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6会議? いいえ、謀議です!

「それでは、まずはわたくしから報告させていただきますわ」


 レイラ、美鈴、ましろをそれぞれ見回しながら、和姫は言った。

 妹会議は、俊介が家に帰ってくるまで続けられる。

 あまり無駄話をしている余裕がないという判断からだった。


「今朝、お兄様を起こしにきた時軽くお部屋のお掃除をしましたが、特に変わったものはありませんでしたわ。携帯の履歴も調べましたが、わたくし達以外のアドレスはありませんでした。今日は少しお帰りが遅れているのが少々気にかかりますが、別段問題はないことでしょう。以上ですわ」


「じゃあ、次はわたしね」


 和姫の報告が終わり、続けて口を開いたのはレイラだった。

 彼女は、右手に巻かれた包帯を大事そうにさわりつつ、


「昨日の出来事よ。兄さんは夕方頃(世界の終末)――よろよろと歩くおばあさん(村人B)の手をつなぎながら、一緒に交差点を歩いてあげていたわ。しかも、荷物を持ってあげてね。あふれ出る兄さんの優しさ――わたしは感動(星空の祝福)に打ち震えたわ」


「そのおばあさんの年齢は?」


「電柱の陰から見ていただけだから正確なことはわからないけど、60~70代くらいじゃないかしら」


「それなら……大丈夫ですわね。お兄様に熟女趣味があるとも思えませんし」


 和姫はブツブツぼやきながら、顎に指を当てて考えこんでいた。

 が、しばらくすると顔を上げて、


「わかりましたわ。レイラからの報告はしかと聞き届けました。それでは次。美鈴、大丈夫でしょうか?」


「うん、大丈夫だよ! ヒメちゃん!」


 和姫の問いかけに、美鈴は元気よく手を挙げながら、


「昨日、公園を通りがかった時のことなんだけどね。持っていた風船が木の枝に引っかかって、泣きじゃくってる可愛い女の子がいたの。そこに偶然いたお兄ちゃんが、わざわざ木に登って、女の子の風船を取ってあげていたの! しかもそれだけじゃないよ。その女の子の母親まで一緒に探してあげたのー! はうぅ……今思い出しても、お兄ちゃんカッコよかったよお……」


「可愛い女の子……?」


 無言で話を聞いていた和姫が、眉間にしわを寄せながら、


「それで? その可愛い女の子とやらは、その後どうしたのでしょうか?」


「あ、そうそう! それでね!」


 すっかりテンションの上がった美鈴は満面の笑顔で、


「その後、すぐにお母さんは見つかったの。それでお兄ちゃんとその子はバイバイになったんだけど……今度はその子がお兄ちゃんと離れたがらなくなってさ。もう大変だったんだよ! 帰り際に『将来おっきくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる!』だって! もう、小さい子って可愛いよねー」


「はぁ……。いいですか? 美鈴」


 朗らかに喋り続ける美鈴に、ため息をつきながら和姫が、


「可愛い幼女というのは、成長すれば美人となります。しかも、今回の件でお兄様に惚れてしまった可能性が非常に高いです。ならばその子はわたくし達にとって、いずれは強力なライバルとなり得るのですよ? そのことを、よく考えたのですか?」


「ラ、ライバルだなんて……。ヒメちゃん、大げさだよう……」


「いいえ。ちっとも大げさではありません。お兄様に近づくメスは全て警戒に値するのです。どんなに小さくても、メスはメスなのですから。まあ、今すぐどうこうできる問題ではありませんが、それでもその子の住所、電話番号。せめて名前くらいは聞き出せなかったのでしょうか? 以後、気をつけるように」


「ううう……わかったよう……」


 涙声で答える美鈴。

 和姫はそこからましろへと話題を振った。


「ましろ。貴方はどうですか? お兄様と最近、いっぱい遊んでもらえてますか?」


「んっとねー、ましろはねー」


 ましろは実に嬉しそうに、ピンクのふわふわしたウェーブパーマを指でくるくるさせながら、


「昨日、にーにーのおひざの上で、いっぱいテレビゲームをしたよー。おねむの時は、ましろがおねむするまで絵本を読んでくれたのー。にーにーと、いっぱい、いーっぱい遊んだのー!」


「そうですか。良かったですわね、ましろ。でも、お兄様はお勉強でお忙しいでしょうから、あまりお邪魔はしないようにお願いしますわ」


「はーい!」


 和姫が優しくたしなめると、ましろは元気良く返事をした。井川家の末っ子であるましろは、家族からは目に入れても痛くないほど可愛がられている。自分以外の女性への敵意が異常に強い和姫とて例外ではなかった。


「なるほど分かりましたわ。皆様のご報告のおかげで、お兄様の近況をより深く知ることができました。貴方達には感謝をしております。しかし、かといってこれで満足してはいけません。いつ、どこでお兄様をたぶらかす不貞の輩が現れないとは限らないのですから。今後も気を引き締めて、お兄様の身を守りましょう。それでは――」


 和姫はそうまとめると、真っ赤な液体(トマトジュース)の入ったグラスを持ち上げた。それにならって、3人ともそれぞれグラスを掲げる。


「全てはお兄様のために。乾杯」


「「「乾杯」」」


 カチンと、4姉妹はグラスとグラスを合わせた。

 

――それから数分ほどして。

 そんな会議が行われていることなど露とも知らずに、俊介は帰宅した。

 井川家の日常の、ほんの1コマである。

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もはや軍議!?
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