19お嫁さんにする? いいえ、しません!
4姉妹の注目は、一斉に恋華へと集まっていた。
力ずくで恋華の主張を無効化させることは勿論できるが、俊介の手前、できるだけ穏便な方法で引き下がらせたい。そう思っていたのだが――
「俊介君はね、自覚はないかもしれないけど、私以上に有名人なんだよ。頭が良くて、学力テストでは常に1位を取ってるし。可愛い顔してるから、女子の人気も高くて。だから狙ってる子も多いんだよ……って、そんなに睨まないでレイラちゃん? えっと、話を戻すね。俊介君はそれだけじゃなくて、凄く心の優しい人なんだ。当番でもないのに黒板のチョークを補充したりね。私はそんな俊介君を目で追っていく内に、次第に惹かれていったんだ。だから、告白をしたの」
事務的だった俊介の口調とは逆に、恋華は説き伏せるように優しく説明をした。
その説明は間違ってはいないが、本質ではない。
しかし、今の恋華の懸命に想いを伝えようとする姿は、誰の目からも本物と映るだろう。少なくとも、偽装の恋人同士だとは、誰も考えないはずだ。恋華の演技力の高さによるものなのか、それとも、本気で俊介のことを愛しているからなのか、それはまだ分からない。
「だからね? 私は俊介君のことが大好きで、これからもいっぱい仲良くしていきたいと思ってるんだ。こんな風にね」
ピッタリと。
恋華は俊介に抱きつき自らの腕と腕を絡ませた。
その瞬間、ざわざわっと妹達から声が上がった。俊介の腕に、恋華の程よい胸が押し当てられる。これも昨日メールで打ち合わせしたとおりだった。恋華が上目遣いで「ね?」と尋ねると、俊介は「は、はい」と答え、顔を引きつらせた笑顔で恋華の頭を撫でた。
その時――
「――認めないわ」
と言ったのは。
真紅の瞳で冷徹に恋華を見据える、レイラだった。
「瀬戸内恋華。あなたのようなビッチ女には、兄さんを渡さないわ。兄さんとわたしは運命共同体。わたし以外の異分子が兄さんと結ばれることなんて、あってはならないことなのよ」
「え……?」
恋華は、一瞬何を言われてるのか分からないという顔をしたが、すぐにハッと思いついたかのように、
「分かった! レイラちゃんって中2病なんだね!」
「誰が中2病よ誰が! ……コホン。とにかく、わたしが言いたいのは、あなたのようなリア充は、兄さんには似合わないということよ。もし、それでも兄さんに言い寄ろうと言うなら、この秘めたる右腕の魔力を解放して、あなたをこの世界から消滅させてあげてもいいのよ?」
「消滅って……。レイラちゃん、可愛いのに結構重症だね」
「ふ。井川レイラというのは仮の姿。わたし本来の姿は、神託を受けし火星の姫。ただの人間に、わたしの言うことを理解してもらおうとは思わないわ」
「……俊介君……?」
「ま、まあまあ。恋華さんもレイラさんも。ちょっと落ち着いて」
助けを求めるような恋華の視線を受けて、俊介は慌てて2人の間に割って入る。
中2病でクラスから常に浮いているレイラと、学校中の人気者の恋華とでは、まさに水と油のような関係と言える……というより、ぼっちのレイラにとっては、リア充は全員敵になるのだろう。
とりあえず、ここまでは俊介の予想どおりの展開だった。レイラとはこうなるだろうと思っていたので、特に落胆もない。今日は自己紹介だけ出来ればよかったので、受け入れられることまでは最初から望んでいなかった。
「ちょっといい? あたしも、反対!」
と俊介が思っていたら。美鈴が勢いよく手を上げて、
「お兄ちゃんは、あたしと結婚するんだよ? ちゃんと、子供のころお嫁さんにしてくれるって約束したもん! それなのに、いきなり出てきてお兄ちゃんの彼女だなんて! そんなのズルいよぉ~!」
「美鈴ちゃん……だったよね? でも、美鈴ちゃんと俊介君は兄妹だから、結婚は出来ないんじゃない?」
恋華が笑みを浮かべながら言うと美鈴は、
「そ、そんなことないもん! 兄妹って言っても義理なんだから! 結婚だって出来るし、子作りだって出来るもん!」
「んー。でも、それは美鈴ちゃんの考えだよね? 血の繋がりがないとはいえ、兄妹は兄妹なんだから。それでも結婚するってなったら、周りの反対も当然あると思うけど。美鈴ちゃんはその辺どう考えてるの?」
「そ……それは……。うう……お兄ちゃぁん……。あたしのこと、お嫁さんにしてくれるって言ったよね? 約束したよね……?」
美鈴は涙ながらに俊介へと問いかけた。
しかし、俊介としては当然イエスと答えるわけにはいかなかったので、心を鬼にして沈黙を守ることとした。俊介が俯きながら黙っているのを見て、美鈴の「そんなぁ……」という弱々しい声だけが、リビングに反響するのであった。




