43ふたりで入る? いいえ、みんなで入ります!
「にーにー、ましろとはお風呂に入ってくれるよね?」
俊介が美鈴の主張に呆れている中、ましろがおずおずと話しかけた。
「ましろは、まだ子供だから。1人じゃまだ、お風呂に入れないから。にーにーがいてくれないと、からだも洗えないの」
それは流石に嘘だろう。俊介は即座に見抜いた。
というより、ましろまでもが手段を選ばずにきたか。
別にましろぐらいの年齢なら、一緒にお風呂に入っても問題ないと思うが。他の3姉妹から猛反発に合う。そうなるとこのように「私も」となるので、俊介としては誰ともお風呂に入りたくなかった。
「お兄様、順番を言うのでしたら、長女であるわたくしに優先権があるのではなくて?」
そこに割り込んできたのは、和姫だった。
「いや、和姫さん。そこは長女だから妹にゆずるとかじゃないんですか?」
「それとこれとは、話が別ですわ!」
「別なんですか……」
俊介が和姫の言い分に呆れていた時。
レイラがキッと和姫を睨みつけて、
「ちょっとヒメ。兄さんの言うとおりだわ。長女だったら、少しは我慢しなさいよね」
「妹は、姉の言うことを素直に聞くものですわ」
つーん、と手厳しく和姫は答えた。
両者の間に、明らかな火花が飛び散る。
「あんたねえ……! 兄さんにお料理手伝ってもらったり、この間なんか、お風呂場でしかも、水着姿でイチャイチャしてたでしょ? やり方があざといのよ!」
「それを言うのでしたらレイラだって。風邪で寝込んでいたのを良いことに、お兄様から手厚い看病を受けていたではないですか。人のことは言えませんわ」
レイラと和姫の言い争いは、どんどんヒートアップしてくる。
何しろ、レイラと和姫は水と油のような関係。
性格も、趣味も、好みも、何もかもが違う。
それが1人の異性を好きになったのだから、折り合いが悪くなってもおかしくはないが。本格的な争いが起きる前に、俊介は止めに入ることにした。
「和姫さん、レイラさん。言いたいことはわかりますが、喧嘩はやめましょう。この問題は、また日を置いて――」
「そんなのダメだよ! 大事なことは、すぐ決めないと!」
俊介の提案を、美鈴は首を横に振って跳ね除けた。
「ヒメちゃんや、レイラちゃんばっかりズルいよ……。あたしだって部活とか色々頑張ってるんだから、たまにはご褒美くれたっていいじゃない」
「お待ちなさい。ご褒美というのなら、まずわたくしではないでしょうか」
美鈴の主張を、和姫は右手を前に突き出して止めた。
「何しろわたくしは、お料理はもちろんのこと、お掃除やお洗濯にいたるまで、家事の全てを担当しているのですから。日頃のねぎらいの意味も込めて、お兄様との入浴を許可されるべきかと思います」
「そんなの関係ないわよ!」
和姫の意見に立ち上がったのは、レイラだった。
「さっきからみんな、順番だのご褒美だのと言っているけど。そんなことは無関係だわ。兄さんはわたしと半身を分かち合った闇の眷属なのだから、わたしと共に時を過ごすのが最良なのよ!」
「はいはい。厨二乙ですわ」
和姫は肩をすくめながら言った。美鈴もましろも「何言ってるの?」という目で、レイラのことを見ている。もちろん俊介自身も、レイラが何を言っているのか全く分からない。
「最近、少し気が緩んでいたように思いますわ……。わたくし以外のメスブタ共に、お兄様と過ごすことを許可するなど。これは一刻も早く、お兄様と交わり子を成す必要がありますわね」
「ただの地球人が。口を慎みなさい」
冷徹な和姫の口調に、一歩も引かずレイラは答えた。
「これ以上わたしを怒らせるなら、爆発四散させて、宇宙の塵にするわよ?」
「面白いですわね。わたくしとやるというのですか? メスブタの分際でおこがましい。骨まですり潰して、養豚場の飼料にしてさしあげましょうか?」
「なによヒメ! やる気!?」
「レイラこそ!」
和姫とレイラは、今にも掴みかからんばかりに言い争いを始めた。
こうなることは薄々気づいていたことだが。美鈴やましろも声を荒げていないだけで、2人とは同意見らしい。
一触即発。
俊介は、ここのところ穏やかな雰囲気が続いていたので忘れかけていたが、この姉妹達には、いつ爆発してもおかしくない火種を抱えていたのだ。
「皆さんの言いたいことは、よくわかりました」
俊介の言葉に、和姫とレイラは言い合いを止めた。
「要は、僕が他の方とお風呂に入ることが気に入らないわけですよね? これは僕が悪いと思います。例えるなら、4つあるケーキを誰か1人にだけ分け与えるようなものですから」
しんと静まり返る室内。
4姉妹は、俊介の言葉に聞き入っていた。
そこで俊介は、ふーっと息を吐き、大声で宣言した。
「――なので、みんなでお風呂に入りましょう! これで文句はないですね!」




