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よろしくお願いします。

 ララがスペードの国に滞在してから一週間が経った。

 タダでお世話になるわけにはいかないと、今は侍女の仕事を手伝ってくれている。元々人見知りしない性格なのか、侍女達とも打ち解けて楽しく働いてくれているようで嬉しい。

 しかし私には気になることが――。


「エルザさん!」


 呼ばれて振り返ると、ララが小走りにやってくるところだった。今日もか……。


「ララ。走ったら危ないわ」

「ごめんなさい! エルザさんを探していたので、つい」


 私の元に飛び込むようにやってきたララは、はにかむように笑っていて、その可愛らしい表情にはつい私も笑みをこぼしてしまうのだけど……。


「私に何かご用?」

「はい! あの、今日初めてお給料を頂いたんです。だから、良ければ買い物に付き合っていただけませんか?」


 今日は買い物か……。


「ごめんなさいね。今日はどうしても抜けられない会議があって……」

「そうなんですか……会議なら仕方ありませんね。また付き合っていただけますか?」


 小首を傾げて問いかけてくるララに私も問いたい。

 なぜ毎日毎日攻略対象ではなく私に会いに来るの? 好感度が足りなくなるぞ。


 断っておくが、決して迷惑などではない。

 ここに滞在することが決まった翌日もその翌日もララと一緒に過ごせてとても楽しかった。

 しかしこのままならノーマルエンドまっしぐら……。


 どうしたものかと悩む私の視界に、ふわふわとしたクリーム色が映った。

 これだ!


「ノエル!」

「エルザとララちゃんだ! 二人ともこんなところで何してるの?」


 私たちに気付いたノエルがぴょんぴょんと跳ねるように近付いてくる。可愛い。


「ララが買い物に行きたいんだって。でも私はこれから会議があって一緒に行けないから、ノエルが町に連れて行ってあげてくれない?」


 確か、ノエルと二人で買い物に行くイベントがあった。これでノエルの好感度が上がるはず。


「いいよ! 僕もちょうど買いたいものがあったから! これから出かけるの?」

「あっ、は、はい! ご迷惑でなければ……」

「迷惑なんてことあるわけないよ! ララちゃんと買い物なんて すっごく嬉しい!」


 これでもかと言わんばかりの天使スマイルでララの手を取ると、行ってきまーすと私に手を振りながらノエルは駆け出して行った。

 私とばかりいて、攻略対象の三人と打ち解けてないのが問題だったのかもしれない。これを機にルーファスやゼンとも仲良くなってくれたらいいなと思いながら、会議室へと向かった。




「エルザ!」


 会議も終わり、オーウェンと歩いていると、向かいから慌てた様子のノエルが走ってきた。

 これほど慌てたノエルは珍しい。嫌な予感がして、オーウェンと顔を見合わせた。


「ララちゃん、帰ってきてる!?」

「わからないわ。一緒に帰ってこなかったの?」

「それが、出かける直前に兵士達の間でトラブルがあって呼ばれちゃったんだ。部下を付けたからララちゃんは買い物に出かけたんだけど、途中ではぐれちゃったらしくて……」


 ノエルの後ろには青ざめた一般兵が控えている。この人が付き添った部下らしい。


「申し訳ございません! 辺りを探したのですが見つからず、先に城へ帰られたのかと……」


 その話を聞いて思い出した。確かノエルとのお出かけイベントは、ノエルが来られなくなりモブ兵士と出かけることになって、迷子になるんだった……って今の状況そのまんまじゃない!


「本当に帰っていないの? 確認はした?」

「ゼンに頼んで確認してもらってるけど、多分帰ってきてないと思う……」


 ゼンが確認していて、まだ見つからないというなら城にはいないだろう。ノエルも同じ考えのようだ。


「もうすぐ暗くなるわ。急いで探しに行きましょう」


 空は夕陽色から群青へと変わり始めている。これが記憶の通りのイベントなら早く探しに行かないと……。

 一緒に行くと言ってくれたオーウェンも加えて、三人で大急ぎで城を飛び出した。




 スペードの国の大通りに着くと、そこで別れて探そうということになった。ノエルは駆け出して行って、私はどうしようかと考える。


 あのイベントの通りなら背景から考えてララは路地裏にいるはずだが、どこの路地裏かまではさすがにわからない。しらみつぶしに探すしかないか……?


