53 補佐は頑張りました
よろしくお願いします。
不敵に笑うキングを前にすると身がすくんだ。
キングはマントを脱ぎ捨ててシャツの腕をまくり、その腰にある装飾の少ない黒い鞘が存在感を放つ。
ここに立つ前にクイーンがそっと「あなたと遊びたいだけですから、あまり深刻に考えないでください」と耳打ちしてくださった。
わかりましたと答えたものの、笑顔で返せたかは疑問だ。
「お前は、剣は使わないよな?」
「はい。昔から、苦手で」
魔法と剣の両立はどれだけ練習を重ねても俺にはどうしても出来なかった。当たり前のように使うこの人達が異常とも言える。
「私もそうでした。剣の成績だけは常に中の下で」
「……そうなんですか?」
「魔法を使った方が早いですからね」
「単に好き嫌いしただけだろ。オーウェンはどうだった?」
「えっ、と……一応、十位以内には入っていました」
「学年でか?」
「いえ、アカデミー全体で。当代のクローバーの位持ち達が上位を占めていましたので」
「……クローバーのアカデミーって、全体で二千人は居なかったか?」
総生徒数三千人を誇るスペードのアカデミーで、剣術成績二位のこの人に驚かれるのは居心地が悪い。
万年一位はジャックだが、エルザは確か三位だと聞いた。
エルザよりも、この人は強い。
「なら剣でやるのも楽しそうだが、今日はいつものルールでいくか。なんでも有りで」
「……はい」
俺の返事を聞いて、キングは鞘から剣を抜き払った。
まるで練習用の物のような素朴で飾り気のないそれと対峙したことは、これまで一度もない。
「エルザが欲しけりゃ、根性見せろよ」
クイーンは、深刻に考えずと言った。つまりこれはただの遊びで、勝てなくても交際はすでに認めていただいているのだと思う。
しかしキングに勝てないまま、お二人の前でエルザの横に並び立つことが出来るのか。
……出来ない。俺には。
きっとエルザの隣にある度に、負けたくせに居座るのかと自己嫌悪する。
だから、覚悟を決めた。
「必ず、勝ちます」
勝てるわけのないこの人に必ず勝って、エルザと胸を張って恋人になる。
キングはそれはそれは楽しそうに、口角を上げて笑みを深めた。
「……上等」
キングのこの言葉は驚くほど近くから聞こえた。
無意識に発動した影はキングの剣を受け流し、認識した時には慌てて距離を取った。
「おー、いいな。やっぱ剣を使えるやつは反応早いわ」
キングは関心したように呟き、剣をくるくると片手で弄んだ。
……エルザと手合わせをしていなければ、今の一閃で地に伏していただろう。
彼女も恐ろしく踏み込みが鋭く、一瞬で距離を詰めてくる。
そうだ、エルザとは何度か手合わせしてもらった。最初の一閃を避けられたら彼女なら次はどうする?
剣を弄ぶキングの右手に力がこもった。
瞬時に影を行く手を阻むように配置し、鋭く踏み込んだキングの動きを止めた。
キングはまた面白げに笑う。
やはり、幼馴染だけあってキングとエルザの動きは似ている。エルザとの手合わせを思い出せば、キングの動きにも対応できるかもしれない。
俺一人で戦っているわけではない。エルザが力を貸してくれている。
そう思えば、この絶望的な戦いも勝てるような気がしてきた。
その考えは途方もなく甘いものだったと言わざるを得ない。
途中からキングは俺がエルザの動きを参考にしていると気付き、動きを変えてきた。剣筋は読めず、素早い動きにも疲労から対応できなくなってくる。
もうすでに何度地面に膝をついたかすら、わからない。
剣を突き付けられ「これで今日は終わりにしとくか」と一切息切れなどしていない声で言われて拳を握りしめる。
エルザはこの人と対等に戦えるのか。
「まだ……やれます……っ」
キングを睨み、両手に魔力を込めて影を発動させる。
「あの人の隣に立つならっ……諦めるわけにはいかないんです……っ!!」
難なく避けたキングは「いや、そこまで思いつめなくても……」と呟いたが、俺にとってここで負けを認めることはエルザを失うと同義だ。
「とりあえずこれで終わりにしとこうぜ。もうすぐ夕飯だしな」
気楽な言葉とは裏腹な鋭い剣が眼前に迫る。
諦めたくはないのに、瞼は俺の意思を無視して固く閉じた。
直後、鈍い音と俺の物ではない呻き声がした。
「……お前っ……いきなり何すんだよ……っ!」
目を開けるとそこは空色で塗りつぶされていて。
「それはこっちの台詞よ! オーウェンに何してるの!?」
細剣を抜き払ったエルザは、脇腹を抱え膝をつくキングに剣を突き付けた。
表情は見えなくともエルザがこれ以上ないほど怒っているとわかる。まるでトサカを立てて威嚇する鳥のように、エルザは大声をあげた。
「魔法バカ相手に剣を使うなんてひどいじゃない!」
「魔法バカ!?」
そのエルザの言葉は、俺の胸にぐさりと刺さった。
「ただでさえデスクワークで体力が衰えてきてるのに!!」
「体力……衰え……」
「……エルザ。あのな、ちょっと黙っ……」
「あなたとオーウェンじゃ、弱い者いじめになるでしょう!?」
「弱い者、いじめ……っ」
俺は耐えきれず膝から崩れ落ちた。
「オーウェンっ大丈夫か!? この馬鹿! トドメ刺してどうすんだ!!」
「ちょっと、どうしたの!? もう! ルーファスがいじめるから!!」
「いやさっきまでしっかり立ってたんだって……おい! こいつの隣にいたいならこのくらいでへこたれるな!」
キングに肩を激しくゆすられるも立ち直れない。
やはり俺にエルザの隣にいることなんて出来ないのか……。
キングはクイーンと、エルザと共に来たらしいララさんに引っ立てられていった。「あんた本物の馬鹿なの!?」と甲高い声が聞こえるが、空耳だろう。
「どうしてルーファスと手合わせなんてしてるのよ?」
エルザは背中をさすってくれるが、目を向けることができない。
「色々と、ありまして……」
「もう夕食の時間よ。三人で修練場にいるって聞いて呼びに来たの。遊んでないで、早く行きましょう」
しゃがみこむ俺に差し出された手を強く握り、首を振った。
「駄目です。キングに勝たないと……」
「遊びでしょう? またにしたら?」
「遊びじゃない!!」
またになど出来ない。ここで諦めてしまったら、この人に二度と触れられなくなる。
「勝たなきゃ、いけないんだ」
「……相当、難しいと思うわよ……?」
エルザはかなり控えめに言ってくれたが、きっと無理だと思っている。
それでも。
「諦めるわけにはいかない」
エルザの手を胸に押し抱いて言うと、エルザは「よくわからないけど、ルーファスに勝ちたいのね?」と言った。
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