きっと為すすべがない。


 それでも、あのお二人のことを一番よく知るエルザが立てた作戦だ。

 この人が一緒に戦ってくれるのに、泣き言は言いたくなかった。


「わかりました。必ずキングを足止めします」

「お願いね。オーウェンとチーム戦だなんて、ちょっと楽しいわね」


 笑いながら言うエルザに、一気に肩の力が抜けた。

 先ほどまで絶望的な気持ちだったのに、思わず頰が緩む。


「はい……俺も、ちょっと楽しくなってきました」


 嬉しそうに笑うエルザは「景気付けに一回キスしてあげましょうか?」とくちびるに指を当てておどけた。


「勝利の女神の微笑みは頂きましたから、キスは勝ってからに取っておきましょう」


 こんな時に冗談が言えるなんて。


「必ず勝つわよ」

「はい。絶対に、キングを止めてみせます」


 俺の勝利の女神は満足げに笑みを深めた。



「負けた方が焼肉奢りね!」

「おう。飲み放題も付けろよ」


 対峙する前衛二人は似た笑みを浮かべている。


「エルザさん! ボッコボコにしてやって!!」


 エルザにララさんの声援が飛ぶ。

 あの人、あんな性格だったか……?


「任せなさい!」


 エルザは親指を立てて声援に応えた。




 すらりと前衛が同時に剣を抜く。

 二つの剣身に、沈み始めた夕陽が映った。


 先に踏み込んだのはエルザだ。

 キングは迎え撃つ構えで、その場で静止している。


 二つの剣はぶつかった。かに思えたが、エルザはキングの剣を受け流し、くるりと身を躍らせてクイーンに向かって踏み出す。それと同時に水の球をいくつも放った。


「は!?」

「う、そだろ、おい……っ」


 エルザの行動に意外なほどキングとクイーンは動揺し、それに気を取られて魔法の発動が遅れた。しかしそれが問題にならないほど、二人の動揺が深い。

 戦術としては一般的な魔法使い狙いだというのに、何が二人を驚かせたのかはわからない。


「くそっ……攻めるぞ、ゼン!」


 魔法使い狙いの戦術を取られたチームはほとんど二つの選択肢を取る。

 攻めるか、守るか。


 攻めると言ったキングの両目はまっすぐ俺に向けられた。

 さっさと俺を倒して二人掛かりでエルザを仕留めるつもりだ。


 両手に魔力を通し、俺の指示通りに影は地面から這い出てうごめく。


 俺の仕事は、この人の足止めだ。


 一対一の時は、倒すことばかり考えてこの人の動きに翻弄されたが、足止めだけなら。

 一直線にこちらに向かうキングの足元から影が飛び出し、両足を縫い付けた。

 そのまま両手に胴も絡めとり、キングは動きを止める。


「……まぁ、捕まえるのは十八番だよなぁ」

「エルザで慣れましたので……」


 逃げる上司を追う俺を知るキングは、同情的な目を向けてくる。


「お前、よくあれで惚れたもんだよな……」

「綺麗で優しくて、飯も美味いなんて理想的じゃないですか」


 俺の言葉にキングは笑みを深めた。


「軽口言える余裕が出てきたのは結構だがな。忠告しといてやるよ」


 キングの言葉と同時に視界が白塗りつぶされた。

 一瞬で何が起きたのかを悟り、素早く影を配置するも腹に衝撃が来る。


「……ぐっ…!」

「捕まえたからって油断するな。闇属性に多いミスだぞ」


 息が上手くできずに膝をつき喘ぐ俺に、キングはまるで教師のように言い聞かせる。

 クイーンの光属性だ。一瞬で影を消された。

 クイーンに目を向けようとして、揺らめく灯りが視界の端に入った。

 キングの手元を見れば火の塊が浮かび上がり、轟々と燃え盛っている。

 キングはゆったりと手をかざし、その手の動きからは考えられないほどの速度で火の玉は俺を目掛けて飛んできた。


 こんなもの、当たればひとたまりも。


 考えるより先に影は俺の身を隠し、風と火が軌道を変えていた。俺の後方で轟音が響く。


「やっぱ複数持ちはいいな。やれることが多い」


 思わず両手を見つめる。

 咄嗟ではあったものの、複数を同時に使えた。


 ぐっと両足に力を込めて立ち上がる。

 絶対に逃がさない。決意を込めてキングを鋭く睨む。


 再び影を出し、キングはそれを当然のように避ける。しかし、時折突風を混ぜると、苛立たしげに舌打ちした。

 火の玉を投げつけられれば、同じく火で相殺するか風で軌道を変えた。

