46交際? いいえ、破局です!
恋華とチャラ男は付き合っていた――それが、俊介の出した結論だった。重い足を引きずるようにして帰宅する。
いつものように妹軍団が迎えてくれたが、俊介はろくに返事もできなかった。食欲がないので晩御飯はいらないとだけ言い残して、2階の自室に上がる。とにかく今は誰の顔も見たくないし、自分の顔も見せたくなかった。
部屋に入ると、俊介はすぐベッドに向かった。ダイブするように仰向けで倒れこむ。両手で顔を包む。チャラ男の言った言葉、そして恋華の言った言葉について、考えてみた。
1つ言えることは、恋華は嘘をついているということだ。
明らかに恋華とチャラ男は親密な関係にある。それなのに、恋華は過去に男性と付き合ったことがないばかりか、親しい男友達すらいないという。
ならば。次に疑問になるのが、どうしてそんな嘘をついたのかということだ。その答えは簡単だが、俊介にとって最も認めたくない答えだった。
恋華はおそらく、チャラ男と組んで自分をハメたのだろう。そうでなければ、勉強しか取り得のない自分に、学園のアイドルが偽装とはいえ告白してくるわけがない。チャラ男と共謀して、自分をあざ笑っていたと考える方がよほど自然だ。
もういい。もう考える必要はない。もう恋人ごっこは終わりだ。
明日恋華に話して、この茶番劇の幕を下ろそう。
そう、思った。
――初めて会った時から、ずっと好きでした!
眼を閉じ布団を頭から被った。しかし、まるで眠くならない。
――偽装恋人になってほしいの。
恋華の声が聞こえる。恋華の穏やかで優しい声が。自分のことよりも、俊介のことをいつも優先してくれる、彼女の声が。
違う。恋華はただ、自分を利用しているだけだ。いや、それよりもっと酷い。恋華は、自分を騙したのだ。俊介は首を横に振りながら、懸命に恋華の声を振り払おうとした。
――私、どんなに傷ついてもいいから。それでも好きな人に好きって言いたいの。
恋華の幻影に惑わされ続ける俊介の耳に、聞き慣れた電子音が聞こえた。
携帯の画面を見ると、恋華からだった。俊介は5コール目で電話に出た。
『あ、俊介君? 私だけど。今日はごめんね。一緒に帰れなくて』
申し訳なさそうな声で、開口一番、恋華は謝罪をした。
「……いえ。別に」
『私もさあ、ちゃんと断ったんだけどねえ。周りの子が勝手に彼氏が出来た記念に、お祝いパーティみたいなこと考えてさあ。断るに断りきれなかったんだよ』
「あの、そんなことを言うために電話したんですか? 僕忙しいんですけど」
自分でも信じられないくらいに突き放した言い方をしている。俊介は自覚していた。いつもならもっと優しい口調で相手を気遣えるのに、今は恋華の声を聞くだけで苛々してしまう。
『え……も、もしかして怒ってる? ごめんね。謝るから許して?』
「いえ、別に怒ってなんか……」
俊介は言葉を詰まらせた。そうだ、別に怒ることではないはずだ。チャラ男と恋華が自分を騙していたとしても。元々自分と恋華の関係は「偽装」であって、本気になりかけてる自分の方が悪いのだ。俊介は、何とかそう自分に言い聞かせた。
「それで……用件ってそれだけですか?」
『ああ、えっとね。明日の朝も迎えに行くから。また俊介君と一緒に登校したいなーって思ったんだけど……ダメ?』
恋華は、窺うような声色で言った。
「ダメです」
自分で自分が、とてつもなく冷酷な人間に俊介は思えた。恋華が息を呑む音が、受話器越しでもハッキリと聞こえてきた。
『ど……どうして? 今朝から思ってたけど、俊介君、何か様子が変だよ? 私、何か俊介君の気に障ることした? だったら言って? 謝るから』
「……別に、何でもありませんよ」
俊介はもう、喋ることすら苦痛になっていた。
『何でもないことないじゃない。言いたいことがあるなら言ってよ。じゃないと、私納得できない』
「……言いたいこと、ですか」
『そう。俊介君、朝からずっと私に言いたいことがあったでしょ? 違う?』
俊介は数秒考えた。はぐらかすことも出来たが、覚悟を決め、
「じゃあ、言わせてもらいますけど……」
『う、うん』
「偽装恋人の件、なかったことにしてください」
『えっ!?』
「朝も家まで迎えに来ないでください。お昼も一緒に食べませんし、放課後も一緒に帰りません。デートもしません。それじゃあ」
『ちょ、俊介君! まっ――』
追いすがる恋華の声を断ち切るように、俊介は電話を切った。
途端に恋華から着信がかかってきたが、すぐに携帯の電源を落とした。
そのまま携帯を放り出し、俊介はベッドに倒れこむと、呟いた。
「さよなら、恋華さん……」