「エルザ殿はどこから探すおつもりですか?」


 悩んでいるとオーウェンが話しかけてきた。


「そうね……ここの大通りや店舗内はとっくに確認しているだろうし、ここまでの道中にもいなかったから、路地裏に迷い込んでいるのだと思うけど……」

「俺もそう思います。大通りからでも場所によっては城が見えるし、迷子になったならきっと城に向かって一直線に進むんじゃないですか?」


 明るい時間なら路地裏といっても一人で怖くはないだろうし。そう言ってオーウェンは一本の路地裏を指さした。


「大通りから城が見えて、おまけに入り組んでいて迷った、となるとかなり絞られます」

「まさか、路地裏まで全部の道を覚えてるの?」

「……誰かさんを迎えに行かなきゃならないときがあるんで」


 とてもいい笑顔だ。誰のことかしらね。


「すごいわ! さすが私のオーウェンね!」

「……はいはい、わかりましたから。さっさと行きましょう」


 一瞬口元を引きつらせたオーウェンだが、小さくため息をつくと、一本の路地裏に向かって走り出した。


 オーウェンの先導で路地裏を進んでいると、しばらくもしないうちに声が聞こえてきた。

 まだ遅い時間ではないというのに、これはそこそこ飲んでるなとわかる声と怯えた女性の声。

 さすがオーウェン、大当たりだ。


「頼むわね」

「はい」


 一言ずつのやり取りでオーウェンはその場で足を止め、私は酔っ払い共の前に姿を見せる。

 背後ではオーウェンが打ち上げた合図の火の魔法が、パンッと乾いた音を立てた。


「エルザさん!」


 五人もの男たちに囲まれたララが、私の姿を見て声をあげる。

 すると私に気付いた男たちが「ちょうどいい」だの「手が足りなかったところだ」だの言い始めた。

 わかりたくはないが意味はわかる。スペードの10を相手によく言えたものだ。


「まったくお酒ってのは恐ろしいわね」


 呆れてぼそりと呟くと、後ろから「あんたが言いますか」と声が聞こえたので「あなた達にも飲みたいときはあるわよね」と付け加えておいた。


「でも、ララを怯えさせた罪だけは償ってもらうわ」


 のんびり立っている私に焦れたのか一人がこちらに手を伸ばしてきたので、その手を取ってひねり上げる。

 流れるように足を払って地面に叩きつけると、鈍い大きな音がして男が動かなくなった。

 しまった。生きてるよね?

 更に二人がつかみかかってきたが、これは避けるだけで頭突きし合って倒れた。


 仲間の窮地に残りの二人は酔いがさめたのか謝罪と共に立ち去ろうとするので、酒に酔って人様に迷惑をかけたことに対して罰金刑を言い渡した。

 顔は覚えたから明日城まで来てちょうだいね。来なかったから取り立てにいくぞ。



 怯えた表情の男達が去った路地裏が本来の静けさを取り戻すと同時に、ララが胸に飛び込んできた。

 かすかに震えるララに、一発ずつくらい殴っておけばよかったかと物騒に考える。

 五人もの男達に囲まれるなんて、とても怖かっただろう。


 私がララを安心させるように薄桃色の髪を梳いていると、オーウェンが目頭を押さえてこちらに歩いてくる。やれば出来る子供の発表会を見た親の心境とみた。失礼な補佐官だ。


 合図を見て駆け付けたノエルも合流し、お互いに謝り合いながら私達は無事帰路についた。


 このイベントは普段可愛らしいところしか見たことがないノエルが、自分よりも背の高い男達相手に颯爽と立ち回る姿を見て、そのギャップにヒロインがノエルを意識し始めるというものだった。

 当てが外れたものの、ララに大事がなくてよかったな。

 帰る道中、ずっと私と手を繋いだままのララを見て、そう思った。

ありがとうございました。

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