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8手伝わない? いいえ、手伝います!

「和姫さん。晩御飯の準備、手伝いますよ」


 井川家のキッチンにて。台所で調理をしていた和姫に、俊介は声をかけた。


「え? お、お兄様が……ですか?」


 包丁を握っていた和姫が、驚いたように俊介を見つめながら答える。


 井川家の長女、井川和姫。

 鋭く美しい切れ長の瞳に、スッと通った鼻筋。ふっくらとした艶やかな唇。そして、カラスの濡れ羽のような漆黒の髪を腰元まで垂らしたその姿は、まさに日本人形のように完成された美しさと言えるだろう。年齢は15歳ながら、その大人びた佇まいは大和撫子といった風格だ。


「ええ。いつも和姫さんだけに家事を押し付けて申し訳ないですから。たまには僕もお手伝いをしますよ」


 照れ隠しに頬を指でかきながら俊介は言った。


「そんなに気を遣わずともよろしいですのに……。でもまあ、お兄様がそこまで仰っていただけるなら、お言葉に甘えさせて頂きますわ」


 和姫はそう言いながらも、まんざらではない様子で俊介の腕を取った。


「え~、なんでなんで!? お兄ちゃん、いつもはそんなことしないのに!」


「そうよ! ヒメだけ兄さんと一緒にいるなんて!」


 そう声を上げてキッチンに乗り込んできたのは、スポーツ大好きな元気っ娘の四女の美鈴と、中二病を患う金髪美少女、次女のレイラであった。


「あらあら」


 待ったの声をかける美鈴とレイラに、和姫は柔らかな微笑を浮かべた。


「兄が妹の手伝いをすることの、何がいけないのでしょうか? いつもわたくしを手伝って下さらないあなた達も、少しはお兄様を見習うべきですわ」


 不満げに美鈴が答える。


「む~、じゃ、じゃあ! あたしも手伝う!」


 追随してレイラも、


「わたしも手伝うわ! 兄さんの魔力櫃を溜められる料理(錬金薬)を作れるのは、わたしだけなんだからね!」


「手伝うも何も、貴方達はお料理などやったことがないじゃありませんの。美鈴はおにぎり、レイラに至っては、カップ麺ぐらいしか作れないではありませんか。足手まといはいりませんわ」


 実に楽しそうに、和姫は美鈴とレイラに意地悪く言う。


「あ、足手まとい!? ヒメちゃん、ひっどーい!」


「ぐぬぬ……。ず、ずるいわよヒメ。ちょっと料理が出来るからって……」


「何がぐぬぬですか。それにひどいも何も、正論ではありませんか。この家でお母さまからキッチンを任されているのは、わたくしだけですわ。そのわたくしが、お兄様と一緒に美味しいお料理を作って皆様に振舞おうと言っているのですよ。貴方達は余計なことをせずに、リビングで無駄に怠惰な時間を過ごしていればよいのですわ」


「うぅぅ~~……。あたしもお料理勉強しとけばよかったぁ……」


「転生前に料理のスキルを磨いてこなかった、わたしの負けね……」

 

 美鈴とレイラはガックリと肩を落としながら引き下がっていった。しかし、俊介も恋華から「妹ウオッチ」を命じられていなければ、和姫の家事を手伝おうとはしなかっただろう。なぜなら、あまりに和姫の料理の腕前が高すぎるからである。


 いつも美味しくて手間のかかった料理を食べさせてくれる――いつしか、それが当たり前になってしまっていた。だから、これを機に少しでも和姫の負担を減らしてあげたい。そう思って、俊介は手伝いを申し出たのだった。 

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