9婬靡? いいえ、料理です!
そして俊介と和姫は。
2人で厨房へと入っていった。
「それではお兄様。まずは玉ねぎの皮むきからお願い出来ますか? その間にわたくしは、だしを作っていますから」
見ると、キッチンカウンターの上には皮むきされて、一口大に切られたじゃがいもがボウルに入れられ、その横には切りかけの牛肉があった。どうやら、和姫は肉じゃがを作るつもりらしい。
俊介は手を洗い終えると、玉ねぎの頭の部分だけをカットし、外側の皮をむき始めた。
「まあ……! 流石お兄様、お上手ですわ♪」
「そうですか? ありがとうございます」
「これなら、毎日でもお手伝いをお願いしたいくらいですわ」
「そ、それはちょっと……」
別に無言で調理する必要もないのだが、声をかけられすぎるのもやりづらい。しかし、和姫は口数こそ多いが、手早く水にひたした昆布だしに鰹節を加え沸騰させ、あくを取っているところだった。俊介とは段違いの手際の良さである。
……。
…………。
…………ほどなくして、全ての玉ねぎの皮をむき終えた俊介は。
「じゃあ次は、一口大にカットしていきますね」
「お願いしますわ。ポイントは、繊維に沿って切ることですわね。そうすれば、シャキシャキした食感が活きますのよ」
「なるほど」
「あとは、根元の部分に三角形の切れ目を入れ、芯を落としてからカットするといいですわ。1枚1枚がほぐれやすくなりますから」
「へえ、勉強になりますね」
俊介は言われたとおりに包丁を入れながら、
「なんていうか、今更ながら和姫さんの凄さが分かりましたよ。いつも当たり前のようにやってくれてますけど。自分がやる側になって初めて、料理を作る難しさが身に染みますね」
と。和姫への感謝の言葉を語った。
上手くは言えないが。
確かなことは、和姫がいるからこそ井川家はやっていけてるということだ。
「そんなことありませんわ」
和姫は、俊介の言葉を否定する。
「わたくしなど、大した人間ではありません」
「そんなことないでしょう。これだけの美人で、頭が良くて、スポーツも出来て。おまけに家事も万能とくれば。大概の男性はほっとかないくらいですよ」
俊介から和姫への賛辞は止まらない。
すると和姫は、突然俊介の後ろに立つと、
「お兄様……」
「か、和姫さん?」
和姫は後ろから、俊介の背中に抱きついた。
「お兄様ったら、ズルいお人」
ピタッと。
俊介の背中に押し付けられる、和姫の豊満な胸。
「ちょ、ちょっと和姫さん何してるんですか!? やめてください!」
和姫は俊介の懸命な叫びも聞かず、むしろますます抱きしめる腕の力を強め、
「お兄様がいけないのですわ。こんな気持ちにさせるお兄様が」
「ちょ、ちょっと待ってください! これ以上は本当にまずいですよ!」
「わたくし、もう我慢できませんわ。このまま淫らなことをしてしまいましょう」
「か、和姫……さん」
和姫の熱く甘い吐息が、俊介の耳に吹きかけられる。
「うっ」
思わず目を閉じる俊介。
さらに白く細い指が、俊介の指先に触れる。
そして、押し付けられさらに強調される和姫の大きな双乳。
他の妹達が、すぐそこのリビングでくつろいでいるというのに、調理場でこんなことをしてていいのか。
俊介が頭の中でそう考えていると、和姫はフッと笑って、
「……なーんて♡ うそですわ」
「…………え?」
和姫の思わぬ発言に、俊介は閉じていた目を開けた。
「あら? どうなさったのですか? そのお顔は。もしかして、本当にわたくしと淫らなことをしたかったのですか?」
「そんなわけないでしょう!」
俊介は大声を上げた。
というより、誰だって騙されるに決まっているだろうと。完璧なプロポーションは元より、和姫の媚びるような、甘えるような、誘うような仕草。あれは本当に――
「わたくしとて、最低限の常識くらい持ち合わせています。神聖な炊事場で淫蕩な行為に及ぼうなどと、流石にしません」
「で、ですよね」
「ですがわたくしとて、年頃の女の子です。人並みの性欲も持ち合わせています。異性と2人きりでいて、何も感じないはずがないでしょうに。ですから、お兄様も悪いのですよ?」
「そ、そんなこと言われても……」
「わたくしに迫られて、ドキドキしましたか?」
「それは……まあ」
「うふふ」
和姫は艶めかしく笑って、
「言っておきますがわたくし、まだ諦めたわけじゃありませんから。絶対に、瀬戸内恋華には負けませんわ」
「和姫……さん」
それは、和姫の決意だった。
恋華との『お試し恋人』はあくまでも一時的な休戦条約であって、根本的な問題は何も解決していない。
和姫以外の妹達も、同じ気持ちなのだろう。その強い気持ちを止める手段など、何もありはしないのだ。
「ですから、覚えておいてくださいませ。わたくし達は、いいえ、わたくしは、近い内に必ずお兄様をわたくしのものにしますわ。そう、どんな手を使っても」
俊介は今更ながら、和姫の強い意志を思い知らされた。
和姫からしてみれば、幼い頃からずっと俊介のことを想っていたのに、急に出てきた瀬戸内恋華に、愛しい兄を取られてしまったのだ。
元々持っていた気持ちが暴走してしまっても、おかしなことではない。
「――少し、喋りすぎましたわね。お料理を続けましょう」
「そ、そうですね……」
和姫の言葉に、俊介はホッとした。
何しろ、まだ和姫の胸は押し当てられたままなのである。はち切れんばかりの乳房は、服の上からでもハッキリと感触が伝わってくる。このままでは、とても料理どろこではなかった。
「それでは。わたくしもお手伝いしますから。このままの状態で、続けましょうか」
不意に、和姫がそう言い放つ。
「えっ? でも、こんな状態じゃとても料理なんて――」
「お兄様は、慣れていらっしゃらないからまだ少し遅いですわ。わたくしが後ろから、ピッタリと寄り添いながら教えてさしあげますわ。そのほうが、効率がいいでしょう?」
「ま、まあ、それはそうですけど……」
確かに子供に料理を教える時は、後ろからくっついてコミニュケーションを取りながら教える場合があると聞いたが。
「うふふ。お兄様。わたくしが優しく、手取り足取り教えてさしあげますわ……♡」
「お、お手柔らかにお願いします……」
俊介には、そう言うことしか出来なかった。
今度から、手伝うのは食器洗い程度に留めておこう。
和姫にむにゅむにゅ胸を押し付けられながら、俊介はそう考えるのであった。




