47 ノーマルエンド
よろしくお願いします。
翌日、仕事を終えて軽く城の中を探すと、庭園でしゃがみ込むくすんだ緑色を見つけた。
そっと近くにいた顔見知りの侍女さんに伝言を頼むと、虚ろな目で庭の花を見ている背中に声をかける。
「オーウェンさん、こんにちは」
「……こんにちは。何か御用ですか」
振り返って、いつものように作り笑顔を貼り付けたオーウェンさんに、にっこり笑いかける。
私には秘策がある。
侍女さん達の間で囁かれている、オーウェンさんの噂の一つ。
オーウェンさんは、エルザさんを持ち出すとチョロい。
「エルザさんのかっこいいお話をたくさんご存知と伺ったのですが、聞かせていただけませんか?」
そう伝えた途端、貼り付けた笑顔が色味を増して、人形に息を吹き込んだように柔らかくなる。
この人、エルザさん大好きすぎでしょ。
予想に反してというかなんというか、オーウェンさんの話は本当に面白かった。
エルザさんとの出会いから今日まで苦労もかけられたが、しかしそれ以上に助けられてきたのだと語るオーウェンさんは本当に幸せそうで、それならなんで逃げちゃったのかなと呆れもしたけど。
「そういえば、この間の舞踏会ではダンスを踊ってらっしゃいましたね」
「ええ。その……落ち込んでおられたので気分転換になればと思いまして。まぁあの方にとってはダンスを踊ることなど大したことでもなんでもないのでしょうけどね」
そう語る表情に悲観の色はなく、当然のこととして受け止めている節があった。
「……そんなことないんじゃないですか? とても楽しそうにされてましたし」
「あの方は感情が豊かで、輝かしい笑顔を見せてくださるのはいつものことですから」
なんだろう。何か違和感が……。
「でも、さすがにあれだけ顔を近付けたり赤くするのは、誰にでもすることじゃないですよね……?」
探るように言ってみれば、オーウェンさんはぽかんと口を開けて「顔を近付けて……赤く……?」とうわ言のように呟いた。
えっ、な、なに……?
「まっ、まさか……あれは俺の妄想ではなかったのか!?」
「公式と二次創作の区別がつかなくなったオタクか!!」
まさに驚愕といった様子で口を大きく開けて狼狽する姿に、思わず素で突っ込んでいた。
しかし私のツッコミなど耳に入らなかったらしい。
オーウェンさんは顔を真っ赤に染めて黙り込んでいる。きっとあの夜のことを思い出しているのだ。
そうでしょ。あれは確実に自分のこと好きだったでしょ。まったく……まさか妄想と思ってたなんて、予想外すぎるわ。
呆れる私の前でオーウェンさんは顔を上げ、一瞬で真面目な表情になった。
つられて視線の先を追うと遠くに逃げるように走り去る空色の後ろ姿が見えて。
立ち上がったオーウェンさんは、私に断りもいれずにそれを追いかけた。
当て馬の仕事の終わりを確信して、やれやれと立ち上がる。
これでどうにもならないようなら本当にもらっちゃうからね。まったくもう。
「はぁ……これはノーマルエンド確定かなぁ」
誰にともなく呟いて、与えられた部屋へと戻ることにした。
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