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30 エッグタルト屋さんの恋愛相談室

よろしくお願いします。

 頭を抱えて唸る常連客に、そっとお茶を差し出す。

 気持ちが落ち着くようカモミールにしてみたが、いつもなら喜んで口をつけてくれるのに今日はそれどころではないらしい。


「どうしよう、ハンプティ!」

「うんうん、僕はここにいるからね」


 いつもなら向かいに座るが、今日は隣に腰掛けた。

 優しく背中を撫でる。


 ほんの数分前、慌てた様子で店に駆け込んだエルザは、匿ってほしいと言い出した。


「色々な問題が同時に起きて、もう頭がパニックなの!」と頭を振り乱して叫ぶ彼女を放っておくわけにいかず、奥へと通した。


「二人きりで部屋になんていられない……しかも忘れていたなんて……言えない!」


 興奮のまま、色々と叫ぶ彼女が落ち着くのを待つ。

 初めはルーファス達と喧嘩でもしたかと思ったが、違うらしい。


「だって、だって仕方ないじゃない……まさか私が攻略されるなんて思ってもみなかったし、お酒飲んで寝ちゃったし、朝からそのことで頭がいっぱいで……さっきの私の態度って絶対変だった……な、何に対する謝罪だと思われたの!? 全部ってどこから!?」


 普段は余裕たっぷりな笑顔ばかりのエルザの取り乱す姿を見るのは、実は初めてだ。

 学年は違うものの同じアカデミーを卒業しているから、付き合いは長いのだけど。


「ああもう……頭が破裂しそう……」

「大丈夫だよ。ほら、カモミールティーが冷めちゃうから一口だけでも飲んで。落ち着くから」


 震える手を支えて飲ませると、エルザはほうと一息漏らす。カモミールは偉大だ。


「ごめんなさい、急に押しかけて……」

「ううん、大歓迎だよ。朝食は食べた?」


 食べていないなら焼きたてのタルトを出すつもりだったが、食べたらしいのでやめておく。

 そろそろ大丈夫そうかな……。


「何か困ったことがあったなら、僕で良ければ話を聞くよ」

「ありがとう、ハンプティ。誰かは言えないのだけど、聞いてもらえる……?」

「うんうん、もちろんだよ。どうかしたの?」


 ポツリポツリとエルザは話し始めた。


 友達と思っていた人に告白されて、断っても諦めないと言われてしまったこと。

 昨日の舞踏会で好きな人と踊れて嬉しかったのに、その告白が衝撃的すぎてそのことを忘れてしまっていたこと。

 そして、今朝その相手の手を取ったら振りほどかれたこと。


「ダンスを踊ったくらいで喜ぶ私がおかしいの……? あれくらい普通なことだったのかしら……」

「そんなことないよ、キミとダンスを踊れて嬉しくない男なんていないさ」

「で、でも触らないでって言われたのよ……」


 忘れられててショックだったんだろうなぁ……それともいつも通りの態度でガッカリしたのかも。エルザならあり得そうだからなぁ……。

 話から相手が誰だか想像が付いて、こっそり苦笑する。彼は少々不憫体質だ。


「昨日のダンスが嬉しかったって、ちゃんと伝えれば大丈夫だよ。きっとその人も今頃後悔してるはずだから」

「そうかしら……やっぱり嫌われたんじゃ……」

「それはありえないから大丈夫だよ」


 エルザのことが大好きな彼が、ダンスを踊って、そのことを忘れられたくらいで嫌いになるとも思えない。それより……。


「その、告白してきた人は大丈夫なの? 危ない人ならルーファス達に相談しないとだめだよ」

「あっ、ううん。この子は大丈夫なの。ちょっと、断りきれなかったけど悪い子じゃないから、いつかわかってくれると思うわ」


 眉尻を下げつつも笑顔で答えるエルザに安堵する。

 それにしても、この子、か……。

 エルザは年下や可愛い子にはかなり弱いところがあるから、少し心配だ。


「何かあったらいつでも相談しに来てくれていいからね。今日も来てくれて嬉しいよ」

「……ありがとう、ハンプティ……さすがだわ……」


 ぼそりと呟かれた後半はよく意味がわからなかったけれど、聞き返すのはやめておいた。

 落ち着きを取り戻してきたようだし、何が彼女を混乱させるかわからない。




 聞き慣れたカウベルが客の来訪を告げた。

 エルザに断り席を立つ。

 せっかくだからお茶を新しくし……カップを追加したほうがいいかな?

