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よろしくお願いします。

「それを理解できてるなら簡単だろ」


 ピクニックを楽しむ私の耳に、ショーンの声が届いた。

 ふと目を向けると、ショーンが爪先立ちになってオーウェンの額に人差し指を指し当て――。


「大人になってからじゃ難しいから、手を使って且つここからも魔力が出ていると考えればいい。手を使わないでと考えるから出来な――」

「「なにそれずるい!!」」


 なんっという羨ましいことを!!


「私だってそんなことしてもらったことないのに!」

「僕もそうだよ! 魔法について聞いても無視するくせに!」

「そもそも爪先立ちとか初めて見たんだけど!」

「身長差をうまく利用するなんて!」


 きゃあきゃあ言い合っていると、レスターが影に平手打ちされた。

 こっちを見てないのに、すごい!


「どこで気が合ってんだ、お前ら……」


 ルーファスの呆れ声などどうでもいい。


「私もデコツンされたい!!」

「僕もデコツンされたい!!」

「馬鹿言ってないで、せっかくレスター殿も来ていただいたのですから、手合わせでもいかがですか?」

「それどころじゃないよ! あれは見守らなきゃいけない!」

「いや、早急に隔離すべきだ。よし、レスター殿。私と一戦いかがかな?」


 立ち上がったルーファスが、不敵に笑ってレスターを見下ろす。口調の変わった相手に、レスターは心底嫌そうに顔を歪めた。


「それ、一戦じゃ済まなくなるやつじゃないか……仕方ないなぁもう……お相手を務めさせていただきます。スペードのキング」


 ため息から一転、優雅に騎士の礼を執ったレスターとルーファスは離れていった。ゼンもそれに付き添うらしい。

 あちらも気になるが、オーウェンとショーンを放置するのも気がひける。


「私達は猫と犬を眺めてましょうか。可愛くて和むわ」

「はい! 二人とも楽しそうですね」

「オタクは好きなものについて語る時が一番輝いてるわよねぇ」


 先程の私達のことでもある。




 それにしても本当に楽しそうだ。

 瞳を輝かせてショーンと話すオーウェンを見ていると、ふつふつと心に名前のわからない感情が湧き上がる。

 オーウェンは魔法が好きで、ショーンのことを稀代の魔法使いだと以前から絶賛していた。ゼンやルーファスのことを尊敬していると言っていたし、ノエルのことも魔法使いと対等以上に渡り合う剣術に感動していた。

 もしも私が魔法を使えない人間だったら、オーウェンは私のことを認識すらしなかっただろう。


「エルザ殿!」


 突然呼ばれて顔をあげると、オーウェンが満面の笑顔でこちらに駆け寄ってくる。慌てて立ち上がった。


「どうし――」

「……!? ……! …………!」


 耳元で大声を出されているのに、何を言っているのかまったく聞こえなかった。

 わかるのは、体を締め付ける熱とうるさく脈打つ心臓の鼓動だけだ。


 これは、どちらの鼓動?

 興奮したオーウェンのもの?

 ……それとも、抱きしめられている私の?

 わからない。ただ、耳の奥に響くだけで、何も。


 突然熱が離れて我に返った。

 視力すら正常に機能していなかったらしく、やっと顔を真っ赤に染めたオーウェンの姿が見える。


「すみません!」


 口が縫い付けられたように開かない。

 手を繋いだだけで嬉しくなった。

 ダンスを踊っただけで心が高鳴った。

 抱きしめられた、それだけで。




 私が何も言わないから、オーウェンも動けなくなってしまっている。

 何か言わないと。

 大丈夫。気にしてないわ。

 たったこれだけなのに、舌の使い方がわからない。


 冷静になろう。男性と抱き合うことなんて、しょっちゅうじゃない。

 それにしても、オーウェンったら嬉しそうだったな。

 それこそ嬉しいことがあった大型犬が、飼い主に尻尾を振って駆け寄るみたいな……。


「……ふっ」

「エ、エルザ殿……?」


 そう考えたら意識していることが妙におかしい。


「あなた本当に……大型犬みたいだったわ、今の」


 言葉にしてしまえば、笑いをこらえるのは難しくなった。

 我慢しようとするのに、口からくすくすと声が漏れる。


「返す言葉がありませんね……」


 私の様子にオーウェンも笑みをこぼした。


「……私が犬なら、あなたは気ままに飛び立つ小鳥でしょうね」

「鈴をつけているなら飼い猫ではないの?」

「飼い猫なら捕まえようもありますが、鳥は羽ばたいてしまえば届かないところまで飛んでいってしまうでしょう。あなたらしいですよ」

「なら、次は首輪の代わりにカゴを用意するのかしら」

「そんな無粋なことはしませんよ。……帰ってきていただけるまで名前を呼び続けます」


 いつも通りに会話が進むと心が凪いだように穏やかになる。オーウェンも同じ気持ちだろうか。


「……ショーンを待たせているわね」

「っそうでした! 失礼します!」


 オーウェンの後ろでショーンが負のオーラを纏っている。

 教えてる途中で駆け出したのかもしれない。

 オーウェンは大急ぎで戻っていった。


 そっと胸に手を当てる。まだ鼓動はうるさく、吐く息がひどく熱い。

 オーウェンに目を向ければ、たくさんの影の蛇が見えて、どうやら二人も手合わせを始めたらしいことがわかった。

ありがとうございました。

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