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よろしくお願いします。

 目を開ければそこは慣れ親しんだ自室のベッドの上だった。穏やかな日の光での目覚めは決して悪くないが、私は唸りながら顔を手で覆い、再びベッドに背中から倒れ込んだ。


 酔っても記憶を失わないから昨日のことは完全に覚えている。

 ララに告白され、飲み物の確認もせずに一気に飲み干し、幼馴染に謝り続ける酔っ払いの所業を一片も漏らさず……。


「あああもう、なにがどうしてこうなっちゃったの……」


 返事をしてくれる人はいない。

 しかし吐き出さずにはいられなかった。




 このゲームは自由行動があり、その時に会いに行ったキャラの好感度が上がってイベントが起こる、というシステムだった。

 ルーファスなら中庭、ゼンなら執務室、ノエルなら修練場にいることが多く、会いに行って二言三言話すと好感度が上がるという具合だ。

 ちなみにショーンは食堂か図書室にいることが多かった。

 そしてこのゲームは寄り道にシビアだ。ほとんど毎ターン攻略したいキャラに会う必要があった。

 それを踏まえて思い返せば……。


「会いに来てたわねぇ……毎日毎日……」


 白の国から書状が届いてからのララは、毎日私に会いに来ていた。


 誰かのイベントを起こしさえすれば問題ないと思って特に考えもせず一緒に過ごしていたが、まさか私が攻略される対象になるとは考えてもいなかった。

 わかっていたら理由をつけて断っ……れただろうか。なんだかんだと言いつつ一緒に過ごすことになっていた気もする。


 とにかく、早く返事をしないと。

 いつまでもだらだらと先延ばしにすることは不誠実だし、何より私にはララを恋人として見ることは出来ない。

 早い段階で断れば、まだストーリーへの軌道修正は可能かもしれないし……。

 いや、ダンスを申し込まれなかった時点で、確実にもう好感度は足りない。

 ララはノーマルエンドでこの世界を去ることになるだろう。

 それを寂しく思ってしまうが仕方ないことだ。初見でグッドエンドは難しい。


 ゆっくりと体を起こし身支度を整えた。

 朝食前にララに会いに行こう。

 ララも私達と同じ食堂で食事をしているから、顔を合わせることになる。

 その前にきちんと返事をして、お友達としてこれからの時間を過ごしていこう。

 泣かれてしまうかもしれないけど、長引かせたところで思いに応える気はない。


 シャツにパンツとラフな服装に着替え、ララの部屋へと向かった。




 部屋をノックすると、ララはすぐに出てきた。もしかして眠れなかったりしたのかしらと不安になる。しかし客が私だとわかったら花が咲いたような笑顔で出迎えてくれて、心が痛い。


「おはよう、ララ。少しお話がしたいのだけど、いいかしら」

「もちろんです! 朝からエルザさんが会いに来てくれるなんて、嬉しい」


 頬を染めてはにかむララに、心臓が激しく脈打つ。

 朝から会いに行くのって、もしかして断るには非常識だった? OKすると思われてる? この空気で断れるか、私!?


 部屋に招き入れられてソファに腰かけると、当然のようにララは隣に座った。

 心臓が痛い……。

 意を決して口を開く。


「あのね、ララ。昨日のお返事をしに来たの」

「……はい」


 笑顔を消した真剣な表情でこちらを見つめるララに、真正面から向き合う。


「ずっとララのことはお友達だと思っていて、だから一緒に遊ぶのも出かけるのも私はとても楽しかった。でもララが昨日伝えてくれた気持ちは全然予想していなくて、正直戸惑いが大きくて……ごめんなさい。私にはあなたの気持ちに応えられないわ」


