36ひとりで入る? いいえ、2人で入ります!
……そんなこんなで。
料理は食べ終え、満腹になったところで、気づけば時間は夕方近くになっていた。しばらく俊介は、ましろのゲーム相手になってあげたり、お菓子を食べて談笑したりと、まったりした時間を過ごしていた。
17時半頃。
事件は、ましろのこんな一言と共に起きた。
「にーにー。お風呂はいりたい」
「え? ……ああ」
本を読んでいた俊介は、壁掛け時計を見るとうなずいた。
確かに、いい時間帯だ。
そろそろ帰ってくるであろう他の妹達のためにも、お風呂を沸かしておくべきだろう。
「それじゃあ。僕はお湯を張ってきますから。沸いたらましろさんが先に入ってください」
俊介がそう言うと、
「いや!」
ましろは頬をぷくーっと膨らませながら怒った。
「どうしてですか? 銭湯にでも行きたいんですか?」
「ちがう……ましろ、にーにーと、いっしょに入りたいの」
ましろの言葉を聞いて、俊介は一瞬固まってしまった。
しかし、すぐに、
「いや、1人で入れるでしょう?」
「にーにー。最近ましろにつめたいんだね」
「え?」
ましろが涙ながらに言うので、思わず俊介は聞き返した。
「幼稚園に通ってたころは、毎日いっしょにお風呂入ってくれてたのに」
「……いやいや。それは、幼稚園児だからでしょうが」
小学生とお風呂に入るのは、色々とまずい。
なぜなら、最近ましろは背が伸びたり、胸が少し膨らんできたり、確実に「女性」になっているのだ。血縁者ならばともかく、俊介とましろに血の繋がりはないのだ。安易に裸の付き合いなど、出来るはずもない。
「ですから、ましろさんと一緒にお風呂に入るのは、止めた方がいいと思うんですよ。ましろさんだって、男の人に裸を見られるのは、恥ずかしいでしょう?」
恥ずかしがっているのは、俊介も同じなのだが。
あえて俊介は口に出さないでおいた。
すると、
「にーにーは、ましろといっしょにお風呂入りたくないの?」
「……いえ」
まあ、そうくるだろうな。
俊介は、首を横に振りながら考えた。
しかし、一緒にお風呂ともなれば、裸の付き合いは避けられないし、最悪色々な部分に手が触れてしまう可能性がある。そして、自分とましろは血がつながっていない。
どう考えてもインモラルだった。
苦悩する俊介に、ましろは、
「にーにー、ましろのこときらいなの?」
「な、ど、どうしてですか?」
「だって、お父さんもお母さんも、ねーねー達も、ましろと一緒にお風呂に入ってくれるよ? それなのに、にーにーだけ一緒にお風呂入ってくれないんでしょ?」
「……そ、それは……」
言えなかった。
自分はましろとは血のつながりが無いからだ、とは。そんなことは。
「ましろが何かわるいことしたんなら、あやまるから」
「え? い、いや……謝る必要なんて……」
「ごめんなさい、にーにー」
そう言って、ましろは懸命に頭を下げた。
違うんです、と言っても、お辞儀を止めようとしない。
「分かりました! 分かりましたよ! ましろさんと、一緒にお風呂に入ります!」
結局、俊介の方が折れることになり、ましろと一緒にお風呂に入ることを宣言した。
「ほんと!? にーにー!」
と、ましろは嬉しそうに顔を上げる。
「やったぁ! ひさしぶりに、にーにーと一緒にお風呂入れるんだ!」
「……そうですね」
俊介は、微妙な表情で頷いた。
問題があるかないかで言うと――やはりあるだろう。
しかし、血縁関係がないとはいえ、家族だし。
ましろはまだ小学1年で、「幼児」に近い。まだまだほんの子供だ。そこまで気にすることもないだろう。
「にーにー! ましろと、いっぱい背中流しっこしようね!」
「そ、そうですね……?」
正直、この時点で俊介には、嫌な予感しかしていなかった。
むしろ、小さい子だからこそマズいのではないか? と。
というより、自分の方こそ自制心はもつのか?
今のところ、ましろを性の対象として見たことは1度もないが……裸で迫られでもしたら、絶対に大丈夫とは言えない。
いやいや。何を考えているんだ。僕には、恋華さんという偽装恋人がいるんだ。
俊介は頭の中の煩悩を打ち消すように、頭をブンブン振りながら、ましろと一緒に浴室へと向かった。




