31喜び? いいえ、哀しみです!
「ええぇーい! そいやぁー!」
まったく迫力を感じない雄たけびをあげる美鈴。
そんな気の抜ける掛け声で勝てるのか? と心配になる俊介であったが。
意外にも恋華の腕をグイグイとテーブルまで押しやった。
「……っ! まだまだ!」
完全に曲がった腕を、再び垂直の角度へと戻した。
それどころか、逆に美鈴の腕を反対側のテーブルまで押し込む。
「はぁっ!」
今度は、美鈴の腕がテーブルの端ギリギリまで追いやられる。
「なんのー!」
しかし踏みとどまる美鈴。
「えいやー!」
そしてまた、恋華の腕を元の位置まで押し戻す。
「……やるじゃない。流石運動部だね」
額に汗をにじませ、手をプルプルと震わせながら、恋華は言った。
「……恋華さんこそ。テニス部でも、あたしをここまで追い詰めた人はいませんよ」
お互いの力量を認め、称え合う2人。
痙攣する筋肉から察するに、そろそろ勝負がつきそうだ、と俊介が考えた時。
「もう少しですわ! 追い込みなさいな、美鈴!」
「暗黒の力を解放するのよ! わたしの眷属ならば、それぐらい出来るわ!」
「スズねーねー! がんばってー!」
美鈴を懸命に応援する妹達。
そして、その声援を一身に背負う美鈴。
それに引き換え自分は、兄離れを促すためとはいえ、妹が負けることを願っていた。そんな自分を恥ずかしく思った俊介は、
「恋華さん頑張ってください! ……それに美鈴さんも!」
ふたりの応援をしてしまっていた。
なぜ美鈴まで応援するのか。自分でも分からない。何故かふたりとも負けないでほしい、と俊介は思ったのだった。
「……お兄ちゃん……! うん! あたし、負けない!」
美鈴は全体重をかけると、手首を巻きつけるようにして、恋華の腕を倒しにかかった。「く」の字に曲がる恋華の手。
――勝負あったか。そう俊介が考えた時。
「――はあああああああぁぁぁ!」
ぐぐっと。
……恋華は美鈴にあと一歩まで追い込まれた体勢から、手首を折り曲げ、さらに開始地点まで押し返した。
「なっ! どうしてですの! あんな不利な状態から、どうして戻せますの!?」
「瀬戸内恋華……まさか奴こそが、暗黒魔界の王……!?」
「ふええ、スズねーねー、まけないで……!」
恋華が見せる底力に、驚きを隠せない様子の和姫、レイラ、ましろの3人。
そんな妹軍団の心配をよそに、恋華は手首をひねり内側に曲げて、そのまま美鈴の腕を垂直に押し倒した。
「うぅ……負けない……! あたしが負けたら、お兄ちゃんが、取られちゃう……!」
「ごめんね美鈴ちゃん。私にも、負けられない理由があるの」
「……え?」
「――だから、勝たせてもらうね」
「きゃあああああああああああああああああああ!!」
パタンと。美鈴の腕はテーブルの上についた。
敗因を挙げれば、幾らでも挙げることが出来るだろう。
しかし今の俊介には、そんなことを考える余裕はなかった。
ただ、美鈴が気の毒で……。
「うっ、うっ……。うぇぇええええん。ごめん、みんな。負けちゃったよぉっ……ひっく!」
「ご、ごめん美鈴ちゃん。何も、そんな泣かなくても……」
両手で顔を覆って涙を流す美鈴と、その美鈴の肩を優しく撫でる恋華。
この2人を見てると、勝者への賛辞も、敗者への慰みも、全てが吹っ飛んでしまうのだった。




