21食材? いいえ、高級食材です!
「……料理対決?」
きょとんとした顔で、恋華は聞き返した。
まさか、いきなり料理勝負を持ちかけられるとは、思っても見なかったらしい。
「私と和姫ちゃんで同じ物を作って、どっちが美味しいか競えばいいの?」
「そういうことですわっ!」
和姫は両手を腰に当てて強気な姿勢を取った。
そして、恋華に怒りの声を向ける。
「お互いに制限時間を設けて、その時間内に、どちらがより美味しい料理を作れるか、という勝負にいたしましょう! 審査員は、俊介お兄様とわたくし以外の妹達ですわ!」
「そっか。うん、私は大丈夫だよ☆」
恋華は人差し指と親指で丸を作り、「OK」のサインを作った。
俊介はともかく、他の妹達も審査するということは、恋華には不利に働く。それでも勝負を受けるということは、よほど料理の腕に自信があるのだろう。
「言いましたわね? わたくしが勝った場合、お兄様との交際は諦めてもらいますわよ?」
「うん、いいよー。私、負けないし!」
「……ふん。いい度胸ですわね!」
和姫はそう吐き捨てると、顎をしゃくってキッチンの方に歩き出した。
ついてこい、という意思表示らしい。
恋華はそれにならってキッチンへと向かう。その後を俊介が追った。
俊介の家には今両親がいない。仕事で海外出張をしているためだ。そのあいだ炊事、洗濯、掃除などは、すべて和姫が担当している。使い慣れた調理場での料理なら、和姫の方が断然有利なはずだ。
そんなことを思いながら、俊介がキッチンに入ると、そこには――
「な、何ですかこれは!」
俊介が今まで見たこともないような高級食材が並べられていた。
伊勢海老にフカヒレに本マグロにフォアグラにキャビアにトリュフ。
他にも季節の野菜が色とりどり。
中でも目を引くのは、ほとんど霜しか入っていないピンク色の牛肉だった。おそらくは神戸牛。ということは、キロ単位の値段は……。俊介はめまいを覚えた。
「和姫さん! これは一体どういうことですか!」
「どういうことも何も、料理勝負をするのですから。様々な食材を揃えているだけですわ。わたくしの腕前を披露する絶好の機会ですし。安物の食材など使えませんわ」
「だからって限度がありますよ!」
たまらず俊介は叫んだ。
井川家では、兄妹が何不自由なく暮らせるだけの生活費をもらっている。
しかしそれは、いつも家にいてやれなくて申し訳ないという、両親の心遣いも入っているのだ。
だからこそ俊介は、出来る限り贅沢は控えることを心がけていたのだが……。
その決意が、全て無意味になった!
「和姫さんダメですよ! 貰った仕送りは自由に使っていいとのことでしたけど。せめて無駄遣いだけでも避けましょうよ。大体、料理なんてお腹に入れば何でも同じじゃないですか。それなのに、材料費だけでどれだけ……」
「――お兄様は黙ってらして?」
わめき立てる俊介の意見を、和姫は一言で切り捨てた。
その冷たい声に、俊介はゾッとした。
和姫は、本気だ。
本気で、恋華と戦うつもりなのだ。
「それでは、瀬戸内恋華さん」
ふいに、和姫が恋華に向き直る。
「うん?」
「そろそろ始めましょうか。心の準備はよろしいですか?」
その問いに、
「うん! いつでもいいよ!」
恋華は朗らかに、それでいて真剣な表情で答えるのだった。
その表情を見て俊介は思った。
恋華もまた本気なのだと。




