5悪の女幹部? いいえ、妹たちです!
井川家。
築20年の中古の一戸建てにしては、良物件と言えるだろう。
上下水道は流石に古びてはいるが。それでもリフォームが行き届いているおかげか、新築とほとんど変わらない外観だった。南向きで日当たりも良好なため、この時期には花壇に植えられたサルビアの花が一斉に咲くころである。
土地面積は172.26m²。
2階建てなので、6人兄妹という大家族の井川家でも広々と生活していけるだけのスペースがある。
そして今は、俊介の両親と1人の妹は海外で生活をしているため、実際に家にいるのは俊介+4姉妹ということになる。
よって今この家は、俊介と4姉妹で親から送られてくる仕送りを切り盛りしながら生活している状態だ。俊介以外は全員女の子ということもあって、俊介がいない時、たびたび女子会のようなものを開いたりする。
今回は、そんな1幕。
井川家のリビングにて。
テーブルに着く4人の美少女たち。
暗い室内。明かりは、4隅に設置されたキャンドルライトの炎だけである。が、これは何も人目にはばかる話をしているからではなく、ただ単純に雰囲気が出るからである。4人の少女の前には、真っ赤な液体が注がれたグラスが置いてあるが、これもただのトマトジュースである。
「皆様、お集まりのようですわね」
卓上を囲む4姉妹のうち、口を開いたのは長女の井川和姫であった。
年齢は15歳。
その容姿を見て、まず1言浮かんでくるとしたら「大和撫子」であろう。腰元までなびく黒髪のサラサラロングストレート、色白な小顔は、日本人形を想像させる。切れ長の瞳、高く通った鼻、小さめの口と、非常に整ったパーツをしていることも、その原因となっているのだろう。体系はとてもグラマーで、古い言葉で言うと「ボン、キュッ、ボン」である。
「それでは、これより会議を始めたいと思います。議題はいつものように、『俊介お兄様に悪い虫がついていないかどうか?』ですわ。なかった場合は昨日から今日にかけて、お兄様に何か変わった点がないかなどを報告くださいませ」
「……愚問ね、ヒメ」
あきれ顔でそう言ったのは、和姫の右隣に座る井川レイラであった。
井川家の次女で、年齢は14歳。金髪のサイドテールをした北欧系の少女。すーっと通った鼻筋、切れ長の真っ赤な左目は美少女と呼ぶに相応しい相貌である。なぜ左目だけなのかというと、右目には大きな眼帯をしているからだ。これはレイラが怪我をしているからではなく、
彼女は――中2病なのだ。
ちなみに左目が赤いのは病気ではなく、単にカラーコンタクトをしているからである。体つきは痩身ではあるがスタイルは良く、右手には常に包帯を巻いていた。これはレイラいわく、「わたしが右手の力を解放すれば、世界は忘却の彼方へと吹き飛ぶ」からだそうだ。ちなみに、お風呂に入る時は普通に外している。
「兄さんが現世の女性と交わることなんて決してないわ。兄さんとわたしは、小さいころから固い絆で結ばれたソウルメイトなのよ? 仮に、兄さんとわたしを引き裂く泥棒猫が現れようとも、私が秘めたる力を解放すれば、その者は瞬く間に終焉を迎えることでしょう」
「あらレイラ。自信があるのは結構なことですけど、油断しすぎると足元をすくわれかねませんわよ?」
「ヒメは慎重すぎるのよ。私の力を持ってすれば、兄さんの学校の連中なんて、恐れるに足らずだわ」
「あら失礼しましたわ。油断どころか、己を過信しすぎて周りが見えなくなっているようですわね。まあ、貴方のその粗末な胸でお兄様を魅了できるならば、是非やってごらんなさいな」
「け、喧嘩はやめようよ。ヒメちゃん、レイラちゃん」
和姫とレイラの剣呑な雰囲気を涙目で止めたのは、4女の美鈴であった。
年齢は13歳。
茶髪のショートボブをした、活発な美少女だ。
パッチリとした大きな瞳に、ハツラツとした表情。
明るい性格からか、井川家のムードメーカー的役割を持つ、愛らしいひまわりのような存在だ。
5姉妹の中で唯一部活をやっていて、テニス部に所属している。
「で、でも、あたしはヒメちゃんの言うことにも一理あると思うな。あっ胸の話じゃなくてね? お兄ちゃんって優しすぎるところあるし。何ていうか、悪い女の人にたぶらかされたりすると思うの」
「ふええ。にーにー、わるい人にだまされてるのお?」
美鈴の言葉に反応したのは5女のましろだった。年齢は7歳。
ましろの容姿を1言で表現するなら「天使」だった。
腰元まで届くピンクのゆるふわウェーブで、柔らかくふんわりした髪質は、まさに天使の羽と言える。顔立ちはまだあどけないが、十分に愛らしい顔立ちをしていた。特にアーモンド型の大きな目が印象的で、何も知らない純粋無垢な少女の人柄を如実に語っているようだった。
「大丈夫ですわ、ましろ。お兄様はどこにも行ったりしません」
和姫は優雅な微笑を浮かべ、優しくそっとましろの頭を撫でると、
「そのようなことがないように、こうしてみんなで集まって、話し合いをするのです。知恵を出し合うのです。そうすれば、ましろも大好きな俊介お兄様は、ずっとわたくし達から離れたりなどしませんわ」
「……ほんと? ヒメねーねー」
「ええ、本当ですわ」
和姫は優しく微笑むと、撫でる手を止め、残りの2人へと向き直った。
その行為が合図であったかのように、レイラ、美鈴は表情を固くし、身を引き締めた。和姫は彼女達の佇まいにコクリと頷くと、両手を組んで顎の下に置くとこう宣言した。
「それではこれより、第1358回妹会議を始めますわ」