21義理の家族? いいえ、本当の家族です!
計測結果、レイラの熱は38度6分だった。
よって病院で処方された薬を飲ませ、自室で休ませることになった。
俊介が聞いたところ、レイラは体が弱くて、よく熱が出るとのことだった。
俊介は、仕事で忙しい両親に代わって、自らレイラの看病を名乗り出た。
理由は――自分のためだった。
和姫も美鈴も、自分に懐いてくれている。
あとはレイラの看病をすることによって、彼女からの信頼を得られるのではないかと、計算していた。
布団に横たわるレイラの額に、水で濡らしたタオルを乗せながら俊介は言った。
『少しはよくなりましたか? レイラさん』
茶番だ、と俊介は思っていた。
赤の他人から心配されても、この子も嬉しくないだろうと。
『だい……じょうぶ。ゲホッゲホッ』
レイラは、息も絶え絶えにそう答えた。
『無理しないで、具合が悪かったら遠慮なく言っていいんですよ?』
『ゴホッ! むり……してない』
『そうですか? のどが赤く腫れてますし、さきほどから咳もしてますよ。本当は辛いんじゃないですか?』
『……うん。つらい』
レイラは小さく、俊介の言葉を肯定した。
『でも、そんなこと言えないの。お父さんもお母さんも、おしごとで忙しいから。ヒメもスズもちゃんとしてるのに、わたしだけ迷惑かけるわけには、いかないから』
レイラの言葉は、俊介には理解できなかった。
辛いなら辛いと、どうして言えないのかと。
自分と違い本物の家族がいるのに、どうして頼れないのかと。
家族とは。親子とは。兄妹とは。
この時の俊介には、何ひとつ分からなかった。
そんな俊介の思いをよそに、レイラはぜいぜいと、言葉を紡いだ。
『わたし……がんばらないといけないの』
『無理しない方がいいですよ。倒れてからでは、余計に治るのが遅くなりますし』
『それでも、がんばらないといけないの。だって……』
『だって……なんですか?』
『新しい家族にカッコ悪いとこ、見せられないから』
『レイラ、さん……』
『ダメダメな妹だって、嫌われたくないから……』
その言葉は、俊介にとって衝撃だった。
自分が義理の家族に取り入ろうと躍起になっていた時に。
レイラもまた、病と戦っていたのだ。
俊介に自分のことを認めてもらうために、必死になっていたのだ。
この瞬間からだった。「家族」という言葉の意味を理解したのは。
そして、「本物の家族」としてやっていける気がしたのも、この時からだった。
俊介はフッと笑った。しかしそれはこれまでのように自嘲したものではなく、どこかスッキリとした笑みだった。
『レイラさん。あなたはバカですね』
『ふえ? わ、わたし、バカ……?』
『はい。無理して頑張って倒れて。あなたはおバカさんです』
突然の俊介からの悪口に、レイラは驚きを隠せないようだった。
『わ、わたし、バカじゃないもん』
『だったら。もっと僕達を頼ってください。すがってください。カッコ悪くていいじゃないですか。みっともなくていいじゃないですか。そういう弱い部分を晒しあって、助け合い成長していくのが家族なんじゃないですか?』
『か……ぞく』
叱るような、諭すような、勇気付けるような。そんな俊介の口調に、レイラは深く考え込んでいた。
『まあ、偉そうなことを言いましたが。要するに家族なんだから、頼ったり頼られたりするもんじゃないですかね。僕も迷惑をお掛けします。代わりに、レイラさんも僕にどんどん迷惑をかけてください。それで、おあいこでいいじゃないですか』
『う……うん』
『約束ですよ。もうお互いに、遠慮はなしですからね。僕達は、もう兄妹なんですから』
『うん! わかったよ、兄さん!』
そう。
レイラが俊介を兄と呼んだのは、この時が初めてだった。
こうして、俊介はレイラと打ち解けることになったのだ。
最初は喧嘩をしたり、反発したりしたこともあったが。
徐々に、少しずつ、「家族」になっていったのだ。
『あ、そうだ。レイラさん。アニメ見ますか? 義母さんがレンタルしてくれたんですよ。ずっと寝てても暇だろうからって」
俊介がDVDが大量に入った袋をレイラに見せると、
『見る見る!』
レイラは嬉々として頷いた。
この行動だけは、俊介は後に後悔することとなった。
なぜならレイラは、この時見たアニメの影響で、中2病になっていったからだ。
レイラの中2度と比例するように、体はどんどん強く、健康になっていった。
しかし俊介は悔やんでいた。
まさか、自分のせいで妹が中2病になってしまうなんて!
それからも時間が空いた時は、レイラと一緒に、色んなアニメDVDを漁るように見た。よって、中2病といってもレイラの設定はよくブレる。しかし、レイラにとってはそれが俊介と共に歩んできた「思い出の結晶」なのだ。
大好きな兄と一緒に見たアニメだから。
その時の記憶が1番幸せだったから。
風邪が治るのと同時に、レイラは中2病という病を患ってしまったのだった。




