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53フェイク? いいえ、本気です!

 ひとしきり勝に制裁を加えた後。

 恋華は未だ収まらない怒りを抱いて自室に戻っていた。


「あーもう! 俊介君のバカ! ウルトラバカ! 略してウルバカ!」


 悪口の対象は勝からいつの間にか俊介へとシフトチェンジしていた。それもそのはず、俊介が勝の言うことなど信用しなければ、こんな大事にはならずに済んだのである。


 勉強机に座った恋華は、大事そうに飾ってある写真立てに目を向ける。

 それは恋華の1番大切な思い出が詰まっている「宝物」だ。


「あー。でも、私も悪かったのかなあ。偽装恋人なんて回りくどい真似をして……」


 怒りの口調から一転、恋華は反省の言葉を口にする。

 本来ならばあの時、普通に告白する予定だった。恋華の気持ち、恋華の過去、そして、俊介への思いも。全て、何の偽りもなく伝える。そして、恋人同士になって堂々と付き合う。そのはずだった。


 ――なのに、どうしてあんな余計なことを言ってしまったんだろう。


 単純に俊介が自分のことを覚えてさえいれば、こんな苦労はなかった。しかし、俊介は自分のことを何も覚えていなかった。それどころか、自分の告白を疑ってきたのだ。


 だから、提案するしかなかった。偽装恋人を。

 

 こういう理由で自分は恋人役を探しているので、俊介君にも協力を願いたいんですよ――。そう言えば、お人よしの俊介なら協力せざるをえないはずだ。昔のことは、フェイクとして付き合っていく内に思い出してもらえばいい。


 計算外だったのは、勝の横やりと、俊介の妹達のブラコン具合だ。


「本当に……。色々と面倒くさいなあ」


 呆れた口調で言ったつもりだったが、知らぬ内に笑みがこぼれてしまっていた。

 例えどんな邪魔が入っても、諦めない。

 恋華は胸に手を当てると、決意を新たにした。


 ――俊介君がどうでもいい雑学を披露したら、適当に相槌を打てばいい。

 ――俊介君の妹達が何かしてきたら、正々堂々迎え撃てばいい。

 ――俊介君がまた妙な勘違いをしてきたら、お尻を蹴っ飛ばしてやればいい。

 ――俊介君が私に対して文句を言ってきたら、それ以上に言い返せばいい。

 ――俊介君が何か迷っていたり苦しんでいる時は、力になる。

 ――そして、辛いことや悲しいことを一緒に乗り越えて。

 ――私は彼に、想いを告げる。


「……大好きだよ、俊介君」


 恋華は、ポツリとそう呟いた。

 手を置いた胸の奥からは、俊介への想いが溢れ出しそうだった。

 いつか必ず、この想いを伝えてみせる。


 そうすれば、「偽装恋人」などもう終わりだ。「お試し恋人」など知らない。自分は俊介が好きなのだ。好きなものは、どうにもできない。

 

 机の上に置かれた、額縁に入った古い写真を手に取る。

 古びた大きな家の前で、少年と少女が映っていた。


 藍色のおかっぱ頭をした、大きな瞳の快活そうな少女と。

 線が細く、一見女の子のように見える大人しそうな少年と。


 木製の写真立ての右下には、ボールペンで日付が書かれていた。ちょうど今から10年前。恋華は、写真に写る男の子の顔をそっと撫でると、こう呟いた。


「絶対に、本物の恋人になってみせるからね」


 そして、写真の少年の顔を指でつつくと、クスリと笑って、


「それまで待っててね? 俊君♡」

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