 入り口に立つ人物を見て、呑気にそう思った。




「……よ、よくここがわかったわね?」

「あんたには闇属性の鈴をつけてあるからな……」

「なっ、なにそれ犯罪じゃないの!?」

「うるさい! こういったときのための適切な処置だろうが! たったの数分目を離しただけでよくも逃げ出したな!?」


 ぎゃあぎゃあと言い合う二人にそっとお茶を差し出すと、気がついたオーウェンがお礼を言ってソファに座ってくれた。


 偉大なるカモミールで落ち着いた様子のオーウェンを見て、エルザにパチリとアイコンタクトを送る。

 意味がわかったらしいエルザは頬を染めてソワソワとしながら何度かお茶を飲み、やっと口を開いた。


「あ、あのね、オー」

「ハンプティ、タルトを二つ包んでもらってもいいかな?」

「…ええっ!?」


 今!?


「……まさか、もう売り切れたのか?」

「いや、あ、あるけど……!」


 僕の大声に驚いた様子のオーウェン以上に僕が驚きだ。

 あと少しで大好きなエルザの気持ちがわかったのに!

 残念すぎるよ、オーウェン!


 エルザを伺い見ればしょんぼりとお茶を飲んでいて、その哀愁には涙が出そうになった。

 せっかく勇気を出したのにね……。


 そんなエルザにオーウェンは諭すようにお説教を続ける。


「甘いものが食べたいのならそう仰ってください。買ってくるなり、作ってもらうなりしますから」

「そ、そうね……」


 そういうわけじゃないんだよ、オーウェン。


「二つ買うってことは、オーウェンも一緒に食べてくれるの?」

「ええ。以前に一人で食べるのは寂しいと仰ってたでしょう。……一人がよければ別のところで食べますが」

「ううん! 一緒に食べたいわ!」


 それでも、嬉しそうに、はにかみながら言うエルザに一安心した。


 急いでいる様子のオーウェンのために早く包もうと厨房に向かって、気がついた。

 たった数分目を離しただけなのに、来るのが少し遅かった気がする。

 鈴をつけているなら、居場所はすぐにわかったはずなのに。

 もしかして、少しでものんびりできるように迎えに来るのを遅らせたのかな。


 それなら、とタルト以外に作ってあったフォンダンショコラも包んでおいた。

 オーウェンは火の属性を持っているから美味しく温めてくれるだろう。


「はい、お待たせ!」

「ありがとう。さぁ、帰りますよ」


 料金を払ったオーウェンはエルザを急かす。

 来た時よりも顔色が良くなったエルザは、いつもの笑顔で軽やかに立ち上がった。


「ハンプティ、ありがとう! 聞いてもらえてスッキリしたわ」


 聞いたから、だけではないのだろうなと微笑ましく思う。迎えに来てくれて、タルトを買ってくれて嬉しいんだ。


「それなら良かった。またいつでも来てね。オーウェンもね」

「ああ。またこの人が逃げてきたら足止めしておいてくれ」

「も、もう逃げたりしないわよ」


 むくれるエルザを胡乱げに睨み、オーウェンは先に扉をくぐる。


 この店の扉の外には、ポーチから三段の階段がある。

 数段降りたところでオーウェンは振り返り、エルザに手を差し出した。

 その手をそっと取るエルザの表情は見えない。

 それでも、振り返るオーウェンがエルザを見て眩しそうに目を細めているから、きっとエルザも同じだろう。

 そう思っていたら、振り返って手を振ってくれた。

 先程振り払われて落ち込んでいたのに、その手を差し出されて幸せそうに笑っている。


 一つの国のトップ陣なのにどこか抜けている二人だが、とてもお似合いだ。

 手を繋いだまま歩いていく二人の想いが通じ合う日を楽しみにしつつ、今日もお仕事頑張りますかと厨房へと足を向けた。

書いていて楽しいシーンでした。

ブックマーク、評価、感想等いただけたら嬉しいです。

ありがとうございました。

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