12お風呂掃除? いいえ、汚してます!
俊介は水着姿の和姫と一緒に、お風呂掃除をすることになった。
何だかんだで、濡れてもいいように水着姿でというのは正論だし、今更着替え直させるのは時間の浪費というものだろう。
和姫は、持ってきたカビキラーを浴室の壁に吹きかけると、
「こうして、少ししてからシャワーで洗い流すと、簡単に落とせますのよ」
「なるほど」
「あとは排水溝ですわね。ここは、重曹をそのまま振り掛けますわ。これも少し放置した後にこすり落とします。そうすると、ぬめりや匂いも一緒に取れますから」
「……さすが和姫さん。手馴れてますね」
格好こそぶっ飛んではいるが、掃除自体は至って真面目にこなしている。最初こそ面食らいはしたものの、案外何事もなく終われそうだと俊介は安堵した。
「いえ、そんなことはありませんわ。あと、2人で1つのことをするのは効率が悪いですし、分担作業といきましょうか」
と、和姫が提案してきた。
「わたくしは鏡を拭きますから、お兄様は浴槽の方をお願いできますか?」
「はい、分かりました」
和姫は、壁にかかった鏡を指でツツーとなぞりながら、
「水垢と石鹸カスでだいぶ汚れていますの。これは、クエン酸を水で溶かしたスプレーをかけるとよく落ちますのよ」
それは初耳だった。やはり家事を長くこなしているだけあって、和姫は頼りになる。和姫がテキパキと鏡のウロコを落としているので、俊介は浴槽の中に入ると、
「では、僕も作業に取り掛かるとしましょう」
「滑りますから、くれぐれも足元には気をつけてくださいね?」
「ええ、わかりました」
「……と、言ったそばからあ~れ~(棒)」
なにやら、後ろからわざとらしい悲鳴が聞こえてきて。
俊介が振り返ろうとした時、背中に何か柔らかい物がぶつかってきた。
むにゅっと。
「むにゅ?」
それは、実にまろやかな膨らみだった。ボーリングの玉のようなズッシリとした重みがありながらも、マシュマロのように柔らかい。そして、2つの突起物。
それが……俊介の背中に押し当てられているのだった。
「お兄様? わたくしの胸……気持ちいいですか?」
耳にふうっと息を吹きかけながら囁く和姫の言葉は、実に蠱惑的だった。
「ちょ、ちょっと和姫さん! 悪ふざけはやめてくださいよ!」
「悪ふざけ? とんでもありませんわ。わたくしはただ足を滑らせてしまって、お兄様に抱きついているだけです。いわば、これは事故ですわ」
和姫のクスクス笑う声が、後ろから聞こえる。
「や、やめてください、和姫さん……これ以上は……」
「これ以上は? ふふ、どうなってしまわれるのでしょう?」
張りのある乳房を押し付ける和姫。
しまった、油断していた。
俊介は自身のうかつさを後悔したが、時すでに遅し。
和姫と2人きりになった時点で。
和姫が水着姿で現れた時点で。
すぐに逃げ出すべきだったのだ。
しかし、後悔先に立たず……。
「……うっ」
俊介が、苦しげに呻く。
「お兄様?」
ただならぬ事態を察知したのか、和姫が俊介の顔をのぞきこんだ、その時――
鮮血が、浴室を染めた。
「お兄様!? どうなさったのですか? お兄様――!」
和姫の悲鳴が浴室中に響き渡った。
俊介が覚えているのは、そこまでだった。
鼻血をぶちまけながら、俊介は倒れた。浴槽を血の海にしながら。要するに、和姫の色仕掛けに興奮しすぎたのである。
ああ……せっかく掃除したのに。
薄れゆく意識の中で、俊介はそう思うのであった。