 倒さなくていい。前衛が、エルザが来るまで耐えればいいんだ。


「ショーンとやった時みたいだな……やりづれぇ」


 ぼそりと言われた言葉には気分が高揚した。

 まさかあの、四つの国最高峰の魔法使いを持ち出されるとは。


「……と、まぁ褒めて隙作るやり方もあるから覚えとけよ」


 笑い混じりの声に一瞬で我に返り、仰け反ると目の前を一閃が走った。


「お前、ほんと素直すぎて心配になるわ」

「あなたに褒められたら誰でも喜びますよ!」


 今の褒め言葉は嘘なのか本当なのかだけ教えてほしい。

 そう叫ぶとキングは腹を抱えて笑った。


「本当だって。俺は戦闘中は火の玉を投げつけるくらいしかできないからな。エルザやゼンが羨ましいよ。もちろんお前もな」

「あなたでもそう思うことがあるんですか」

「当たり前だろ。魔法は結局ゼンに勝てずじまいだし、剣だけならエルザに勝てるが魔法を混ぜられると駄目だな。三人の中じゃ俺が最弱なんだよ、実のところ」


 言いながらもキングの剣は俺の影を切り、間合いを詰められる。

 キングの避ける方向を予測して、影を出す場所に気を付けた。後ろに意識が向かないように。


「ああ、でもゼンと組んだ時にエルザに負けたことはないぞ。前で足を止めてりゃ、そのうち二対一になるからな。……だからな、その、負けてもあんま気にしなくていい、というか、そこまで深く考えなくて、いいからな? ほんと。ちょっとお前と遊びたくなっただけ、いや、悪ふざけしたっつーか……」

「……いえ、キングに勝てずにエルザの隣には立てません。キングがお決めになったことを俺がうやむやにするわけにはいきませんので」

「えっ、いや、ほんと気にしなくていいんだって! まいったな、わざと負けるのはむず痒いし、エルザに絶対バレる……気にすんなって! エルザもお前が好きだぞ! 俺にはわかる!」


 俺にもわかる。


 慌てるキングの様子に、どうやら俺が意地を張るとこの人は困るらしいとわかった。

 なるほど、この方向か。


「そういうわけには。エルザが俺を好きなんてことがあるわけないですし、やはり俺はキングに勝てぬままのほうが良いかもしれません」


 俺がうなだれて言うと、キングは声にも焦りを滲ませた。


「いやちょっと落ち着け! 大丈夫だって! あいつはかなりお前が好きだぞ! ダンスも楽しそうだったろ!?」

「あのダンスはキングの代わりに過ぎませんよ。やはり俺とエルザでは釣り合わない。気持ちを伝えるのはやめにしておきます」

「だから待てって!! くっそ……本気で殺される……っ」


 キングは遂に剣を振る手を止めて、そのまま鞘に収めてしまった。

 まさかここまで動揺されるとは。さすがに少し心が痛むが、あと少し耐えなければならなかった。

 俺を説得するつもりらしいキングは、足早ににじりよってきた。


「こんなのただの遊びだって! 言ってやったらあいつ絶対喜ぶぞ? 俺を信じろ!」

「果たしてそうでしょうか。エルザはハートの方々とも親しくされていますし、俺を好きになるとは思えません」

「いやいや俺がどれだけエルザと一緒にいると思う? あいつのことは俺が一番よく知ってる。あれのお前を見る目は」


「キング」


 不遜だが、言葉を区切らせてもらった。


「なんだっ言う気になったか!?」

「俺の仕事はあなたの足止めです」


 焦る顔は一瞬で険しくなり、キングは真横に飛び退った。

 その時には収められていた剣はすでにキングの手元にある。


「……どうして仲良くお喋りしてるの? 剣までしまって。手合わせ中でしょう?」

「……オーウェン……お前……っ」


 笑いの滲む顔で睨まれるが、騒ぐ心臓を抑えて声をあげた。


「俺は気持ちを伝えるために、ここに参りました」


 正確にはここにではなく執務室にだが。


「絶対に諦めません!」


 影を操り、キングの足を留める。


「あー、くっそ……」


 悔しげなキングとエルザの鋭い声。


 どさりと倒れたキングにエルザが剣を突きつけて数秒。


 キングは手を緩慢に振り、勝敗を表した。

 エルザは満足げに剣をしまい「よっしゃあ、焼肉!」と勝鬨をあげた。

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