33不利? いいえ、分かりません!
そういう流れで恋華VSましろは、しりとり対決となった。
簡単にルールを説明すると、『ん』がついた方が負け。存在しない言葉を言ったら負け。既に言った言葉を言っても負け。人名は無しだが国名地名は有り。濁点に変えるのは無し。制限時間は3分以内という、いたってありきたりなルールである。
「じゃあ私からいくね? 『蟻!』 アリん子の蟻ね」
無難な所から切り出す恋華。レイラを下すほどの知識を持っているのだから、一見すると恋華有利に見える。しかしこういう連想ゲームでは、幼い子供の方が強いこともある。まだどちらに有利とは判断できない、と俊介は考えた。
「んーと……ましろはねー……『りんご!』」
「『りんご』かあ……。良い所突くね。じゃあ、『ゴーグル!』」
「えーと、えーと、『ルビー!』」
「『ビー?』この場合って、『ビ』なの? 『イ』なの? 私は別にどっちでもいいんだけど、伸ばし棒の部分をどう取るかだよね。ましろちゃんはどう思う?」
「どっちでもいー」
「そう? じゃあね……」
恋華は口元を歪めてニヤリと笑うと、
「『ビール』で! ましろちゃんは飲んじゃダメだよ?」
「うぬー。また『ル』だ……」
困ったように、大きな目を細めながらましろは呟いた。
ここまで来て、俊介は恋華の作戦に気づいた。恋華はおそらく、ましろの選択肢を潰しているのだろう。『ル』から始まる言葉なんて、そうあるものではない。探せばあるが、ましろが知っているような言葉は少ない。
「うん、『ル』だよ。頑張ってましろちゃん。ほら、当たると楽しい遊びとかあるじゃない」
「あたるとたのしい……?」
さりげなくヒントを与える恋華に、ましろは細めた瞳を大きく開きながら、
「あ、『るーれっと!』。あたるとたのしい!」
「えらいえらい。ましろちゃん、よく思いついたね!」
「えへへー」
「これは、私も負けてられないな。じゃあ、次は……」
顎に手を当ててうつむき、考えこむ恋華。
ましろがしりとりに強いのは俊介も知っていた。何しろ、ましろと俊介はしりとりでいつも遊んでいのだ。ましろは追い詰められれば追い詰められるほど、思いもよらぬ発想力を見せる時がある。この勝負、まだどちらに転ぶか分からない。
俊介がそんなことを考えていると。
不意に恋華が顔を上げて答えた。
「トリール」
「とりーる? 何それ?」
「えっと、『トリール』ってのはね、ドイツ南西部、ラインラント・ファルツ州にある都市の名前だよ」
「そんなの、ましろ知らない……」
「ましろちゃんが知らなくても、あるものはあるんだよ。それに、国名・地名は有りってルールじゃない。さあほら。ましろちゃんの番。3分以内だからね?」
「う~。また『る』から始まる言葉だ~。おねーちゃん、ずるい~」
「ズルくないよ。しりとりっていうのは、いかに相手の選択肢を狭めるかのゲームなんだから。答えられないなら、ましろちゃんの負けだよ? 俊介お兄ちゃんは私がもらうよ? それでいいの?」
「はうぅ~~~~っ!」
少し厳しめの口調で恋華が言うと、涙目になったましろが、
「あ! あった! 『るーまにあ』! こくめーもOKなんだよね? このあいだ、歴史の授業でならった!」
パアッと顔を明るくし、満面の笑みで恋華に向かって言った。
対照的に恋華は眉をひそめ、苦々しい表情でましろを見つめていた。
「……うーん、これはまいったな……」
一体何がまいったのか。俊介には分からなかった。
『あ』から始まる言葉なんて、それこそ幾らでもあると思うが。
しかし恋華は、意外にもボキャブラリーが貧弱なのか、眉間にしわを寄せたまま、頭を抱え込み、タイムアップ寸前まで考えると、
「じゃあ、『蟻』で!」
「言った言った! 『あり』はさっき言った! おねーちゃんの負けー」
「あ、そうだった。あはは、お姉ちゃん負けちゃった!」
恋華は何と、同じ言葉を言ってしまうという失態を犯した。
あまりの幕引きに、妹軍団も声を忘れて驚愕している。
「……いいんですか、恋華さん。それで」
実質勝てた勝負を捨てて。
あえて引き分けに持ち込んだであろう恋華に、俊介はそう尋ねた。
「いいも何も、私は負けたんだよ。お兄ちゃんを慕うましろちゃんの思いが勝ったってことでいいじゃない」
その後。
ましろは『恋華おねーちゃんに勝ったー』と散々飛び跳ね、自慢し、俊介達から賞賛の声をねだっていた。
反対に和姫ら妹軍団は、重苦しく沈んだ表情をしていた。おそらく恋華が、情けをかけてわざと負けてことに気づいているのだろう。
なにはともあれ。
恋華と妹軍団の対決は、2勝2敗1分けと引き分けに終わったのだった。