 廊下を歩きながら何度も考えた言葉を一息で伝える。これは嘘偽りのない私の本心だ。


 小動物のように愛らしいララが私は好きだ。城には女友達が少ないからドレスの選び合いも楽しかったし、勘違いだったけど恋バナも嬉しかった。

 それでも、これは女友達がすることだ。恋人にはなれない。


 ララは「そうですか……」と呟き、うつむいてしまう。強く握られた拳が痛々しくて、解いてしまいそうになる手を抑えた。今、ララに触れてはいけない。

 それでもなんとか返事をすることが出来て、少し心が軽くなった。これからも友達として仲良くしていければいいなぁ……。


「エルザさん!」

「はい!?」


 突然ララはバッと顔を上げ、私の手を握った。一応にもスペードの10で、騎士として働く私が反応できない速度だった。


「エルザさんを困らせることはわかっていました。それでも言わないと伝わらないと思ったんです。戸惑わせてしまうのは当然です。でも、私のこと嫌いになっていたりはしませんよね……?」

「えっ、も、もちろんよ! ララのことは今まで通り大好きよ」


 嫌われたと思って不安になっていたらしいララに笑顔で応える。やや引きつってしまったのは許してほしい。


「それなら……返事は保留のままにしていていただけませんか?」

「……保留?」

「はい。私のことを嫌いになったわけじゃないなら、私、頑張りたいんです。どうしてもエルザさんのことが大好きで、諦めたくありません。せめて私が帰る日まで、返事は待っていただけませんか」


 ララは乙女ゲームのヒロインだ。そのことが焦る私の脳裏をよぎった。


 乙女ゲームのヒロインは、決して諦めない。攻略対象にそっけなくされても突き放されても。彼女達の頑張りのお陰で、私達プレイヤーはグッドエンドを迎えられるのだ。


「エルザさん。私はあなたが好きです。大好きです」


 そのことが私を苦しめる日が来るとは、夢にも思わなかった。




 あの後ララと食堂に向かい、ルーファス達にこってり絞られた。


『確認もせずに飲むやつがあるか!』

『私達がいない会場だったら、どうするつもりだったのですか』

『オーウェンさんに、ちゃんとごめんなさいしなきゃダメだよ?』


 私にも間違いとはいえ飲まなきゃやってられない理由があったのだが、すべてが正論で素直に謝るほかなかった。かばってくれたララに感謝だ……。


 そして急いで食事を終えて、執務室に逃げてきている。いつもは好きじゃない部屋だが、一息ついて机に突っ伏した。


「疲れた……」


 朝なのにもうすでに一仕事終えたかのような疲労感だ。ああ、働きたくない。

 だが、そうも言ってられなかった。ノックの音がして入室を促すとオーウェンが入ってきた。


「おはよう、オーウェン」


 笑顔で挨拶すると、オーウェンは探るような妙な表情で挨拶を返した。


「……おはようございます」


 どうしたんだろう。いつもなら笑顔で挨拶を返してくれるのに。朝だけは。


「昨日はごめんなさいね。迷惑かけて」

「……どれのことです?」


 訝しげに尋ねられて焦る。私、そんなにやらかしていたっけ……。


「ええと……ぜ、全部……?」

「……そうですか。気にしないでください。あなたの迷惑はいつものことです」


 こちらを睨むように言って、オーウェンはドサリと書類を自分の机に置いた。いつになく乱暴な仕草だった。どうしよう。ものすごく怒ってる!

 思わず立ち上がり、駆け寄った。


「本当にごめんなさい。いつも迷惑かけて……ほ、補佐をやめるなんて言わないわよね……!?」

「い、言いませんよ! 言いませんから、離してください!」


 手を取り言い募ると乱暴に手を振りほどかれた。

 気まずげなオーウェンの表情に驚く。いつもならこんなにはっきりと拒絶したりしないのに……。


「す、すみませ……書類を忘れました。取りに戻りますから少しお待ちください」


 逃げる背中を執務室から出て行った後も見つめて、思わず首を傾げた。

 急にどうしたんだろう。オーウェンの態度がおかしい。


 私、もしかして何か忘れてる……?

 昨日はオーウェンが飲み物を取ってきてくれて、それを飲んで酔っちゃったのよね。だから迷惑をかけて……あれ、そういえばどうして昨日はオーウェンと一緒に? いつも近づいて来ないのに。

 確か昨日はレスターと話してノエルとショーンが可愛くて……レスターがダンスに誘われて、それで私が一人になって……。


 ダンス……?


「あああああああ!」

ありがとうございました。

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