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よろしくお願いします。
奥の扉が開き、甘酸っぱい香りが部屋に漂う。
おじいさんが運んできてくれたのはフルーツタルトだ。
イチゴにキウイ、オレンジやマンゴーにバナナとカラフルなフルーツが溢れそうなほど乗せられている。タルトにしては珍しくキッシュのように嵩が高いのが印象的だ。
「フルーツが好きなのはどの子かな?」
おじいさんの言葉にショーンがお茶を吹き出した。
「よっ、余計なこと言わなくていいから!」
「おやおや、そうかい」
おじいさんは優しい笑みを浮かべながらタルトをお皿に乗せて、部屋から出て行った。
隣に座るレスターが、笑い混じりに耳打ちしてきた。
「フルーツが好きなのって、君じゃないの?」
「えっ? でもレスターも好きでしょう? ノエルもララも嫌いなはずがないし」
「ええ……? ここでそう言っちゃうのか……」
残念そうに肩を落とすレスターに首をひねる。
フルーツ、みんな好きよね?
不思議に思っていると、くいとレスターとは反対の袖を軽く引かれた。
見るとララが少し拗ねた表情でレスターを睨んでいる。
「レスターさん、エルザさんと近すぎます」
それに少しムッと顔をしかめたレスターが言い返した。
「そんなことないよ。むしろいつもより離れているくらいだし」
「いつも近すぎます!」
「ちょ、ちょっと二人とも」
レスターにも右腕を引かれ、ララには左腕を抱き寄せられ混乱する。
「ケーキ……」
両腕を掴まれフォークが持てずにお預け状態になってしまった。左右では言い争いに発展した二人が騒いでいる。マテをする犬ってこんな気持ちなのね……。
ケーキの嵩高い理由は、中の生地にあったらしい。しっとりとした生地の間にカスタードとナッツがぎっしり挟まっている。フルーツの酸味と、軽くラム酒の香りが漂ってきて、ただただお預けが辛い。
「エルザ、このケーキすっごく美味しいよ!」と、すでに半分になったケーキを前に、ノエルが無邪気に喜んでいる。
「……何してんの、あんたら。馬鹿なの?」
私の両側に向けられた視線が冷たくてゾクゾクする。この楽しみ方もありだなと思っていたら、ノエルが身を乗り出して私のフォークを取り、ケーキを切り取った。
「エルザも食べて食べて! ほんとに美味しいよ!」
「……んっ」
ぐいと口に突っ込まれる。
「……ほんとね! 美味しい!」
香りから想像していた以上に美味しい!
みずみずしいイチゴが噛めばじゅわっと果汁が口いっぱいに広がり、あっさりなカスタードがその酸味をまろやかにして、香ばしいナッツがいいアクセントになってる。タルト生地はサクサクでバターが効いているし、飲み込んだ後はラム酒の香りが口に残った。
「ありがとう、ノエル! これ、大好きな味だわ」
申し分ないほど好みの味のタルトだ。さすがにレシピを聞くのは不躾か。
「ううん、エルザは僕のお姉ちゃんだもん。気にしないで! もっと食べる?」
さらにケーキを切り取り差し出してくれるノエルに遠慮なく口を開く。
んん~っ! 美味しい!!
「エルザ、僕もあげるよ!」
レスターが、その勢いとは裏腹な洗練された手付きで自分のケーキを切り取り、差し出してくれる。
「あら、いいの?」
この美味しさを前に遠慮はしないよ?
遠慮なく食べれば今度はオレンジが口に広がる。
しかし「エルザさん、私も!」とララから差し出されたところで、少し躊躇してしまった。
これは、食べていいのかしら……?
ああでも、ノエルとレスターからもらった後で躊躇するのも……良くないか?
「ありがとう、ララ」
口を小さく開けて食べたケーキは、あっという間に喉の奥へと消えた。笑顔でもらったはいいが、少し恥ずかしい。
この子、私のことが好きなのよね……。
この食べさせあいのお陰で両手が自由になったので、すかさず自分のフォークを握る。
照れ隠し混じりにケーキを堪能しているとおじいさんが慌てた様子で部屋に入ってきた。
ありがとうございました。
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