35まずい? いいえ、おいしいです!
「さあ、出来ましたよ。すみませんが、ましろさん。お皿を並べてくれますか?」
「はーい!」
俊介がそう頼むと、ましろは楽しそうに返事をする。
そしてキッチンテーブルの上に取り皿を2つ並べた。
その上に、俊介は出来上がった野菜炒めを盛り付けていく。
「完成しました。これを、リビングまで持っていきましょう」
「はーい!」
ましろは嬉々として、お皿2つをお盆の上に乗せて、リビングに向かって足を運んだ。だ。おぼつかない足取りだと思っていると、よく見たらましろは小さくスキップをしていた。ましろからしてみれば、大好きなお兄ちゃんのお手伝いを出来ることが、嬉しくてたまらないのであろう。
「ましろさん。ゆっくりでいいですからね。落とさないでくださいよ」
「だいじょうぶー」
えっちらおっちら。
右へふらふら、左へふらふら。
何とかましろは、料理をテーブルの上に並べ終えた。
その料理を、俊介は上から眺めた。野菜はほどよく焦げ目が入っており、肉にも丁度よく熱が通っているように見える。醤油と鶏がらスープの香ばしい匂いも鼻腔を心地よく刺激している。見た目には、完璧に思えた。
しかし、問題なのは味だ。
見た目がよくても味が悪ければ、全て台無しになる。
「それでは、食べましょうか。ましろさん、両手を合わせてください」
「はーい」
「それでは。いただきます」
「いただきまーす!」
と、合掌も終えてましろが野菜炒めにぱくつく。
俊介はその様子を、じっと見つめた。
美味しそうに食べている。やはり成功していたのか。
俊介はほっとしながら、自身も野菜炒めを口に入れた。
「うっ……」
途端に俊介は顔をしかめた。味がしょっぱすぎるのだ。
おそらく、炒める時に塩の分量を間違えたのだろう。
「ましろさん……無理して、食べなくていいですよ」
「えー。どうしてー?」
「だって……美味しくないでしょう?」
「そんなことないよー。おいしー!」
ましろは、意外にも首を横に振った。
しかし、俊介からしてみれば、味が濃すぎて到底食べれたものではない。
それはましろにも分かっているはずだ。和姫が作る料理に比べれば、とてつもなく不味いということに。
それでも、ましろは美味しいと言ってくれている……。
「無理しなくていいですからね。残してもいいんですよ?」
「のこしたりなんかしない! おいしいもん!」
「ほ、本当ですか……?」
「うん!」
ましろは、大きく頷いた。
「にーにーと一緒に作ったおりょうりだもん。だから、おいしー!」
ましろは。
少しの濁りもない澄んだ瞳でそう言った。
「おいしー! おいしー!」
「ましろさん……ありがとうございます。今度は、もっと美味しくなるよう頑張りますからね」
しょっぱい野菜炒めをもりもり食べるましろを見習い、俊介も料理に手をつけることにした。
……うん。
やはり、何度食べてもしょっぱい。
しかし、美味しそうに頬張るましろと一緒に食べると、不思議と塩辛さも気にならなくなった。俊介は箸を皿の上に置くと、
「ましろさんは……」
「んー?」
「ましろさんは、良い子ですね」
「そう? えへへー!」
俊介は、ポンポンとましろの頭を撫でてあげた。
頑張ってくれたご褒美、なんて言うつもりはない。
なぜか、無性にそうしたい気分だったのだ。
「えへへぇ。にーにー、くすぐったいよぉ♪」
気持ちよさそうな声を漏らすましろの頭を、しばらく俊介は撫で続けていた。




