表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/218

46交際? いいえ、破局です!

 恋華とチャラ男は付き合っていた――それが、俊介の出した結論だった。重い足を引きずるようにして帰宅する。

 

 いつものように妹軍団が迎えてくれたが、俊介はろくに返事もできなかった。食欲がないので晩御飯はいらないとだけ言い残して、2階の自室に上がる。とにかく今は誰の顔も見たくないし、自分の顔も見せたくなかった。


 部屋に入ると、俊介はすぐベッドに向かった。ダイブするように仰向けで倒れこむ。両手で顔を包む。チャラ男の言った言葉、そして恋華の言った言葉について、考えてみた。


 1つ言えることは、恋華は嘘をついているということだ。

 明らかに恋華とチャラ男は親密な関係にある。それなのに、恋華は過去に男性と付き合ったことがないばかりか、親しい男友達すらいないという。


 ならば。次に疑問になるのが、どうしてそんな嘘をついたのかということだ。その答えは簡単だが、俊介にとって最も認めたくない答えだった。


 恋華はおそらく、チャラ男と組んで自分をハメたのだろう。そうでなければ、勉強しか取り得のない自分に、学園のアイドルが偽装とはいえ告白してくるわけがない。チャラ男と共謀して、自分をあざ笑っていたと考える方がよほど自然だ。


 もういい。もう考える必要はない。もう恋人ごっこは終わりだ。

 明日恋華に話して、この茶番劇の幕を下ろそう。

 そう、思った。


 ――初めて会った時から、ずっと好きでした!


 眼を閉じ布団を頭から被った。しかし、まるで眠くならない。


 ――偽装恋人になってほしいの。


 恋華の声が聞こえる。恋華の穏やかで優しい声が。自分のことよりも、俊介のことをいつも優先してくれる、彼女の声が。


 違う。恋華はただ、自分を利用しているだけだ。いや、それよりもっと酷い。恋華は、自分を騙したのだ。俊介は首を横に振りながら、懸命に恋華の声を振り払おうとした。


 ――私、どんなに傷ついてもいいから。それでも好きな人に好きって言いたいの。


 恋華の幻影に惑わされ続ける俊介の耳に、聞き慣れた電子音が聞こえた。

 携帯の画面を見ると、恋華からだった。俊介は5コール目で電話に出た。


『あ、俊介君? 私だけど。今日はごめんね。一緒に帰れなくて』


 申し訳なさそうな声で、開口一番、恋華は謝罪をした。


「……いえ。別に」


『私もさあ、ちゃんと断ったんだけどねえ。周りの子が勝手に彼氏が出来た記念に、お祝いパーティみたいなこと考えてさあ。断るに断りきれなかったんだよ』


「あの、そんなことを言うために電話したんですか? 僕忙しいんですけど」


 自分でも信じられないくらいに突き放した言い方をしている。俊介は自覚していた。いつもならもっと優しい口調で相手を気遣えるのに、今は恋華の声を聞くだけで苛々してしまう。


『え……も、もしかして怒ってる? ごめんね。謝るから許して?』


「いえ、別に怒ってなんか……」


 俊介は言葉を詰まらせた。そうだ、別に怒ることではないはずだ。チャラ男と恋華が自分を騙していたとしても。元々自分と恋華の関係は「偽装」であって、本気になりかけてる自分の方が悪いのだ。俊介は、何とかそう自分に言い聞かせた。


「それで……用件ってそれだけですか?」


『ああ、えっとね。明日の朝も迎えに行くから。また俊介君と一緒に登校したいなーって思ったんだけど……ダメ?』


 恋華は、窺うような声色で言った。


「ダメです」


 自分で自分が、とてつもなく冷酷な人間に俊介は思えた。恋華が息を呑む音が、受話器越しでもハッキリと聞こえてきた。


『ど……どうして? 今朝から思ってたけど、俊介君、何か様子が変だよ? 私、何か俊介君の気に障ることした? だったら言って? 謝るから』


「……別に、何でもありませんよ」


 俊介はもう、喋ることすら苦痛になっていた。


『何でもないことないじゃない。言いたいことがあるなら言ってよ。じゃないと、私納得できない』


「……言いたいこと、ですか」


『そう。俊介君、朝からずっと私に言いたいことがあったでしょ? 違う?』


 俊介は数秒考えた。はぐらかすことも出来たが、覚悟を決め、


「じゃあ、言わせてもらいますけど……」


『う、うん』


「偽装恋人の件、なかったことにしてください」


『えっ!?』


「朝も家まで迎えに来ないでください。お昼も一緒に食べませんし、放課後も一緒に帰りません。デートもしません。それじゃあ」


『ちょ、俊介君! まっ――』


 追いすがる恋華の声を断ち切るように、俊介は電話を切った。

 途端に恋華から着信がかかってきたが、すぐに携帯の電源を落とした。

 そのまま携帯を放り出し、俊介はベッドに倒れこむと、呟いた。


「さよなら、恋華さん……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