42 歪んだキングの独白
よろしくお願いします。
ゼンがいなければ、俺はエルザを好きと認識していただろう。しかしそれはゼンにとっても同じことだったと思う。
アカデミーに入学して数年、男女が混合で遊ぶのが当たり前の時間は過ぎ去り、ある日俺は同じクラスの女子に告白された。
赤らめた頬。合わない視線。くるくると髪をいじる姿。素直に嬉しいと思って了承した。それが間違いだったと気付くまでにそう時間はかからなかった。
「どうして、エルザと一緒に遊ぶの?」
付き合いだしてから数日後、彼女は不満げに俺を問いただした。
「どうしてって、友達だから当たり前だろ」
俺は当然のように返事したが、彼女の瞳からはあり得ないくらいの涙がこぼれ始めて焦ったのを覚えている。
「…うっ……エルザともう、遊ばないで……」
ルーファスは私の彼氏なんだから。泣きながらそう訴える彼女の言葉は、訳が分からなかった。
こいつは彼女で、エルザは友達だ。ガキだった当時の俺にとっては、彼女と遊ぶより友達と遊ぶほうが楽しかったというのもまた、仕方のないことだった。
「やだよ。エルザくらいしか相手になるやついねぇもん」
「ゼン君がいるじゃない!」
「剣術はエルザとじゃないと面白くねぇんだよ」
当時の俺とエルザは剣術の授業で一二を争う成績で、他は相手にならなかった。
同じように魔法ではゼンとエルザがクラスでトップの成績を修めていて、俺はいつか魔法で二人を負かせてやろうという野望に燃えていた時期だった。
だから当然のように、彼女との時間など取らなかった。
話し合いは平行線で、彼女は泣いて途中から話しかけても返事をしなくなった。すると、隠れて見ていたらしいクラスの女子達が集まってなぜか俺に文句を言ってきて、面白くなかった。
そんな騒動を聞きつけたエルザとゼンが駆けつけてきてくれて、心底ほっとしたのを覚えている。しかしそれが良くなかった。
俺を攻撃していたクラスの女子の敵意はすべてエルザに向いた。
「エルザちゃんひどいよ! ルーファス君は――ちゃんの彼氏なのに!」
「……彼氏?」
目を丸くしてこちらを見たエルザは、きっとすぐに状況を理解していた。
今でこそ手のかかる妹のような存在だが、当時のエルザはまるで年上のお姉さんと会話しているように感じるほど大人びていて、俺とゼンにとっては友達以上に姉や母のような頼りになる存在でもあったのだ。
「そう。――ちゃん、ごめんね。私、知らなかったから。これから気を付けるね」
エルザはすぐに彼女に謝った。なんでお前が謝るんだよと文句を言った気がするが、拳で黙らされた。
翌日からだ。エルザが俺を避けだしたのは。
「お前、なんで俺から逃げるんだよ!」
廊下で捕まえて問いただせば、困った子を見るような目でエルザが俺を諭した。
「あのね、彼氏が自分以外の女の子と遊んでると、彼女は嫌なの。ヤキモチ妬いちゃうの。そういうのに気を配るのも、彼氏のお仕事だよ」
そんなこと知るかと思った。
俺はエルザと剣術の鍛錬をしないと強くなれないと本気で思っていたし、当時はなぜだかわからなかったがエルザが俺から離れることがひどく怖かった。信じていたものが突然失われたような気持ちだったのだと今ならわかる。
「そんなに俺から逃げたいなら、勝負しろ! 俺が勝ったら二度と逃げるなよ!」
瞬殺された。
男に二言はない。エルザが逃げることに対して文句が言えなくなってしまった。
しかし、ふてくされる俺にゼンが言った。
「エルザが逃げてもルウが追いかければいいんですよ」
「天才だな、お前!」
翌日から二人で追いかけ回したらエルザに本気で怒られた。それはもう聞き分けのない子供を叱りつける母のような容赦のなさだった。
しかしそれでも追いかけ回し続け、そうこうしているうちに彼女からは無視されるようになり、自然消滅した。
そしていつの間にかまた三人でいることが当たり前になった。
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